77.精進
「………」
凍夜は栞太を注視した。
浮遊したまま背後から抱き着いてきている九尾の妖狐によって、ポメガバースの呪いをかけられた栞太を。
『多分、まったく同じではないと思う。何か、人間に戻る為に僕とは違う条件が課せられていると思うんだ』
凍夜は己の発言を思い返しては、反芻しようとしていた。
(僕はある程度親しい仙人、霊獣、道士に癒してもらえば、ポメラニアンから仙人に戻る。どれくれいの時間が必要か、どんな癒し方が必要なのかは、その時々で違う。呪いを解く方法の幅が広いんだ。でも、この子は違う。と。思う。九尾の妖狐がこの子を仙界に留まらせる為に呪いをかけたんだから。仙界でしか解けないような呪いをかけた。と。思う。そして、この子は今、呪いが解けている。ポメラニアンから人間の姿に戻っている。大仙人様に抱き着いている状態で………つまり、この子の呪いを解くには、大仙人様が。大仙人様だけが必要だって「ぶぶー。その考えは間違っておる」
「………僕の思考を勝手に覗かないでくれないかな?」
「ふふっ。覗いてなどおらぬ。このように至近距離に居るゆえ、わかってしまうのじゃ」
「じゃあ、そろそろさっさと離れてくれないかな。飽きて来たでしょ?」
「飽きる?ふふ。まさか。永久にこのままでもよい」
「………………………」
「嬉しすぎて言葉を失ったか。妾はほんに罪な生物じゃな」
「………あの子の呪いを解く為に必要なのは、大仙人様じゃないの?」
言葉の応酬で九尾の妖狐を離す事を諦めて栞太の呪いの追究へと切り替えた凍夜に、けれど九尾の妖狐は気分を悪くはせず、むしろ喜ばしい事だと嬌笑しながら、答えを返した。
「今の栞太にとっては、大仙人だけが呪いを解く為に必要ではあるが。さても。妾は大仙人に固定はしておらぬ」
「………でも、僕みたいに複数じゃなくて、たった、一人だけ」
ふふっ。
九尾の妖狐は鈴の音を転がすような声で笑ってのち、背後からの抱擁を解き、凍夜の真正面へと回って、そっと、頬に触れるか間際の距離を保ったまま、撫でるように、けれど艶めかしく片手を動かした。
「好敵手は大仙人じゃ。精進せよ」
(2024.4.7)




