⑯ 下栗・袋畑の戦い (後編)
稲妻が天空を切り裂き、雷鳴が大地に轟く時…
愛馬・千代王に跨がり、黄金の甲冑から火花を散らして、永田重兵衛常充が敵陣に斬り込んで行く…
令和の時代から、戦国時代の南常陸豊田郷にタイムスリッブしてしまって以来、人並外れた跳躍力と怪力を授かった重兵衛…
今回は遂に、あの怪物の様な商売金坊の兄弟との決着戦となります!
果たして重兵衛は、熊蔵・虎蔵兄弟から大切な仲間達を守りきる事が出来るのでしょうか?
それでは、本編をどうぞ、お楽しみ下さいませ…
袋畑城主・袋畑右京殿は、虎蔵の丸太攻撃に手を焼いている様子だった…
「右京殿っ!見事な二刀流で御座るっ!!」
「おぉぉっ!重兵衛殿っ!!良くぞ参られた!!!某では、ちと歯が立たぬようじゃ…」
「何の右京殿、この者と、ここまで渡り合える手合いは、そうは居りませぬぞ!流石で御座るっ!!」
「いやいや…防戦一方で御座るよ…そろそろ替わって貰えんか?重兵衛殿っ!」
「心得申した…少し休まれよ、右京殿!二刀流、見事で御座った!!流石、袋畑城城主に御座る…」
「忝ない…重兵衛殿…頼むぞっ!」
私は頷いて、一歩、二歩、三歩と前に出た…
「大分、元気になったようじゃな?!虎蔵殿…」
「ぐっふっふっふっふっ…待ってたよぉっ…永田重兵衛殿ぉっ!もう負けないよぉぉぉっ!!」
そう言って、虎蔵は、力任せに丸太を投げつけてきた…
「おっと、なかなか良いコントロールをしているな?」
丸太が、そこら中に転がっている…
「なぬっ?!こんぺいとう?…ぐっふっふっふっふっ…おめぇの、お陰で、丸太が、いっぱい、あるどぉっ…」
そう言って虎蔵は、もう1本、丸太を投げ込んできた…
避けるのは簡単なのだが…
私が避けると、後ろにいる御味方衆に当たってしまいそうだった…
私は高く飛んで、虎蔵の向こう側に降りた…
「永田重兵衛ぇっ!小癪なぁっ!!」
虎蔵は次から次へと丸太を放り投げてきた…
私はヒョイヒョイと避けて見せた!!
「うぬぅぅっ…」
虎蔵は、両手を広げて襲い掛かって来た!!
私は素早く虎蔵の懐に潜り込み、右腕を両手で抱え込んで、タイミング良く、一本背負いで投げ飛ばしてやった…
「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」
戦場が、どよめいた…
「己れぇぇぇっ!永田重兵衛ぇぇぇぇっ!!」
また両手を広げて襲い掛かって来たので、今度は左手を抱え込んで、逆一本背負いで投げ飛ばしてやった…
「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」
面白いように、背負い投げが極った…
虎蔵は、肩で息をしている…
「はぁっ…はぁっ…おめぇは…いったい…何者…なんじゃ?…はぁっ…はぁっ…」
「もう知っているだろう?某は…第二十代豊田家当主・豊田安芸守治親様の家臣、永田重兵衛常充である…虎蔵殿、先程は、石毛次郎政重様の温情により、助けてやったが…今度は、伊古立城主伊古立掃部殿の仇を取らせて頂く…覚悟いたせっ!」
「うるせぇぇっ!!おらが、おめぇみてぇな小っせぇのに負ける訳ねぇべなぁぁっ?!ぶっ殺してやっとぉっ!!」
虎蔵が、懲りずに両手を広げた瞬間…
私は身体をヒョイっと捻って、素早く半身になり、虎蔵の両脚に水面蹴りをお見舞いした…
虎蔵は、顔からバターンッと倒れて、顔面を地面に強打していた…
そして、鼻から血をダラダラ流しながら立ち上がった…
