⑭ 下栗・袋畑の戦い (前編)
さぁ、今回は、いよいよ、重兵衛と、巨大な商売金坊の熊蔵が激突します!
とても一筋縄では行かなさそうな相手ですが…
重兵衛は、殿の領土と仲間達を守り切る事が出来るのでしょうか…?
それでは、本編をどうぞ、お楽しみ下さいませ…
翌朝…栗崎城内にて…私は、政重様からの指令を道鎮殿に伝えた…
「相分かった!わしと、御主と、小治郞とで、内密に事を進めろと…政重様が申されたのじゃな?!」
「はい!」
「よし!早速、小治郞の処へ参ろう!!外記様には北部地域の巡回と申して参る!」
「御願いします!某は北斗王と千代王を用意しておきます!!」
「うむっ!!」
道鎮殿は、少し嬉しそうに頷いた…
肘谷城に着くと小治郞殿が出迎えてくれた…
「昨日も大活躍だったらしいな、重兵衛殿?!」
「あいやぁ…吉沼の衆の威勢の良さに乗せられて…敵陣深く迄…斬り込んだのですが…白井全洞と…差しの勝負と相成りまして…」
「そこへ、熊蔵が乱入して参ったのだな?」
「はい、とてつもない大男に御座いました!」
「うむ…商売金坊と呼ばれて居ってな、更に狂暴な虎蔵という弟も居るそうじゃ…」
すると道鎮殿が言った…
「商売金坊の兄弟の噂は、わしも聞いたぞ!何でも兄弟二人で、馬鹿でかいこん棒を振り回しながら城門を破壊して先陣を切って攻め込んで来るとか…」
「左様…だが…粗方…一暴れすると…後は他の兵に任せて、大将の左右に陣取り、大将の護衛をする事が主な役割だそうじゃ…」
「熊蔵の持っていた…こん棒は…長さが八尺程で…周囲が一尺程ですかね…鉄の鋲が無数に打ち込まれていて…鉄環の巻き金がグルグルと巻いてありました…」
「な…何と?!」
「そ…そのように…馬鹿でかい…こん棒を…振り回すと…」
「はい…某も驚きました…が、政重様からの策を授かって参りました!!」
「おぉっ!政重様から?!」
「はい!」
「小治郞、落とし穴じゃ!わしら三人で、でかい落とし穴を掘るのじゃっ!」
「なるほど…落とし穴か?!流石、政重様じゃ!」
「はい!但し、この三人だけで極秘に事を進めるようにとのことです!」
「落とし穴の場所を絶対に他の者に知られてはならぬと仰せじゃ!」
「そうか!敵の間者が、此方に紛れ込んで居るやも知れんしな…落とし穴の場所が知れてしまうと何の意味も無いからの?」
「その通りに御座ります!この件は、ここに居る我々三人だけで内密に進めて参りましょう…絶対他言無用…治親様にも、外記様にも口外するべからずです!!」
「相分かった!」
「して…どのように進めて参るのじゃ?重兵衛…」
「はい!此度は…甲州忍術の心得が御有りの…小治郞殿に御指南…頂きとう存じまする!」
「おぉっ!そうじゃな?小治郞、頼むぞ!!」
「心得申した!それでは…これから御二人共…ちと大変じゃが…治親様・政重様の御為で御座る、共に力を合わせて乗り切ろうぞ!!」
「おぅっ!」「はいっ!」
私達三人は、ガッチリと両手で手を取り合った…
三人の顔には各々、笑みが浮かんでいた…
そして、三人で今後の計画を綿密に話し合っていったのだった…
同じ頃、下妻城内では、白井全洞が多賀谷政経に謁見していた…
「全洞、此度も豊田勢に敗れたと聞いたが…真か!」
「ははぁっ…真に申し訳ございません…」
「吉沼も落とせぬわ…向石下も取れぬわ…下妻近隣の豊田侍を寝返らせることも叶わぬわ…一体、いつになれば…豊田安芸守殿に辿り着けるのかのう?全洞よ…」
「はあ、度重なる失態…この全洞、如何なる裁きも受ける覚悟に御座ります…」
「御主を裁いて何になるのじゃ?!御主はわしの軍師であろう?!わしは御主を信じて居るのじゃぞ!しっかりしてくれ全洞っ!!今迄の様に、もっと、わしを喜ばせてくれっ!全洞っ!!」
