新たな場所で目覚めて1
「ん、んんー」
と唸り声をあげている。
数秒後に意識が戻ってきて、彼は大声をあげて飛び起きた。
「おらぁ!!!」
「おお! 俺もしかして土砂崩れ耐え抜いた!?」
そう言って周りを左右に見渡すが真っ暗で何も見えない。頭痛がひどく、立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「よし、もう一眠りしてから考えよう」
と言いながら目を瞑り眠りにつく。
1時間後に顔に水滴が落ちてきて目を覚ます。
――なんだ、また雨か。
そう思い、彼は起き上がり眠い目を擦る。だが、相変わらず真っ暗で何も見えない。雨音は聞こえない。雨は降っていないようだった。
――ここどこだろう。死後の世界?
立ち上がってから地面や壁を手探りで探す。
地面も壁もゴツゴツとしていて、硬い。
――ここはどこなのだろう。
壁伝いに歩き続ける。真っ直ぐと真っ直ぐと。
すると、奥に光が見えてくるので彼は光へと走り出した。
――何かがおかしい。毎日走っていたのにあまり前に進まない。
そう思いながら走り続けた。
段々光で周りが見えてきて、走りながら見渡すと洞窟だということに気がついた。
――なんでこんなところにいるんだ!?
と驚愕した瞬間、彼はつまずいて体が宙に浮き、転びながら外へ出た。
彼が転ぶのは数十年ぶりだろう
「いってて、まぶし! そしてここどこ!?」
彼の感情は忙しいようだ。
真っ暗で何も見えなかったので、久々に外へ出た気がした。
光で眩む目をこすりながら、辺りに木がたくさん生えていることを知る。
――ここは森か。鍛錬にはもってこいな場所だな。
服装を見ると道着のままだと少し安心した。道着を捲り転んだ時に擦った膝の怪我を見た瞬間また驚愕してしまった。
「俺のすね毛が……ない!」
膝の擦り傷より足の細さよりすね毛に目がいってしまったらしい。
――土砂崩れで、すね毛も持ってかれたのか。そんなこともあるんだな。
彼は顎に手をやり思案顔をする。
そして立ち上がったと思ったら、次はパンツの中を確認して、やはりと言わんばかりの顔した。
そこで、体が子供に戻っていることに気がつく。
彼はショックすぎるが故に
「まじか。。。」
という一言しか出なかった。
感傷に浸りながら涙目を擦った後、一旦深呼吸をして、両手で頬を叩き気を取り直す。
――この体では熊とも戦えないな。
注意しながら森の中を探索していると、どこからか煙が上がっている。
気になりその方角に行ってみると黄昏時に川辺に着いた。
川辺で焚き火を起こし魚を焼いている人が見える。
――大学生ぐらいかな?
金髪のスパイキーヘアで青い瞳、銀色の少しボロい鎧を纏っていて、傍らに剣を置いて座っている。
――なるほど、拗らせた剣道部ってとこか。
彼は、木陰に隠れて様子を伺っていた。が、お腹が空いていて魚にしか目がいかず
「ぐぅ〜」
とお腹が鳴ってしまった。
その一瞬ですぐに剣を握り、金髪の青年はこちらへ鋭い目つきで眉を顰めて視線を飛ばす。
「だれだ。出てこないなら今すぐ斬る」
――やばい、バレた。
忍足で逃げようとするが、当たらないよう進行方向に斬撃を飛ばしてきた。目先の枝が切り落とされる。
――えええ!何が起きたんだ!?
冷や汗を垂らしながら後ろを振り向く。
金髪の青年が立っていて、心配が吹き飛んだ顔をしている。
「ヴェルトじゃないか! ずっと探していたんだぞ!」
歩み寄り同じ目線になった時、金髪の青年はヴェルトの頭を撫でた。
「夕食の調達をして家に帰ったら、お前がいなくなったって母さんに聞いて急いで引き返してきたんだ」
――誰この人。イケメンで優しいけど、本当に誰??
口が少し開き、キョトン顔をしている。
それもそのはず、ヴェルトは転生しているため自分の兄だと分かるはずもない。
金髪の青年の名はゼイン・グレース。ヴェルトの実の兄で年齢は21歳。
「それにしてもどうして逃げようとしたんだい?」
理解不能な状況で混乱している。
――どうしよう。理由がない。なんて言えばいいんだろう。
頭が回らず、ヴェルトは戸惑いながら言った。
「さ、魚が逃げていったんだ」
次は、ゼインがキョトン顔をした後笑っている。
「あはは、魚は森に住んでいないよ。ヴェルトは本当に魚が好きだね」
――こんなあり得ない嘘信じるのか!?
疑われると思ったが大丈夫だったことに安心した。――こいつは馬鹿なのか?
と逆に疑った。
ゼインは落ち着いた声で話す。
「早く家に帰ろう。今日は、ヴェルトの4歳の誕生日だから見つかってよかったよ。ヴェルトが好きな魚を取ってきたんだ。お祝いしよう。プレゼントもあるんだよ」
と言いにっこりと笑った。
――この体4歳だったのか!