「おべぇっ…今っ…何やっだぁぁっ??」
「虎蔵、戦いは身体の大小で決まる訳では御座らぬ…誰の為に…何の為に戦うのか?その気持ちの強さ次第で、勝敗は決するもの…と某は思う…某は殿の為、大切な友の為に戦い抜く所存…。御主は、いったい、何の為に戦って居るのじゃ?!」
「な…何の為にだとぉっ?金の為に決まってっぺよ!!」
「では、何の為に金が必要なのじゃ?」
「生きる為に決まってっぺ!おめぇ馬鹿か?!」
「御主は、もう、これ迄に充分、金は稼いできた筈であろう?」
「金は、いくらあっても良いもんだっペ?!でも今日は、おめぇの、その、金ぴかの甲冑を貰いに来たんだぁっ!!」
「欲深き商売金坊め…成敗いたすっ!」
私は太刀を抜いた…
「やれるもんなら、やってみなぁぁぁぁっ!!」
そう言って、懲りずに虎蔵は、丸太を振り回してきた…
私は目を瞑ったまま、いとも簡単に避けて見せた…
稲妻が天を切り裂き、雷鳴が地に轟いた…
私が太刀を低く構えた時、黄金の甲冑から火花が散った…
瞬間…私の太刀に閃光が走り、虎蔵の丸太は粉々になっていた…
「お…おめぇは…やっぱり…雷神の…いや…そんな…そんなこと…あるわけねぇべぇぇぇぇっ!!!」
そう言って虎蔵は、また、丸太を掴もうとしたが…
私の太刀先に、また閃光が走り、その丸太も木っ端微塵に砕け散ってしまった…
戦場は異様な空気に包まれていった…
「やっぱり…あの方は…雷神の御使い…だったんだ…」
「いや…あの方こそが…雷神様…なんじゃねぇか?」
「只者じゃぁねぇ…とは…思ってた…けどな…」
「全く信じられねぇ…丸太が…次々と…粉々に…」
「重兵衛様は…本当に…雷神様の御使い…だったのか?」
「いや…重兵衛様が…本物の…雷神様…なんだっぺよ…」
私は自分でも、自分がしていることが信じられなかった…
「虎蔵っ、覚悟いたせっ!」
そう言って、私は太刀を頭上に構えた…
物凄い雷鳴と共に、稲妻が空を切り裂いて、私の太刀先に物凄い閃光が走った…
私は、そのまま、呆気に取られている虎蔵目掛けて、思い切り太刀を振り下ろした…
「ホッ…ホゲェェェェェッ…」
虎蔵が、最後の雄叫びを上げた後…
その身体は、一瞬にして木っ端微塵となり…
引き裂かれた肉片が、四方に飛び散っていった…
グシャッ…ブシャッ…ブシューッ…グチャッ…ベチャッ…
最後に首から上だけとなってしまった虎蔵は…
何とか渡辺長門殿の目の前に着地して見せた…
が、何か言いたそうに唇をヒクヒクさせて…
目を見開いたまま、惜しくも左側に転がって…
その最後の任務を終了した…
「な…な…何と言う…何と言うことじゃっ?!」
渡辺長門殿は尻餅を付いた…
「ひ…ひ…退けぇぇぇぇっ!退くのじゃぁぁぁぁぁっ!!全軍…直ちに撤退じゃぁぁぁぁっ!!」
多賀谷勢が慌てて撤退していく様を見て、飯見大膳殿の号令が響いた…
「豊田の勇者達よ!多賀谷勢を逃すでないぞっ!!伊古立の精鋭達の弔い合戦じゃぁぁぁぁっ!!!」
「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉっ!」
私は方々に砕け散った虎蔵の亡骸を見つめながら…太刀を鞘に収めた…
最後の任務を終えてもなお…目を見開いて…私の方を睨んでいる…虎蔵の目蓋を閉じてやって…手を合わせてから…私は掃部殿の御遺体の側に戻った…