「ははぁっ!この白井全洞、肝に命じて、御座りまするっ!!」
「しかし…御主の策が通用せぬとは…一体豊田勢は如何程の強さなのか?」
「はぁっ、此度も当方の策…全て読まれておった様に御座りまする…火炎攻めにしても…待ってましたと言わんばかりに…用意していた水で…次々に消されてしまい…数で圧倒した筈でしたが…敵の後詰め隊が…次々に参りまして……これは…明らかに…当方の策を前もって知っていなければ成せぬこと…」
「うむむ…して…全洞、此度も…あの…永田重兵衛常充とやらが居ったとか?」
「左様に御座ります…あの者、此度も先頭に立って火消し役をしておりました…と思えば…単騎、某の陣まで攻め込んで参り…差しの勝負と相成りまして御座います…」
「ふむ…が、熊蔵が…乱入して参った…か?」
「はい…」
「永田重兵衛と申す者が来て以来、何か豊田勢が活気付いて居るようじゃが…」
「いかにも…ここは一先ず豊田と和睦をいたし、東方の板橋や牛久を落としておく方が得策かと…」
「何を申すか?!全洞っ!!わしに負けたまま逃げろと申すかっ?!」
「いいえ、滅相も御座いませぬ!殿、押しても駄目なら引いてみる…ということも、戦略としては、とても大事な事に御座ります!先ずは一歩退いて外堀から切り取って参りましょう!!東から小田勢の援軍が来なければ、豊田勢とて井の中の蛙…次こそはこの白井全洞、豊田・石毛を丸飲みにして御覧にいれましょうぞ!!!」
「うむ…全洞、その言葉、忘れるでないぞ!」
「ははぁっ…。」
…その後…豊田氏と多賀谷氏は、双方睨みあったままで1年が過ぎた…
私と道鎮殿と小治郞殿は、遂に、誰にも知られること無く、大きな落とし穴を完成させていた…
「のぅ小治郞…せっかく、見事な落とし穴を作ったのに…多賀谷の奴等、一向に攻めて参らぬな?」
「道鎮…毎回…あれだけ…重兵衛殿に、こっぴどくやられては、多賀谷も…そう易々とは、長峰原・蛇沼などと言う御本家の近くには攻めては参れぬだろう…」
「重兵衛、奴等…本当に、ここへ攻めて参るのじゃな?!」
「はぁ…史実では来年の5月頃には、この地に多賀谷が攻めて参る事に…」
「まぁ道鎮、俺達は最早、何処に多賀谷勢が攻めて参っても、そう簡単にはやられぬように訓練をしてきたではないか?この落とし穴も、その対策の一つに過ぎぬ…のぅ、重兵衛殿?!」
「はい…」
やがて、豊田と下妻の間を互いの間者が行き交うようになって…また、1年が過ぎ…
年号が弘治から永禄に替わった1558年(永禄元年)…
我らが御屋形様である常陸最強のフェニックス・小田氏治様は…結城・佐竹と激しく小田城の争奪戦を繰り広げていた…
桜の季節も過ぎ、初夏の陽射しが眩い皐月五月のとある日…小治郞殿が現れた…
「下妻の動きが怪しい…」
「いよいよ我等の苦労が報われそうですね?」
「いや、それが…で御座るな…重兵衛殿…」
「如何されたか?小治郞殿…」
「うむ…多賀谷の奴等…此度は長峰原・蛇沼ではなく…どうやら…下栗か袋畑を狙って居る様なんじゃ…」
「な…何ですとぉっ!そ…それは真で御座るかっ?」
「うむ…残念ながら間違い御座らぬ…」
「早速、政重様に御伝えせねばなりませぬ!」
「重兵衛殿、時が御座らぬ、急ぐのじゃ!下栗と袋畑はもう知っておる、四ヵ村にはわしが伝えるっ!」
「忝ないっ、小治郞殿っ!」
私は道鎮殿を探した…
「如何した?重兵衛、そんなに慌てて…」
「実は、ちょっと手違いが御座った!小治郞殿からで…多賀谷の奴等、此度は、長峰原・蛇沼ではなく、下栗か袋畑を狙って参るとのことで御座る!!」
「な…何じゃとぉっ!」
「某は、急ぎ石毛城へ参る!道鎮殿は城の護りを固めて下さい!!」
