勇猛果敢な初陣2
凄まじい戦いを繰り広げていて巨漢の男2人は楽しんでいるように見えた。
片方は兜をかぶりしっかりとした胴丸を身につけて戦国時代の将軍のような装備をしている。もう片方は平易簡明。ブリーフ姿のパンツ一丁だ。
――きっと何かの見間違えだ。こんな戦場にあんなのいるわけない。
ヴェルトは自分の目を疑う。目をこすり食い入るように見つめた。
――おいおい、うそだろ!?まじかよ!
苦渋の表情をしてガウンの元に駆け出した。
「父さん!」
敵を蹴り飛ばし距離を取った。
「なんでそんな格好してるんだよ!!」
パンイチの男は自分の父親だったのだ。
ガウンは裸足のブリーフ姿で上質な弓箭を背負い左右の手にはダガー(短剣)を持っている。
――しかもそのガタイで!?
「ヴェルト!?セレンは?」
「母さんは避難所にいるから大丈夫!」
安心してから真面目な顔つきに変わった。
「俺セレンに叩き起されて急いで家を出てきたんだ。それよりなんで避難しなかったんだ」
「一回避難したんだけどスケルトンが追ってきたから倒した時もっと戦いたいと思ってきちゃった」
目線を逸らし後頭部に手をやり「テヘッ」と笑った。
ガウンは息子の予想外の行動に頭を抱え「はあ」とため息を吐く。
スケルトンを倒せる程度の実力があることは知っているため期待をしたまま呆れたように言った。
「本当にお前は…」
「僕も戦わせて!」
「こいつだけはだめだ!スケルトンならまだしもお前に魔族はまだ早い!」
ヴェルトをとても真剣な眼差しで見つめる。
「そんなに強いの?」
「ああ。お前を守ってやれる余裕はない。早く逃げるんだ」
ガウンが蹴り飛ばした方向を見た。
相手はスケルトンジェネラル。Bランクの魔族でも上位層に位置していて片手には刀を持っている。
起き上がりこっちに向かい歩いてきた。
―たしかに見た目は強そうだけど。危なくなったら逃げれば問題ないだろう。
「自分の身はちゃんと自分で守るから。お願い」
目を見開き上目遣いをして頼んでみた。
ガウンは威圧的で鋭い目つきになった。
「いい加減にしろ!!ここは遊び場じゃねえんだぞ!相手は魔族、魔物とわけが違うんだ!」
怒号を飛ばし本気で叱った。いつもとは違う雰囲気と圧力にヴェルトは言い伏せられた。
――ガウンをここまで本気にさせ魔族がそこまで危険だとは思わなんだ。
「わかったよ…」
そう言い走り出すが、スケルトンジェネラルはヴェルトを見て口を開いた。
「自分から出てくるなんて好都合」
そう言い放たれた瞬間走り出していた足は止まっていた。
転生し初めての魔族に興味があることはもちろんの事だが、骸骨が低い声をだしこっちを狙っているかのように顔を向け喋りかけてくる。
――どういうことだ?
理解が追いつかず時が止まっている。それを察したようにこっちに歩きながら続けて喋り始める。
「我はお前を探していたのだ」
中身は中年だが見た目は子供。探されるようなことも人に迷惑かけるようなこともしてるはずがない。
ましてや魔族も魔物も今日初めて存在を知り目の当たりにしている。
「どうして僕を探すの?」
「深い理由などない。生け捕りにするためだ。我が主君にお前を探し、ここを襲うよう命じられた。それだけの話。」
――俺には深すぎる理由だろ!裏に誰がいるんだ?