「掃部殿…あなたは…いつも…勇敢でしたなぁ…伊古立の皆さんは…いつも実に統制が取れていて…某は…いつも…伊古立に参ると…感服いたして居りましたぞっ…掃部殿…掃部殿ぉっ…某は…もっと…殿の為に…豊田の為に…あなたと…働きとう御座りましたぁぁぁぁっ……」
私の涙が、掃部殿の頬にこぼれ落ちた…
何となく、掃部殿が微笑んで、頷いてくれたような気がした…
私は涙を拭い、両手を合わせてから、逆サイドの政重様の元へ千代王と共に戻った…
唐崎勢も合流しているようだった…
「政重様っ!」
「おぉっ!重兵衛ぇっ!多賀谷の奴ら、撤退して行きよるな?!」
「はぁっ!」
「御主、何かやりよったな?!」
「はぁっ!虎蔵めを成敗いたしました!」
「うむ!良うやったぁっ!」
そこへ、伊古立勢の生き残りの侍がやって来た…
「政重様に申し上げますっ!」
「おぉっ!御主は掃部の処の…」
「はぁっ、我が主、伊古立掃部討死…某以外の伊古立勢も皆…討死…、しかし、永田重兵衛様に、我が主以下、伊古立勢の仇を討っていただき…某…某…。」
「うむ!よう働いてくれたなっ!掃部以下、伊古立勢の勇敢さ…この石毛政重、終生忘れはせぬぞ!!確か…御主は…吉右衛門と申したな?ゆっくり傷を癒せよ!」
「ははぁっ…」吉右衛門さんは、涙を流して政重様を見上げていた…
私は思わず、吉右衛門さんの肩に手を置いて話しかけた…
「吉右衛門殿、良う御無事で戻られました!伊古立の方々は、某にとって御手本の様な方々でした…いつも素晴らしく統制が取れていて…勇敢で……きっと、皆さんが、天国から吉右衛門殿を見ていて下さいますよ!さぁ、涙を拭いて、殿の為、伊古立の為、共に戦いましょうぞ!!」
「重兵衛様ぁっ!おらを…おらを重兵衛様の家来にして下されっ!!」
「それはならぬぞ吉右衛門!」
「政重様っ!何故にござりますかぁっ?!」
「御主は伊古立の地を守るのじゃ!」
「おら一人では無理だっぺよぉっ!」
「安心せぇ、吉右衛門!然るべき者を伊古立に参らせる故…なぁに…御主も良く知っておる…掃部と親交の厚かった者を参らせる故…な…そんなに心配するな、吉右衛門!」
「はぁ…」
「そ奴と共に、伊古立を守っていってくれよ!頼んだぜ…吉右衛門!!」
「はぁっ!」
「何やら、また騒がしくなってきた様じゃな?」
「多賀谷勢が、やや盛り返して来ているような…」
「んっ!あれは…熊蔵?…生きて居ったのか?!」
「永田重兵衛は何処じゃぁぁぁぁっ?!永田重兵衛常充ぅぅぅぅっ!!うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!!」
熊蔵が、例のこん棒を振り回しながら、此方に向かってきていた…
私は千代王に飛び乗って、熊蔵の処へ向かった…
「熊蔵っ!某は此処じゃっ!!豊田の侍は逃げも隠れも致さぬっ!!」
「己れっ!永田重兵衛ぇっ!てめぇっ、よくも弟を殺ってくれたなぁっ?!絶対許さねぇぞぉっ!!」
熊蔵は両手に各々、こん棒を持っていた…
野球のバットの様に握るところが細くなっていて、これ迄の物より、やや小振りだが、びっしりと鉄の鋲が打ち込まれていて、鉄環の巻き金がグルグルに巻かれている…
私は呟いた…「こいつも二刀流か…」
「相わかった…熊蔵、今度こそ決着を付けようぞ!某は、尊敬する殿と大切な友が暮らす、この地を守る為、侵略してくる者は決して許さぬっ!」
私は千代王から降りて太刀を抜いた…
稲妻が天を切り裂き、雷鳴が地に轟き、私の黄金の甲冑からフワッと火花が散った…
熊蔵は、両手のこん棒を手首でグルグル回しながら、私の方へジリジリ近づいて来た...
