89.罪悪感
仙界の書物庫にて。
栞太の呪いを完全に解く為に、八雲に集めてもらった呪いを解く書物を読み溢しがないよう、丁寧に読んでいた凍夜は、桃の木と竹を編み込んで作られた背丈の長い揺り椅子から立ち上がって、背伸びをした。
仙陣、食べ物、武器類、踊り、植物、岩、霊獣、衣、歌。
呪いを解く方法は多種多様に数多くあれど、どれもこれも幻とされている類で探索時間をかなり要しそうだった。
(そうだよね。呪いなんて、絶滅危惧種だし)
九尾の妖狐が居なければ、呪いはもう、書物に記されているだけの存在になっていただろう。
(呪いを解く方法に手短身近っていうのが全然ないし)
「はあ」
揺り椅子に座り直した凍夜は、目を瞑った。
八雲に書物を集めてもらってからすべてを読み終えるまで、七日はかかってしまった。
仙人からすれば七日など七秒ほどの体感だが、人間にとってはやはり長い時間経過なのではないだろうか。
その間、栞太は来なかった。
凍夜の予想に反して。
(まあ、大仙人様から僕を癒すように任務を言い渡されたわけだし。癒す必要のある僕に帰りなさいって言われたわけだから、そりゃあ、来ないか)
「………何でこんなに頑張ってるんだっけ?」
栞太がこの仙界に連れて来られた理由が己にあるわけだから、責任を感じて、異世界に帰そうとしているわけだが。
責任を感じる必要はないと震霆に強く言われながらも、責任があると言ってしまったのだが。
九尾の妖狐が関わってしまったからだろうか。
余計に責任を感じてしまうのは。
頑張らないといけないと思ってしまうのは。
書物庫に窓がなく、どの時間帯でも一定の光量で、ほのかに明るいので、日付と時刻が刻まれる時計を見なければ、どれほどの時間が過ぎ去ったのかはわからなくなる。
もしもこのまま、書物庫に閉じこもって、集めてもらった書物をもう一度読み直したとしたら。
時計を見ずに、読み直したとしたら。
一体どれほどかかるのだろう。
一体どれほど栞太の時間を奪ってしまうのだろう。
(やっぱり、罪悪感。だよね)
よし。やるかあ。
もう一度だけ読み直してみようと、凍夜はやおら目を開けて、前の机に置いていた書物に手を伸ばすのであった。
(2024.4.10)




