⑳ 加養宿・古沢宿への進撃
戦国常陸最強の不死鳥・小田氏治からの超難関ミッションに挑む、宍戸義綱と永田重兵衛…
しかし…何やら宍戸勢の動きがおかしい…
やがて、重兵衛が下した、ある決断とは…?
それでは、どうぞ、ごゆっくり、本編をお楽しみ下さいませ…
宍戸・豊田連合軍は、夜明け前に、下妻多賀谷の領内に侵入していた…
(静か過ぎる…)
私は嫌な予感がしていた…
(歴史上…この奇襲作戦は…政重様が大怪我をする事になっていた筈…)
(だが今回、歴史は…名代である私の命を…先ず第一に狙ってくるだろう…)
(しかし…私が何とか難を逃れたとしたら…)
(歴史は…きっと…宍戸義綱殿の命を狙う筈…)
(歴史上では…確か…宍戸殿は…来年(1562年)…御屋形様を裏切って…上杉・佐竹側に寝返る筈なのだ…)
(なので、宍戸殿には気の毒だが……)
(ここは何としても…難を逃れなくては…)
私は大磯殿に、そっと耳打ちした…
「この奇襲作戦は恐らく失敗です…」
「何と?!」
「恐らく…もう相手に気付かれているでしょう…」
「何故で…御座りますか…?」
「もう加養宿です…ここは多賀谷にとっても相当大事な場所の筈…にも拘らず…ここに番兵一人居ないのは…些か変ではありませんか?」
「成る程…左様に御座りますな…」
「恐らく、もう、囲まれています…」
「何と?!」
「大磯殿、宍戸勢には気付かれぬ様に、豊田・石毛・袋畑勢の皆に伝えて下さい…此度は相手を倒すことよりも、身を守るが大事!皆、絶対に死んではなりませぬ!少しでも危ないと思ったら…此度は逃げるが勝ちじゃ!家族の為、殿の為…此度は一人も死んではならぬぞ!と…。」
「はぁっ!心得ました!!」
少しして、宍戸殿がやって来た…
「永田殿、ここからは…土地勘のある御主達に先陣を頼みたい!!」
「はぁっ!心得ました!豊田・石毛・袋畑の勇者達よ!参るぞ!!」
私達は先陣を切って加養宿から古沢宿に入って行った…
やがて、千代王が前肢を上げて嘶いた…
多賀谷勢の待ち伏せである…
「やはり、もう気付かれていたようですね…」
「はぁっ…如何いたしますか…殿?!」
「取り敢えず私が突っ込みます…皆さんは適当にいなしながら身を守って下さい!」
「殿にだけその様な事はさせられませぬ!」
「大丈夫です、私も突っ込むだけで、直ぐ逃げて参りますから心配要りませぬ!大磯殿は袋畑の方々を一人も死なせては成りませぬぞ!!それでは派手に立ち回って、一芝居打って参ります…」
「と…殿ぉ…」
私は千代王と共に敵陣に斬り込んで行った…
「殿ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「おぉっ!安兵衛殿っ!来ては成りませぬっ!!」
「殿っ!殿だけを行かせる事など、この安兵衛には出来ませぬっ!!それと、殿っ!某共の名を呼ぶ時は『殿』を付けないで下されっ!!安兵衛で良いのです!!!安兵衛でっ!!!!」
「相分かった…安兵衛っ!」
「そうです!それで良いのです!!」
霧の向こうに1,000…否…1,500は居るのか…?