私は太刀を低く下げて構えた…
すると、天空に又、閃光が走り、私の黄金の甲冑から、ブワーッと更に激しい火花が散った…
「何が雷神の御使いじゃぁぁぁぁっ!!」
熊蔵が左手のこん棒を真上から振り下ろしてきた…
私はスウェイして避けたと思ったら、左からフックのように右手のこん棒が飛んできた…
ガシャッ…
私は避けきれず、左脇腹に激痛が走った…
と、同時に熊蔵も…
「うがぁぁっ…がっがっがっがっがっ…」
と呻いて、痙攣しながら踠いていた…
それを見ながら私は、身体をゆっくり動かしてみた…
幸い、左脇腹はそれ程痛くはなかった…
(どうやら、こん棒の鋲か鉄環が、私の甲冑の胴を掠めたらしい…)
(恐らく…その時、熊蔵は感電したのであろう…)
(今が好機!)
と思ったが…
熊蔵がヨロヨロと起き上がってきたので…
私は、こん棒を2本共拾って、熊蔵に放ってやった…
「さぁ熊蔵、掛かって来い!勝負じゃっ!!」
熊蔵は、こん棒を2本共拾い、何とも言えない顔をして私を見つめていた…
戦場は、私達の勝負に釘付けとなった…
「何と正々堂々とした振る舞いなんじゃ…」
「東武士の鑑じゃな…」
熊蔵は何かを覚悟したような顔をして、両手にこん棒を持ち、両腕を天に掲げた…
「うぅぅうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「まるで本物の熊みたいだっぺ!」
「んだぁ、雷神 対 熊 だな?!」
「うぅぅうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
熊蔵は両腕を挙げたまま雄叫びを挙げ続けている…
「熊蔵…御主…気が狂ったか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇどぉっ!化け物を相手にすんだから、おらも化け物になる他あんめぇな?!」
「くっ…某は化け物では御座らぬっ!」
「豊田家家臣永田重兵衛常充…だっぺ?」
「うっ…」
「皆ぁ、こいつ化け物だよなぁっ?!身体から火花出したりよぉ、稲妻を刀で操ったりよぉ、普通の人間に出来ることじゃぁねぇべなぁ?!」
「それを雷神様と言うんだっぺよ!」
「んだぁ、それは雷神様だから出来んだっぺ!」
「化け物じゃねぇな、雷神様だな!」
「うぬぬぬぬ、うるせぇぇっ!おめぇ等っ、わしをいつも化け物呼ばわりするくせに、こいつだって立派な化け物じゃねぇかぁっ!!」
「いんや、この方は雷神様の御使いか、本物の雷神様か、どっちかだっぺよ!」
「んだんだ、やっぱり重兵衛様は雷神様の御使いだっペ!この方は、自分の為ではなく、殿様の為、大切な仲間達の為に戦ってるんだぞっ!!」
「それに比べて、この商売金坊はと来たら、銭金の為に戦ってると来たもんだ!」
「う…うるせぇっ!銭金の為に戦うのが何処が悪いんじゃ?!しかもなぁ…今度は、おらも弟の敵討ちだかんなっ!こいつと同じだっペよ!!」
「そこまで言うなら、某、太刀から閃光が出ぬように素手で、勝負いたす…」
そう言って私は太刀を鞘に収めた…
「おもしれぇっ!」
熊蔵もこん棒を両手から放り投げた…
「熊蔵も怪力だが、重兵衛様は、むきもねぇどぉ!」
「んだ、さっきは、こん棒ごと熊蔵をぶん投げたからな…」
「ありゃあ凄かったな、やっぱり重兵衛様の方が強いベ!!」
「うるせぇっ!」
そう言って、熊蔵がジリジリと迫って来た...
私は目を閉じて脱力し、臍下の一点に氣を沈めた…
風が東から西へ吹いている…
遠くで雷鳴が轟いている…
熊蔵の息遣いが聞こえる…
ジリジリと此方へ近づいている…
と、思ったら…
右へ右へと回り始めた…
距離にして5メートル位の処か…
熊蔵の息が止まった…
私の左真横に居る…
来る!
