95.暴走
茜、山吹、菜の花の三色が入り乱れる逆立った髪の毛、鋭い眼光、太い上がり眉、白の学ランを身に着け、年若い様相ながらも貫禄のある、あの仙人は、現場にはいつも、十手を高々と掲げて、颯爽と現れる。
颯爽という言葉が適切かどうか、いま一度じっくり考えて答えてみたまえ。
そう言われて、脳漿を絞っても、やはり、颯爽、が適切だと答える。
口を閉じていようが開いていようが、どのような状態においても、どんなにか暑苦しくても、だ。
現場に登場する時は、颯爽、である。
そんな灼蛍に憧れて、この世界に足を踏み入れたと言えば。
妖怪が仙人に憧れて、犯罪者を取り締まる捕吏の世界に足を踏み入れたと言えば。
きっと、大笑いされるに違いないので、胸の内に潜めて、誰にも言わないのだ。
(………これは、危機的、状況、か)
心槍は、前後左右に大きく振り回ってしまう身体に、制御しきれない妖力に舌打ちした。
妖力が増大しては制御しきれずに暴走する事は、そう多くはない。
成り立ての妖怪ならいざ知らず、何百年も妖怪をやっていたら、妖力は制御でき、暴走する事などないが、例外もある。
例えば、新月や満月、虹、狐の嫁入り、流れ星などの天体に関連する現象、桜、向日葵、紅葉、椿、竹の開花などの植物に関連する現象、竜巻、台風、地震、噴火、津波などの自然災害に関連する現象などに影響を受けて、妖力が一時的に増幅して、暴走する妖怪も居るのだ。
だが、本当に稀の出来事である。
妖力が一時的に増幅したとて制御できるようになれてこそ、数百年も生きた妖怪と名乗れるのだ。
ゆえに制御できない妖怪は、恥知らず、と、後ろ指を指されたり、莫迦にされたりするのである。
(………くう。屈辱だ)
人間界の竹林を歩いていた心槍は、朦朧とする頭で原因を排除しようと考えた。
原因はわかっていた。
(淡雪筍を、妖具、青丹に封印する)
暴走してしまう前に早く。
(2024.4.11)




