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56.虧月
妖具、虧月。
上品な甘い香りが優しく漂い、木材の風合いを生かした優雅でお洒落な意匠が施されている、本白檀を使用した白檀扇子。
生物無生物に関わらず、己の意のままに操る。と、噂されている。
噂だ。
真実か嘘かはわからない。
使用者は、九尾の妖狐だからだ。
これを用いずとも、絶世の美男と謳われるその妖艶なる美貌に美躰、絶大なる妖力、お茶目な遊び心、極々稀に覗かせる残忍残虐な言動さえあれば、生物だろうが無生物だろうが魅了されて意のままに操れるはずだと、ごく一部を除く、ほとんどの者がそう思っているからだ。
どうでもいい。
そう思っていた。
どうでもいい。
後継者になんか、さらさら興味はないって言うのに。
九尾の妖狐に魅惑されたみんなに後継者になってくれと押し付けられる。
どうでもいいか。
そう思った。
どうせ、九尾の妖狐からは逃れられない。
おもちゃよろしく、弄ばれて生命お終い。
どうでもいい。
どうでもいい。
どうでも。
意に従うのも面倒で。
意に逆らうのも面倒で。
何でもかんでも面倒で。
どうでもいい。
流されるままに生きて行こうって思っていたんだ。
(2024.3.31)




