83.猪口
姜芳と栞太が、ラフレシアの最期を見届けようと人間界の森林に留まる事にしたその一日後。
青い満月が出ている丑三つ時であった。
大仙人と栞太を取り込んでいた影響なのか。
どのラフレシアも終わりは同じでこのようなものなのか。
ラフレシアが放つ異臭がひと際強くなったかと思いきや、禍々しく甲高い叫び声が上がってのち、ぐじゅぐじゅと水分の多く柔らかい物を幾度も幾度も踏み潰したかのような音と共にラフレシアの花が踊り狂いながら萎んでいき、そして、拳ほどの大きさまで萎んでは、打ち上げ花火が広がった時が如く轟音を出しながら、紅の霧状化させた本体を一気に放出させたが、刹那の内に、消え去ったのだ。
時間にして、三十分の出来事であった。
「ラフレシアの最期を見届けられました」
「そうか」
ラフレシアの最期を見届けてのち、それでも頑張って睡眠に打ち勝とうと目を開けていた栞太に仙界に戻るので眠っていいと言っては、半ば強引に栞太を背負って、宝貝、亀雲に乗って仙界に戻って来たのは、つい今しがたの事。
栞太の師匠である燧乎の岩の栞太の寝床まで送り届けた姜芳は、燧乎から一杯やらないかとの誘いを受け入れた。
青い満月はまだ出ていた。
燧乎の岩に足を踏み入れた者は小人化するので、姜芳は小人化して、小人の燧乎と肩を並べて桃酒を嗜んでいた。
ポメラニアン化した凍夜は震霆に任せて、弩九の研究室と警備宝貝の破壊、栞太誘拐を行った凛矢は灼蛍に預け、大仙人は仙桃宮の自室で休んでいた。念の為にと紅鶴が大仙人の傍についていた。
凛矢に怒り狂っていた姜芳は、その怒りを宝貝開発にぶつけていた。
「栞太君の呪いを早く解いて、異世界に戻さないといけませんね」
「情が移ったか?」
「ええ。仙界に残ってくれと泣きながら引き留めてしまいそうです」
「ハハ。そうか。あっしも。そうしそうで怖いな」
「何だか、すっごく癒されますから」
「ああ。久々だからな。あんなに瑞々しい存在に出会ったのは」
「枯れていますからね、仙界の住民って。ほとんど」
「そうだな。はちゃめちゃに活力があるのに、枯れているな」
「わたくし、久々に、あ、自分の中に水分が流れているんだって感じましたよ」
「世代間交流、異種間交流って大事だな」
「そうですね」
ちょこん。
燧乎と姜芳は猪口を軽くぶつけてのち、栞太が眠っている小さな家に向かって、猪口を向けたのであった。
(2024.4.8)