中央に白井全洞…そしてその横に…
やはり居た…黄金の甲冑を身に付けた侍が…
「殿っ!あいつら…殿の甲冑をっ!!」
「その様ですね…」
「殿っ!如何しますかっ?!」
「安兵衛は、此処に居て下さいっ!」
私は千代王を止めた…
「我こそは豊田家家臣永田重兵衛常充であるっ!当家の家宝を盗み取り、身に纏うとは不届き千万!!天に居らせられる八幡太郎様に成り代わり、成敗いたす!!」
「ふっふっふっふっふっ…それはどうかのう、永田殿?!黄金の甲冑無しでは、いつもの様に雷神の如き働きは出来まい…?」
「安兵衛、これは命令です!私が前に出ても、あなたは、ここを動いては成りませぬっ!!良いですね?!」
「はぁっ…しかし…殿っ!」
「しかしも、かかしも有りませぬ!良いですね?!」
「はぁっ!!」
私は頷き、千代王と共に敵陣に斬り込んで行った…
その瞬間…稲妻が天空を切り裂き…雷鳴が地に轟いた…
と、同時に、千代王の首差しから大きな羽が生えてきて…
私と千代王は宙を舞った…
安兵衛は口をあんぐりと開けたまま、空中を見上げた…
「な…何と言うことじゃ…殿は…やはり…雷神の遣い…?…否…殿は…雷神様…そのものじゃ…」
私は空中で千代王に跨がったまま、太刀を抜き、頭上高く天にかざした…
太刀先から火花が散り始めた…
徐々に火花は激しさを増してきた…
私は空中から、黄金の甲冑目掛けて太刀を振り下ろした…
閃光が走り…黄金の甲冑は粉々に砕け散った…
身に付けていた侍は無事な様だったが、腰を抜かして呆然としていた…
白井全洞も呆気に取られて尻餅を着いていたが、首を振りながら立ち上がった…
「何をして居る…早く矢を放つのじゃっ!早く!矢を放てぇっっっっ!!」
無数の矢がビュンビュン飛んできた…
私は矢を避けながら再度、太刀を天にかざした…
太刀先から、より一層激しく火花が散り始めた…
私は敵陣最前線の地面目掛けて、今度は思い切り太刀を振り下ろした…
ズッドーーーーンッ!!!!!!!!
爆音を立てて、地面が激しくめくれ上がり、砂埃が舞い上がった…
多賀谷勢はパニック状態に陥っている…
(今しかないっ!)
私は千代王と共に地表に降り立ち、叫んだ…
「今です!安兵衛、逃げましょう!!」
「しかし…殿…これからじゃないですか?!」
「良いから、さぁっ!」
私は安兵衛の手を取って、千代王と宙に舞い上がった…
「す…すげぇっ…飛んでるっ!」
自陣近くで私達は地表に降り、走って自陣に戻った…
「宍戸様っ!」
「どうした?永田殿?!」
「もう、敵に、ばれて、待ち伏せされておりました!その数およそ1500!!我が方、完全に押されて居りまするっ!どうか一刻も早く御加勢を!!」
「相分かった…宍戸の猛者達よ!参るぞ!!」
ザッザッザッザッザッザッザッザッ…
「何か覇気が無いな……んっ?!まさかっ?!…もう寝返っているのか?!宍戸勢は…?」
私は様子を窺いながら、宍戸勢に混じって前線まで戻った…
(しかし…もう寝返っているなら…御屋形様を途中で討てた筈……迷われているのか?…宍戸殿……)
数に勝る多賀谷勢が、体制を立て直し、押し込んできていた…
覇気の無い宍戸勢が加わった処で、形勢逆転などする筈もなく…
(勇猛な筈の宍戸勢が、これでは御味方達が危ない…)
「宍戸様、皆、海老ヶ島城の疲れが残っておりますな?」
「左様…御屋形様は…ちと…人使いが荒う御座る…」
(これは…もう…寝返るつもりだな…)
私は大磯殿を見付けた…
「大磯殿、宍戸様は迷っておられるが…恐らく寝返りの時を探って居られる御様子…このまま戦って居ては我等が危のう御座る!」
「殿、如何致しますか?…それと殿、某を呼ぶ時は、『殿』を付けるのは御止め下され…内蔵助と御呼び下されっ!」
「あ…相分かった…く…内蔵助……内蔵助っ!もう一度、私が派手に立ち回ったら、それが撤退の合図です!全軍退却と叫んで下さい!!」