ものすごい自分の意思で探してた。みたいな雰囲気を醸し出し喋ってくるスケルトンジェネラルを不満に思いしかめっ面をする。
「なんで僕を生け捕りにするの?美味しくは無いよ?消化器官なくない?腹減らないの?」
気になることが山ほどで頭の中が土砂崩れを起こしている。
無言でヴェルトを見つめる。
「主君は誰なの?どこから来たの?君より強い魔族もいるの?」
見つめ続けたまま喋らないで黙りきっている。
「黙秘権行使!?え?魂抜けた?」
――いきなりなんも答えてくれないじゃん。
間を開けてから口を開いた。
「ひとつだけ教えてやろう。我も魔物もお前を狙っている。何をしても無駄骨だ」
――じゃあ村襲われてるの俺のせいじゃん。病みそー。まずなんで俺狙うんだよ。
スケルトンジェネラルが動き出した瞬間ガウンが鋭く速い矢を数本放ちながら
「こいつに構わず早く行くんだ!」
目を合わせ黙って頷きすぐに走るが矢は大剣で切り伏せられる。
「逃がすものか」
そう言いスケルトンジェネラルは走っているヴェルトの、進行方向に素早く回り込み掴みかかられて心の声が漏れてしまう。
「うわ!骨のくせにはやっ!」
股下に飛び込み前転をして間一髪でかわした。
スケルトンジェネラルはすぐに身体を反転させ後ろから掴もうとするが、ガウンがダガーで斬りかかるのを即座に反応し剣で受け止めた。
――おしっこちびるって。
「ガキン!」
「ガハハ!やらせねーよ!お生憎様ヴェルト狙いなのは分かりきってるからな!」
「小賢しいヤツめ」
ヴェルトが逃げられるよう、隙を与えずに打ち合いを続け、時間を稼いでいる間に必死で走っている。
―目的が俺なら話も変わる。
ガウンの足を間違えなく引っ張ると直感でわかった。いつもは好奇心に従い思考を二の次にするが、流石にそこまで大馬鹿物では無い。この危機感には思考になんの迷いも無い。
スケルトンジェネラルはガウンを相手に生け捕りにするのは困難と考え打ち合っている中で
「仕方ない。やり方を変えよう」
2人が剣を交えながら動きを止める。
「何をする気だ」
「時間稼ぎなど無駄だと言うことを教えてやろう」
そう言うとスケルトンジェネラルはガウンを押し飛ばし、大剣を地面に突き刺す。雰囲気が変わり風が強く吹き紫色のオーラがモワモワと身体から出ている。そうすると声を出した。
「ヴェータラ・アヴァーハナ(屍霊の呼び出し)」
スケルトンジェネラルの横の地面に魔法陣が現れ、
下から上へと上がっていくと足元から見えてくる。
草鞋を履き全身黒装束で顔を覆っている。
スケルトンニンジャ。スケルトンジェネラルに仕えるCランクの魔物。
ガウンは目を見開き予想外のことに驚いた。
「こりゃたまげた。矢を使い切っちまった」
スケルトンジェネラルは度肝を抜かれた表情をする。
「馬鹿にしているのか?この状況で我を相手に小僧を守ることなどできまい。―あの小僧を生け捕りにせよ。痛めつけてもかまわぬ」
スケルトンニンジャにヴェルトを捕まえるよう指示を受け上半身を倒し両腕を後ろに真っ直ぐ伸ばして音を立てず素早く追いかけた。絶体絶命の状況かと思ったが
ガウンはあまり焦っていない。なんなら少し表情に余裕がある。
「早く我を倒さなくて良いのか?諦めたか?」
「何を言ってるんだ。お前らに魔力があるように
俺はプラーナがある」
「お前プラーナ使いか。見せてもらおう」
「言われなくてもそのつもりだ」
そう言うと息を吸いこみ吐き出す。
「エレフセリア」
身体から黄色い湯気のようなものが溢れる。
「エイドロンアウラ!」
横の地面が盛り上がり人の形に具現化していき分身が現れた。ガウンの黄色い湯気は分身へと移った。
「顔といい体といいやっぱり俺はかっこいいな!」
自画自賛にスケルトンジェネラルは呆れている。
「俺2号!ヴェルトを助けにいけ!」
スケルトンニンジャに追いつくであろう速さでヴェルトの方へ向かった。
「フハハ、実力は認めよう。だが、いつまで持つの
か見ものだな」
「いつまでも持たす。気持ちの問題だ!」
ガウンは余裕を装ってはいるものの魔物を倒しBランク魔族を相手に疲労が溜まっている。
「さあ、楽しませよ。マギキ・レピダ(魔の刃)」
刀身を手でなぞりながら言うと魔力が流れ刀の刃が紫色になっていく。
それに合わせガウンも目つきを変えて気合を入れた。
「ガハハ!ここからは本気で行くぞ!ペリヴォリ(纏い)」
プラーナで身体とダガーを纏う。
激しい打ち合いの真っ最中、徐々にガウンの動きが鈍くなっていく。
「はぁ。はぁ」
「お前限界が近いのではないか?」
「まだまだ序の口だ!」
ガウンのプラーナもスケルトンジェネラルの魔力も生命エネルギーに変わりは無いが、ガウンの状態には難点がある。
スケルトンジェネラルは召喚魔法で、魔力を一時的に使ってから魔力を刀に流して持続いる。
のに対して
ガウンはプラーナを自分の分身(操り人形に近い)に、具現化させて全身に纏っている。
それは持続的な消耗に、プラーナの繊細な操作で並外れた集中力を伴い、常に神経をすり減らす状態で戦っているのだ。
その頃ヴェルトは避難所の方角に逃げていた。スケルトンニンジャは足音1つ立てずに、後ろ追いかけているのをヴェルトは気がついて居ない。
――ガウンの戦いが気になるが今は邪魔になる。避難所を目指せば魔物がきてセレンや皆を巻き込んでしまうかもしれない。加勢にいくか?んー……
悩みながら走っているうちに後ろから何者かの気配を感じた。
――追っ手か。くらえっ!
くるっと振り向いたタイミングで正拳突きをお見舞いした。