「お…おうっ!相分かったぁっ!」
私は千代王に飛び乗って、石毛城へ向かった…。
「重兵衛、火急の用件とは如何した?」
「はぁっ、恐れながら申し上げます……」
「うむ、皆…ちと…席を外してくれ…」
「只今、小治郞殿から知らせが入りまして…多賀谷勢が一両日中にも、下栗か袋畑に攻め入るとのことです!」
「何と?!…下栗か袋畑とな?!長峰原・蛇沼ではないのか?!」
「はぁっ!申し訳ございません!!某が読み違えておりました…」
私は地図を広げた…
「史実では…先ず、多賀谷は下妻近隣地域の方々や四ヵ村の方々を軍門に下してから、吉沼を落としました…その後…易々と向石下城も落とされました…そして、守りの薄くなった豊田城を一気に落とす為に長峰原に陣を敷いたと言うことでした…」
「うむ…」
「しかし、今や、その歴史は塗り替えられ、下妻近隣地域の方々は元より、四ヵ村の方々も、吉沼も向石下も落ちては居ませぬ…」
「して…何じゃ?!」
「はぁっ…要するに、今の多賀谷には、歴史通りに、そう易々とは長峰原に布陣する事など出来ないということに御座りまする!」
「おぉっ、真じゃ!北部地域も四ヵ村も吉沼も健在なのじゃ、多賀谷が長峰原に布陣する事など出来よう筈もないわ!!」
「左様に御座ります!故に、此度…多賀谷勢は、是が非でも下栗か袋畑を落としに来ると思われます!!」
「よぉし、向こうが正面から参ると言うなら望む処よ!重兵衛っ、こちらも全軍を上げて迎え撃つのじゃっ!」
「ははぁっ!」
「重兵衛っ!城の守りを堅めよと、北部・四ヵ村の全城主に伝えよ!向石下から百、吉沼から二百、石毛から三百、御本家から四百、総勢一千の援軍を回す故、何が何でも城を守り抜けと伝えぇっ!!」
「ははぁっ!!」
私は千代王に飛び乗り、北部・四ヵ村の全城主に政重様からの伝言を伝えた…
吉沼に戻ると、栗崎城内では既に臨戦態勢が整っていた!
ここ5~6年で栗崎城は、天然の要害と呼ぶに相応しい堅固な要塞へと変貌を遂げていた…
いや…栗崎城だけではない…御味方衆の各城が皆、堅固な要塞へと変貌を遂げていたのだ…
翌朝、日の出と共に多賀谷勢が下栗城に押し寄せてきた!
栗崎城からは、私を含む二百名が、夜明け前に、下栗城に到着していた…
石毛城からは、政重様以下三百名が、唐崎に布陣した…
「重兵衛殿が来てくれるとは心強う御座るな!」
「いやいや、常楽寺様こそ、この様に下栗城を堅固な要塞に仕立てていただき、有り難う存じます!皆、存分に働けます!!」
「何の何の、重兵衛殿が来てくれたから、ほれ…皆、活気付きよったわ!わっはっはっはっはっ!」
「そんなぁ…それでは常楽寺様、城の守りを頼みます…某は、敵を成敗して参りまする!」
そう言って、私は千代王と共に最前線へと向かった…
「おぉっ、重兵衛様が来たぞっ!」
「おぉっ、黄金の甲冑、格好いいなぁっ!」
「これで、今日も勝ったっぺ!」
「んだ、もう勝ったも同然だっぺ!」
私が最前線へ躍り出ると…敵陣奥深くに多賀谷政経殿が直々に構えているのが見えた…
「これはしたり!!」
と、思った瞬間…商売金坊の熊蔵がニュウッと現れた!
「おめぇが、永田重兵衛だなぁっ!うっしゃっしゃっしゃっしゃっ…」
(それにしても馬鹿デカイ坊さんだなぁ…)
千代王に乗っている私の顔の高さより、更に高い所に熊蔵のニヤついた大きい顔が聳え立っていた…
「いかにも!某、豊田安芸守様が家臣、永田重兵衛常充である!!御主は熊蔵殿だな?」
「しゃっしゃっしゃっ…んだぁっ、当たりっ!おらが熊蔵だぁっ!!今日は、おめぇの、その、金ぴかの甲冑をもらいに来たどぉっ!」
熊蔵は、そう言いながら、いきなり、巨大なこん棒を振り回してきた!