「はぁっ!承知仕りました、殿っ!!」
私は千代王と共に白井全洞を探した…
敵の後詰めが入ったのか?敵の数が増えている…
しかし、流石…内蔵助、安兵衛、源蔵、梶右衛門…皆、相当な強者だ…
私は袋畑勢の頼もしさを見届けて、敵の槍や刀を躱しながら、漸く白井全洞の本陣に辿り着いた…
「まさか御主が来るとは思わなんだが…黄金の甲冑無しでな…しかもその様な出で立ちで…まるで火消しか何かか…?」
「残念ながら政重様は来ぬぞ!大方、宍戸様を唆して、寝返りの腹を探りながら、政重様を討つ…と言う算段であったのであろう?」
「左様…しかし…石毛殿の代わりに…御主の首を貰い受けることにしよう…ふっふっふっふっふっ…」
「白井全洞…他人のものを盗んでおいて、よくもその様な大口が叩けるな?!」
私と千代王は、白井全洞に襲い掛かる振りをして、大きく宙に舞った…
「内蔵助っ!!」
すると直ぐに大磯殿が叫んだ…
「全軍退却っ!全軍退却じゃぁっ!!」
私は空中で、豊田・石毛・袋畑勢が退却して行くのを見届けながら、追いすがる下妻勢の近くに稲妻弾をお見舞いして、撤退のアシストをした…
何も知らされていない宍戸勢は総崩れとなり、宍戸義綱殿も、どうするべきか決めあぐねている御様子…
私は千代王と共に地表に降り、宍戸殿の処へ行った…
「宍戸様っ!如何なされた?!早く退却致しましょう!!このままでは敵の数に飲み込まれます!!」
「永田殿…すまぬ…わしは…敵の…白井全洞と通じて…政重様を討とうとして居ったのじゃ…しかし…此度は御主が参ったので……はっきり言うて、このまま御屋形様の下に居っては…いつ…上杉・佐竹に飲み込まれるか知れん……しかし…御主のような者が未だ家臣に居るのかと思い……御主と共に…もう一度、戦い…白井全洞を討ち取ろうか…どうするか…」
「それで良いのです…宍戸様!御屋形様の為に、もう一度…共に戦いましょう!!ただ…今は逃げましょう!御屋形様の為にも…宍戸様…死んでは成りませぬっ!!」
「…永田殿…相分かった…しかし、ここは其が殿を務める故、御主は早く逃げるのじゃ!御主こそ絶対に死んではならぬぞっ!!御屋形様の為にも…なっ…」
そう言って、宍戸義綱殿は、少し笑った…
「はぁっ!忝のう存じます、宍戸様っ!」
「さぁ…早う行くのじゃ!」
「御免っ!」
私は千代王と共に、最前線から退却していった…
後方では宍戸殿の勇ましい声が響いていた…
「宍戸の勇者達よ!我等は殿の大役を持ってこれより退却致す!多賀谷を欺く遊びはここらで終いじゃっ!!全軍退却っ!!!」
私は馬上で涙した…
(流石、海老ヶ島城奪還をやってのけた強者!宍戸義綱殿…どうか無事に戻って下されっ!!)
「安兵衛っ!大事無いかっ?!」
「はぁっ!殿もよくぞ御無事でっ!!」
「うむ、大磯殿も無事で良かった!」
「殿っ!内蔵助で御座る!」
「あぁ、そうだった…すまぬ、内蔵助っ!」
「はぁっ!」
「さぁ、皆っ!全員無事で吉沼に戻るぞっ!!誰一人死んではならぬっ!!!」
「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」…
「殿は、宍戸様が、しっかり務めて下さっておる故、我々は皆、無事に吉沼に戻ることが務めであるっ!!」
「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ!」「はぁっ」…
宍戸勢の奮闘のお陰で、豊田・石毛・袋畑連合軍は、何とか、数名の怪我人を出しただけで、昼前には、吉沼の栗崎城に辿り着いたのだった…
「いやぁ、何とか無事に戻れたのう?!」
「宍戸様のお陰じゃ…」
「それと、殿の御判断も迅速で正しかった!」
「左様、それが一番じゃ!多賀谷の後詰めが、どんどん参って居ったからな…」
と、その時…城内から握り飯が運ばれてきた…
「皆、大義であったな?」
政重様である!
