74.即断
「ちょっと止めてくれないかな」
凍夜は言った。
浮遊したまま背後からの抱擁を止めないばかりか、つんつんと頬を指で軽くつつき始めた九尾の妖狐に。
「ははっ。嫌じゃ」
だめだ諦めよう好きにさせよう。
凍夜は久々に力を使った事も相まって即断した。
己の事に関しては。
「………ねえ」
「何かの?」
「あの子がどこに居るか、知ってるんでしょ」
「うむ。知っている」
「じゃあ、教えて」
九尾の妖狐は凍夜の頬をつついていた手を伸ばして、或る方向を指さした。
空に浮いていた姜芳が居た場所の真下だった。
「この先のラフレシアの中じゃ」
「そっか。わかった」
ラフレシアの中ってどーゆー事なの意味不明。
真っ先に浮かんだ言葉を、けれど凍夜は追究せずに九尾の妖狐を背負ったままただ歩き出した。
「責任感だけでそこまで動けるものかのう?」
ころころころころ。
今にも笑いだしそうな九尾の妖狐の言葉を、凍夜は無視した。
無視したかった。
のに、
「本当は、そなたもわかっておるのではないか?いや。感じていると訂正すべきか。あやつは、大仙人が釣り出した栞太はそなたの。ふふ」
「………あの子の正体が何であろうと、関係ないよ。異世界に帰す。呪いを解いてね。それだけだよ」
「ふふっ。そうか」
「そうだよ」
そうだよ。
凍夜は今度は心中で呟いてのち、栞太の元まで歩き続けたのであった。
(2024.4.6)