私は目を開けた…
熊蔵は私の脚を狙って低く踏み込んで来た…
私は寸での処でピョーンと高く跳んで熊蔵を見下ろした…
「おぉぉっ!」「すげぇっ!」「高いなぁ…」「流石だ…」
「何と言う跳躍力だっぺかぁっ!!」
周囲がざわついている…
私はキョロキョロしている熊蔵の頭上5~6メートルから、勢い良く熊蔵の肩口付近まで急降下して、そこに思い切り蹴りを入れた…
グキッ…
「痛えぇぇぇぇぇっ!」
熊蔵は地面に膝を着いた…
「痛てててて…てめぇっ…」
「肩が外れておるぞ、熊蔵…」
「な…何をぉぉぉっ?!痛ててててて…」
「右肩が外れておるぞ…」
「て…てめぇっ!」
と言って、熊蔵は左手で私を掴もうとした…
その瞬間、私はまた、高く跳んだ…
また、キョロキョロしている熊蔵の、今度は左肩を思い切り蹴ってやった…
グギッ…
熊蔵は左肩から地面に崩れ落ちた…
「痛てぇぇぇぇぇぇっ!ちくしょぉぉぉぉっ!」
「両方の肩が外れてしまっては、最早、何も出来まい…」
「う…う…うるせぇっ!痛てててて…」
そう言って、熊蔵は、地面を芋虫のように這って逃げて行った…
すると右京殿が叫んだ…
「よぉぉし!熊蔵は最早、物の数に入らぬわっ!袋畑の勇者達よ、今こそ我らの勇ましさを世に示す時ぞぉっ!!」
「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉっ!」
「掛かれぇぇぇぇっ!」
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
すると、政重様も叫んだ…
「よぉぉし!石毛の猛者達よ!唐崎の強者共よ!袋畑勢に遅れを取るでないぞぉっ!多賀谷を叩きつぶすのじゃぁぁぁっ!!」
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
豊田勢と多賀谷勢は一進一退の攻防を繰り広げた…
私は政重様の側で、政重様を徹底的にガードした…
(政重様だけは絶対に護りきるのだ!この身に替えても絶対に!!)
その一心で私は、千代王と共に、多賀谷勢と戦っていた…。
やがて幾分、豊田勢が優勢となり、多賀谷の本陣が見えてきた…
「唐崎、袋畑、吉沼、石毛、豊田の勇者達よ!もう少しで敵陣じゃぁっ!!侵略者達に目に物見せてくれようぞぉぉぉぉっ!!!」
「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉっ!」
敵陣が見えてきたこともあり、政重様の号令で豊田勢が一気に活気付いた!!
敵陣には、熊蔵と白井全洞の姿が見えた…
「熊蔵、では参るぞ…」
「は…早くしてくれっ!全洞様ぁぁっ!!」
ゴキッ…グギッ…バキッ…
「い…痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
熊蔵の呻き声が戦場中にこだました…
白井全洞が熊蔵の肩を入れてやったのだ…
「熊蔵、もう大丈夫じゃ!少し痛いであろうが、問題無い…」
「おぉっ!動くっ!肩が動くぞぉっ!!有難ぇっ!」
「もう一暴れして参れ、熊蔵っ!」
「うぅぉぉぉぉぁぉぉっ!あったりめぇよぉぉっ!!永田重兵衛常充ぅぅぅぅっ!ぶっ殺してやるぅぅぅぅっ!!」
熊蔵を見て私は思った…
(あ奴…やはり化け物だな…)
「うぅぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!永田重兵衛ぇぇぇっ!何処じゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
相変わらず、最初に持っていた巨大なこん棒を振り回しながら、此方に向かってきた…