「これはありがたい!」
「腹が減った処で御座る!」
「政重様、有り難う御座います!」
「うむ、重兵衛…良う無事に戻った!」
政重様は、私をギューっと抱き締めてくれた…
「あ…有り難う御座います!政重様…しかし…」
「宍戸義綱殿の事であろう?」
「はい…宍戸様が殿を買って出て下さって、甘えてしまいました…」
「たった今、宍戸勢から伝令が来て、宍戸義綱殿は白井全洞と刺し違えて討ち死に…しかし…残念ながら…白井全洞は…急所が外れて…未だ生きておるらしい…」
「何と…」
「気にするでない重兵衛…宍戸義綱殿は、御屋形様の家臣らしい…勇猛な最期であったと…言うことじゃ…」
「はぁ…しかし…」
「御主の気持ちは分かる…わしも同じ気持ちじゃ…わしの身代わりになったのだからな…?」
「はぁ…」
「忘れるのじゃ重兵衛!じゃが…宍戸義綱と言う忠義の武将が居った事は決して忘れてはならぬ!!」
「ははぁっ!」
私の目から涙が溢れた…
政重様も下妻の方を見ながら鼻をすすっていた…
「この仇は必ず取る…」
「はぁっ!」
「しかし…重兵衛、これ迄に…右京、掃部、そして此度の宍戸殿と…我々の味方から三名が討ち死に致したが…」
「はい、恐らく…外記様、与五郎殿、道鎮殿の替わりだったかと…」
「武藏守のは…どうなんじゃ?」
「はい…恐れながら、これからかと存じますれば…政重様、充分にご注意を!」
「うむ…そうじゃな…御主もじゃぞ!!」
「はぁっ!」
同じ頃、下妻城内では大騒ぎになっていた…
「全洞!しっかりしろっ!全洞っ!!目を開くのじゃっ!」
多賀谷政経は、必死の形相で、白井全洞を見守っていた…
「殿…」
「全洞っ!死んではならぬぞっ!!全洞っ!!!」
「殿…ちと…油断しました…」
すると、医者が言った…
「傷は急所を外れて居ります、心配御座らぬ、ニ~三日、横になって居れば、直ぐに元気になられるでしょう!」
「そうか?先生、間違いないな?!」
「はい、殿、御案じ召さるな…」
「そうかっ!全洞っ!!悪運の強い奴めっ!」
「それだけが…其の取り柄に…御座る!」
「はっはっはっはっは…全洞っ!良かった!!ニ~三日ゆっくり休め!!わっはっはっはっは…」
「ははぁっ…申し訳…御座いませぬ…」
横になりながら、白井全洞は一人で考えていた…
「まさか…此度も永田重兵衛が参るとは…しかも、宍戸入道めっ…裏切りおって…永田重兵衛常充…何でもお見通しなのか…?…何故に…?…しかも…此度は…黄金の甲冑無しでも…あの様な力を発揮するとは……あの者とは…いくら戦っても…勝てぬのか…?…まさか本当に…雷神の遣い…?…いや…そんな筈は無い…何か…きっと…からくりがある筈…きっと……しかし…一体…何故に…いつでも全てお見通しが如く…やって来おるのか…?…一体…あ奴は…何者…?……」
(次回につづく)
残念ながら御屋形様からのミッションは、多賀谷にバレていました…
重兵衛以下、豊田・石毛・袋畑勢は、命からがら吉沼の栗崎城に引き返して参りましたが…
殿を買って出てくれた、小田家家臣・宍戸義綱殿が犠牲になってしまうと言う、非常に後味の悪い結末となってしまいました…
今回の、私の妄想キャスティングは…
宍戸義綱…宇梶剛士さん!
最後まで忠義と裏切りの狭間で苦しむ難しい役です…
宇梶剛士さんなら必ず、この難しい役もこなしてくれる筈!
皆さんは、どんな方をイメージされたのでしょうか?
さて、次回は、「五家・千本木の戦い」と言う大きな戦に向かって参ります…
次回も「つぐみ龍の伝説」に、どうぞ御期待下さい!!




