69.ちりぢり
「大仙人様!大仙人様!」
姜芳が宝貝、万花衣を使用する数時間前。
人間界の森林の、ラフレシアの中にて。
ポメラニアン化したままの栞太は淡い紅色一色に染まる、だだっ広く果てない浮遊空間の中で、大仙人を探していた。
闇競売の会場で、荊の背中の上で眠っていた事までしか覚えていなかった栞太は、それがどうして、こんな淡い紅入り一色に染まる浮遊空間へと移動して、大仙人の名を喉を傷めるほどに呼んで探しているのか。
状況は把握できていなかったが、その事に思考を巡らせる余裕はなかったのだ。
この空間のどこかに大仙人が居る事。
大仙人を探さなければいけない事。
この二つの事しか頭を占めていなかったのだ。
「大仙人様!」
不安と恐怖が栞太の中で、強く深く渦巻いていた。
身体が感情に翻弄されて、思考がまとまらない。
散り散りになりそうだった。
身体も思考も魂も。
大仙人が居る。大仙人を探す。
この二つの事が頭になければ、栞太を形成するすべてが散り散りになって、いずれ消滅するのは必定であった。
「大仙人様!」
迷子になったようだ。
親と離れて不安と恐怖でいっぱいで泣きじゃくる迷子。
現実として栞太は泣いてはいなかったが、顔はくしゃくしゃになっていた。
「大仙人様!大仙人様!どこですか!?ご無事なんですか!?」
もしも大仙人に何か遭ったら。
もしもこのまま大仙人を見つけられなかったら。
ここまでどうして大仙人に執着しているのか。求めているのか。
栞太はわからなかった。
「大仙人様!」
栞太は叫び続けながら、浮遊する身体を必死に動かしながら、大仙人を探し回り続けた。
何時間もずっと。
(2024.4.4)