言われてみれば納得がいく。魚が森にいると言っても疑われないわけだ。
ゼインの目線がヴェルトの服装を不思議そうに見つめる。
「その服どうしたんだい?見たことない服だけど」
ヴェルトは焦ったように言う。
「迷子になって彷徨ってる時に拾ったんだ」
「そうか。似合ってるね」
と微笑んでいる。
ゼインに連れられて家に帰る道中、ヴェルトは考えていた。
――状況を整理しよう。まず、俺は前世で土砂崩れに飲み込まれ死んだ。そして、この子供に転生したようだった。名前はヴェルト・グレース。
見た目は白の道着に黒帯腰に巻いていて黒髪の短髪で緑色の瞳をしている。前世と同じく裸足。
年齢は今日で4歳。魚が好き。
この年齢なら疑われることも少ないが、逆に発言も気をつけなければならない。
きっと、ヴェルトは迷子になり洞窟の中にいたのだろう。そして何よりこの服。この世界に道着はないのだろう。どうやら俺の意識と、毎日着ていた道着だけがこの世界に来たんだな。
ゼインと歩き続けると木で出来た門があり、
その先に女性何人かが集まっているのが見えた。
「ほら、母さんが待っているよ」
――一夫多妻制!?
門をくぐると女性が涙をこぼしながら駆け寄ってくる。抱き上げて力強く抱きしめて頬を擦り寄せる。
――これは嬉しい!が、まずい。過去に女性経験のない俺には刺激が強すぎる!顔が熱い!
「ヴェルト!無事でよかったわ。ほんとに、心配したのよ」
数人が集まってきて、1人の女性が
「セレン、よかったわね!」
とヴェルトを抱き上げている女性に言っている。
――なるほど。彼女が母親で、名はセレン・グレース。年齢は40歳。金髪ロングで緑色の瞳をしている。灰色のワンピースを着ていてとても美人だ。そして暖かい人なんだろう。年上が好きな前世のままなら確実に惚れていた。
セレンの心配がすごく伝わると自然に涙が溢れてきた。見ず知らずの世界に対する不安が和らいだ気がした。
「森は危険なのよ。どうして1人で森に入ってしまったの?」
わからないことを聞かれて何を言えばいいのか戸惑っていると
「俺のことを追いかけて森の中に入って迷子になったみたいなんだ」
ゼインのナイスカバーが入り、セレンに見えないよう小さく、ヴェルトに親指を立てた。
それに対して親指を立て返す。
セレンは抱き抱えていたヴェルトを地面に下ろし
「本当にヴェルトはお兄ちゃんが好きなのね」
セレンは手を口に当ててクスッと安心したような微笑んでいる。
「さあ、夕食にしましょう。ヴェルトの誕生日だから腕によりをかけたご馳走よ。2人ともたくさん食べてね」
「ぐぅ〜」
とまたお腹が鳴る。
セレンが嬉しそうに笑う。
「うふふ。楽しみにしといてね」
「うん! たのしみ!」
ヴェルトはウキウキしながらセレンと手を繋ぎ、ゼインと3人並んで家に向かっている途中に、
村にある家をキョロキョロと見渡した。
家の見た目は石置屋根で壁や玄関は木造、江戸時代のような作りになっている。
家に着き、玄関に入る。
家の中は、江戸時代と違い、畳や囲炉裏はなく、床や壁は見た目と同じ木造で、広くはない1LDKといったところだろうか。
ずいぶん前世とは違う家、タイムスリップした気分になり、少しだけ胸が躍った。
そして、テーブルと椅子がありテーブルにはご馳走が並んでいた。
ご飯、味噌汁、魚の煮物、少しおしゃれなムニエル、サラダに、ハンバーグ、唐揚げ。
決して、裕福な家庭ではないはずだ。
――誕生日だから奮発してくれたのだろう
心が暖かくなるのを感じる。
「すごく美味しそう! いただきます!」
セレンの作ってくれたご馳走にがっつくヴェルト。
「そんなに急いで食べると喉に詰まらせちゃうわよ。ほんと誰に似たのかしらね」
嬉しそうに微笑みながらヴェルトを見つめている。
すると、ゼインがヴェルトに優しい笑顔で近づいてくる。
「ヴェルト、誕生日プレゼントだよ」
両手で丁寧に袋を渡され、中身を出すと靴が入っていた。誕生日プレゼントなんていつぶりだろう。
嬉しくて仕方がない。
「ありがとう!たくさん大事履くね!」
ヴェルトの目を輝かせた嬉しそうな顔見ると、ゼインは満足げに頷いた。
――前世ではよく履き忘れていた靴だがもう忘れないだろう。早速明日から履いてランニングしよう。
食事を再開して、3人で仲良くご馳走を食べ終わった頃。
ヴェルトは子供の体になり、いきなりの出来事で疲れていたのだろう。
気を失うように倒れた。気持ちよさそうな顔で眠りへ落ちていくのであった。