私と千代王は、間一髪…これを躱した…
少し離れた処で私は千代王から降り、太刀を抜いた…
「おめぇっ、馬から降りたっけ、小いっちぇーなぁっ!」
私と熊蔵が向かい合ったその時…雷の音が鳴り響き…稲妻が天空を切り裂いていた…
熊蔵の目が、ほんの少し上へ向いたその瞬間、私は低く踏み込み、熊蔵の脛を狙った…
熊蔵は、その巨体とは裏腹に、素早い動きで避けて見せた…
と…その時…私は…身に纏っている黄金の甲冑から…小さな火花がパチパチと散っていることに気付いた…
敵陣では、大将の多賀谷政経の横に、いつの間にか白井全洞の姿が在った…
「全洞、あの者が永田重兵衛とやらか?」
「はぁっ、左様に御座ります!」
「雷神の遣いとは良く言ったものじゃ…ほれ、あ奴の金色の甲冑から火花が散っておるぞ!」
「ま…真に…雷神の如しで御座る…まさか…金色の甲冑から…火花を散らすとは…」
「しかし、うちの熊蔵を相手に、そんな子供騙しが通用するのかのう?全洞?」
「確かに...熊蔵は…当家きっての猛者に御座る…が…永田重兵衛の力量も中々のもの…ここは一番…この特等席で…じっくり観戦といきましょう?!」
「いやぁ…花火まで出んのけ?!おめぇのその甲冑…ますます欲しくなったどぉっ!!」
熊蔵はそう言いながら、今度は、巨大なこん棒を真上に振り上げてから、私の頭上目掛けて、真っ直ぐに振り下ろしてきた…
私は寸での処で身を躱し、太刀を鞘に収め、地面にめり込んだ巨大なこん棒を両手で掴んだ…
「まさか…あの者…何を…?」
と多賀谷政経が言うと、白井全洞はゴクリと唾を飲み込んだ…
私が両腕に力を込めた時、私の黄金の甲冑からは、更に激しい火花が散った…
熊蔵は驚いた様子で、慌てて、こん棒を地面から引き抜こうとした…
その時、私は、両手で、熊蔵もろとも、巨大なこん棒を頭上に持ち上げてみせた!
熊蔵は為す術も無く…こん棒の先にぶら下がったままで宙に揺れていた…
私の身体中から、更に激しく、火花が散っていた…
「な…何と言う…馬鹿力じゃ?!…」
と…多賀谷政経が言うと…周りの兵達も皆…此方を見て…あんぐりと口を開けたまま…動きを止めていた…
私は、両手で掴んでいた巨大なこん棒を、熊蔵もろとも力任せに、多賀谷政経と白井全洞が居る方向へ放り投げた…
先ず最初に…熊蔵が…二人の前に…ドシャッ…と落ちてきた…
そして…少し遅れて…熊蔵の巨大な相棒も…熊蔵の腹の上に…ドスンッ…と降って落ちた…
熊蔵は、グボッ…と言って、口から血を吐き、白目を剥いて、身体をビクビク痙攣させた後、動かなくなった…
「く…熊蔵…こ…こんな事が…あるのか?…己れぇ…」
そう言って、多賀谷政経は太刀を抜いて、私に向かって来ようとした…
私も太刀に手を掛けた時、白井全洞が割って入った…
「永田殿、御主は…真に雷神の遣いなのか?」
「某は、只の侍に御座る!豊田家家臣…」
「永田重兵衛常充殿…次は、某が相手致す…二年前の続き…今こそ決着を付けようぞ!」
「望むところ…」
私と白井全洞は、太刀を抜いて睨み合った…
そこへ、石毛からの早馬が来た…
「重兵衛様に申し上げます!袋畑が多賀谷勢に囲まれて御座います!!我が主、石毛政重、奮闘中も、如何せん多勢に無勢に御座います!願わくば、重兵衛様に御加勢賜りたく、御願いに推参仕りましたぁっ!!」
「相分かったぁっ!直ぐに参ると、政重様に御伝え下されぇっ!!」
「ははぁっ!御免っ!!」
早馬は去っていった…
そこへ、常楽寺様が、いつの間にか来ていた…
「さぁ、重兵衛殿、袋畑に急ぐのじゃ!熊蔵が居なければ、此方は、わし等で充分じゃ!」
「常楽寺様、忝ないっ!間も無く御本家から援軍が参ります!それ迄、どうか御無事で!!」
「わっはっはっはっはっ!重兵衛殿ものぅ!御武運を御祈り致す!!」
「御免っ!」
と言って私は高く飛んで千代王に跨がった…
「白井殿っ、この勝負、またの機会にいたすっ!御免っ!!」
「やはり…あの者…只者ではないな?…全洞?」
「はい…あの跳躍力…並みの侍では御座らぬ!しかも先程の…あの巨大なこん棒を…熊蔵ごと…此方まで放り投げた馬鹿力…常人の域を遥かに超えて御座る…」
「まぁ、勝負はこれからじゃ…全洞!一先ず此処は退却じゃっ!さぁ、わし等も袋畑へ参るぞっ!!」
「ははぁっ…」
下栗城で、巨大な商売金坊の熊蔵を倒した重兵衛…
次は、更に、大きくて、狂暴と言われている熊蔵の弟・虎蔵と、袋畑城で対決します!
そして、遂に…歴史と言う名の魔物が口を開けて、重兵衛の大切な仲間達を飲み込もうとして参ります…
次回、つぐみ龍の伝説…「下栗・袋畑の戦い(中編)」に、どうぞ御期待下さい!