「んっ?!何だ?おめぇ…二刀流か?!」
「某は、袋畑城主・袋畑右京と申す!我が愛する郷土をこれ以上荒らすことは断じて許さぬ…」
「ふん…小賢しい奴めっ!おめぇが許さなくても、おらは暴れちゃうぞっ!!」
ドッシーン…
こん棒が地面にめり込んだ…
右京殿は、後へ跳んで避けたと思ったら、ヒラリと宙を舞い、両手の太刀を空中でクロスさせて、熊蔵の右腕目掛けて急降下した…
ビシュッ…
熊蔵の右前腕を右京殿の太刀が掠めた…
熊蔵の手から血飛沫が飛んで大量の血が流れ出た…
「て…てめぇっ!袋畑右京ぉっ!!ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅっ!!!」
(右京殿やるなぁ…虎蔵とも良い勝負してたもんなぁ…しかし…本当に豊田の侍は猛者が揃っているなぁ…)
私は右京殿の素軽い動きを見てそう思った…
「次は脚を斬ってやろうか?!熊蔵?!」
「お…己れぇっ…」
馬鹿の一つ覚えのように熊蔵は、こん棒を振り回しながら右京殿に近づいていった…
右京殿は二刀流で斜めに構えて踏み込むチャンスを伺っている…
しかし、今度の熊蔵は、不規則に、こん棒を回す角度を変えていて、右京殿に踏み込むチャンスを与えない…
小康状態が続いた…
(そろそろ熊蔵は疲れてくる頃だ…)
私は右京殿にそう言おうと思った瞬間…
右京殿は再び宙に舞った…
「しまったぁっ!!」
思わず私は声を出してしまった…
待ってましたと言わんばかりに熊蔵は、こん棒を回すのを止めて、野球のバッターの様な構えを見せた…
「右京殿っ!!」
急降下してくる右京殿を、熊蔵はアッパースイングで思い切り打ち砕いた…
グチャッ…
嫌な音を立てて右京殿は、熊蔵のこん棒に打ち付けられたまま、地面に叩き付けられた…
「右京殿ぉぉぉぉっ!!!」
私は千代王と共に右京殿の処へ急いだ…
口から血を流し、ぐったりした表情で右京殿は私を見た…
私は千代王から降りて右京殿を抱き抱えた…
「じゅ…重兵衛…殿…無念…じゃ…後は…頼む…。」
「右京殿っ!右京殿ぉっ!!」
「ぐっふっふっふっふっふっ…永田重兵衛常充ぅぅぅっ!見ぃ付けたぁぁぁぁっ!!」
「己れぇっ…熊蔵…よくも右京殿を…」
東北東から風が吹き抜けた…
天空に稲妻が駆け抜け、遠くで雷鳴が轟いた…
私の黄金の甲冑から火花が散り始めている…
私は右京殿の両手に握られていた2本の太刀を両手に持って立ち上がった…
私の身体中から更に物凄い火花が散リ始めた…
「す…すげぇっ…」
「あ…あの方は…やっぱり…雷神様の御使い…」
「いや…あの方こそが…雷神様…なんだっぺ…」
「その花火入りのぉっ、黄金の甲冑っ、今度こそ戴くどぉぉぉっ!」
そう言って、熊蔵がまた、不規則な角度で巨大なこん棒を振り回し始めた…
私は右京殿の見よう見まねで、二刀流で斜めに構えた…
こん棒が回ってくる角度は不規則だが…
回ってくる速度は一定の様だ…
私は臍下の一点に氣を沈めた…
両手の太刀を2本とも地面に刺した…
回ってくるこん棒が私と垂直に向き合った…
その瞬間…
私はスッと熊蔵の目の前に進み出て…
熊蔵の右手首を掴み…
籠手返しを極めた…
不意を突かれた格好の熊蔵は、何が起きているのか分からない顔のまま、宙を一回転して、その巨体は地面に叩き付けられていた…
「な…何だ?!今のは…?」
「どうなってんだ?!」
「巨大なこん棒が回ってるのに…」
「熊蔵の目の前に…すーっと…」
「って思った瞬間に熊蔵の身体が…吹っ飛んだっペ…」
「手首を掴んだ様に見えたけど…」
「痛てててててて…てんめぇぇっ!」
「さぁ、掛かって来い!熊蔵っ!」
「ちっきしょぉぉぉっ!ぶっ殺してやるぅぅぅっ!!」
熊蔵は両手を広げて低い姿勢で踏み込んで来た...
