73.涼やか
(………久しぶりに力を使って、精神が昂って、疲労を感じて、ないのかな?)
凍夜は確りしている佇まいにも、ポメラニアンになっていない事にも不思議に感じつつ、凛矢へと近づいた。
栞太の居場所を聞き出す為だ。
弩九から聞いた話では、近くに居るはずなのに姿が見えない。
どこかに隠しているに違いないのだ。
(姜芳はどうして宝貝、万花衣を使っていたのかな?)
ふと湧いた疑問。
共に人間界に下りて来た燧乎は、姜芳の元へと向かった。
弩九から聞いた人間界の居場所へと仙界から下りる途中で、空に浮いている姜芳を発見したので、燧乎をそちらへと向かわせたのだ。
姜芳は、宝貝、万花衣を使用していた。
何か緊急事態が起こったのだ。
凍夜も燧乎も助っ人に向かった方がいいと判断して、燧乎が向かったのである。
「凛矢、あの子は、栞太はどこに居るのか、教えて」
間近で立ち止まった凍夜は、球体の水の牢に閉じ込めていた凛矢の顔の部分だけ水を退かせた。
意識は失っていないはず。多分。
だが、返事がないところから見ると、もしかしたら気絶しているのかもしれない。
「凛矢」
「………」
「凛矢」
「………」
「りーんーやー」
「………」
「………」
(………呼吸できるように調整していたはずだけど)
「そなたのぺらぺらの力に負けて、気絶しておる。ふふ。最たる妖力と仙力を持っていたとて。このような薄っぺらい水の牢を打ち破れぬとは。使う術を持たぬがゆえか。ほんに宝の持ち腐れよの。まあ、そなたにも言える事ではあるが。訊き出す事があるにもかかわらず気絶をさせるなど。ふふ。ほんに修行不足よの」
「………暑苦しいからさっさと離れてくれないかな」
凍夜は背後から抱き着いてきた九尾の妖狐に言った。
現実問題として、ふよふよ浮いていて体重をかけられていないので重たくはないし、九尾の妖狐の身体は涼やかだったのだが、何故だかとっても暑苦しかったのだ。
(2024.4.5)