私は熊蔵の顔に当身を張ってから、右肩口に踵落としを極めた…
バキッ…と嫌な音がして、又も熊蔵は肩から地面に叩き付けられていた…
「痛てぇぇぇぇっ!肩がぁぁぁぁっ!!痛てぇぇぇぇぇぇっ…」
「熊蔵、御主の肩は、もう元には戻らぬ…観念いたせ!」
そう言って、私は後を向いて、右京殿の2本の太刀を取りに行った…
「うるせぇっ!痛ってぇぇぇっ!!こんちくしょぉぉぉっ!!!」
熊蔵は、何とか立ち上がり、右腕だけで掛かって来た...
私は右京殿の2本の太刀を地面から両方引き抜いて、ヒラリと身を躱し、熊蔵の左脚の甲を踏んづけてやった…
熊蔵は、又しても顔面を地面に叩き付けていた…
鼻血をボタボタと流しながら熊蔵は立ち上がってきた…
「じぐじょう…だがだじうぺえっ…」
「熊蔵、御主の根性も中々のものじゃ…しかし…御主の人生は…此処までに御座る…」
「な…何をぉっ!この…しゃらくせぇぇっ!」
熊蔵が掛かってきたが…私は高く跳んで…その上を飛び越えて…右京殿の太刀を2本共…先程迄刺してあった穴に…柄の方から差し込んだ…
そして…互いに振り返り…向かいあった…
「素手なら左手一本だって負けねぇどぉっ!!」
「ふっ…。」
私は苦笑して目を閉じた…
「て…てめぇっ!な…舐めやがってぇっ!!」
熊蔵が来る…
私は目を開け…身体を左にヒョイっと躱し、今度は熊蔵の右足の甲を思い切り踏んづけてやった...
熊蔵は又しても、顔面を地面に叩き付けていた…
しかし…
今度は…
その地面には…
右京殿の太刀が…
二刀流で…
待ち受けていた…
憐れ熊蔵は、両目を右京殿の太刀に貫かれた状態のまま、その人生の最後迎えていた…
まるで熊に角が生えた様に、太刀先が後頭部を貫通している…
見る間に辺りが、熊蔵の真っ赤な血で染まっていった…
私は熊蔵の身体を横向きにしてやり、両目から太刀を引き抜き、両膝を着いて、目を閉じ、手を合わせた…
私は立ち上がり、右京殿の太刀を2本手に取って、ブンッと振ってから、右京殿の御遺体の側に戻った…
「右京殿、立派な御最期に御座りました…あの様な怪物を相手にしても、1歩も怯む事無く、豊田の侍らしく、正々堂々と戦われた御姿…重兵衛、生涯忘れは致しませぬ……貴方が愛し、命を懸けて守り続けた、この袋畑の地…我々皆で守って参ります故、どうか安らかに…」
私の目から涙が溢れ出た…
私は涙を拭ってから、仇を討った二刀流の太刀を各々の鞘に収めて、右京殿に抱かせた…
私は両手を合わせて泣いた…
ひたすら泣いた…
そして政重様の元へ千代王と共に戻った…
「政重様…申し訳ございませぬ…某が居ながら…右京殿を…右京殿を…」
「もう良い、重兵衛…御主が熊退治をしてくれたお陰で、又もや多賀谷の奴ら、撤退していきよったわ!右京は残念な事になってしもうたが…あ奴は、命と引き換えに、この袋畑を守ったのじゃ!あの様な化け物を相手に一歩も退かずに戦い、果てたのじゃ…正に東武士の鑑…袋畑の地が守られ、きっと右京も喜んで居る筈じゃ…。」
政重様の頬に一筋の泪が零れた…
斯くして、下栗・袋畑の戦いは、豊田勢の勝利で幕を閉じた…
しかし、重臣である伊古立掃部殿と袋畑右京殿を失うという、実に苦い幕切れとなってしまった…
(次回に続く…)
遂に商売金坊の熊蔵・虎蔵兄弟を成敗した重兵衛…
しかし、その代償は、あまりにも大きなものでした…
この先、如何なる多賀谷の魔の手が忍び寄ってくるのでしょうか…?
次回、つぐみ龍の伝説 ⑰「栗崎城の別れ」に どうぞ御期待下さい!
尚、この物語は完全にフィクションであり、登場人物も歴史上の人物とは全く異なるものであることを予め御承知おき下さいませ…。




