49.來凱
人間界、荊が生まれ育った木と藁の小さな家にて。
來凱は先祖の楚から代々引き継がれてきたこの家に、今は時折様子を見てこつこつと修繕しに戻ってくる事しかしていなかった。
なんせ、人間界をあちらこちらと渡り歩いては、その土地の小悪党やら悪党やらと手を組んで盗みを働いているので、この家には、時折しか戻ってこなかった。
手放せば土地代がいくらか手元に入るのだ。
けれど現状、手放していないので、土地と家の税金を毎年一回支払わなければならないので、金が出て行くばかりである。
家の修繕に必要な木と藁はそこら辺に山ほど生えているので金はかからないが、時折しか戻ってこないのならば、やはり手放した方が帰る手間やら税金の支払いやら修繕やら面倒事から解放されるというのに。
來凱は何故か、この小さな家を手放そうとはしなかった。
生まれ育った実家だからだろうか。
帰る家を必要としているのか。
否。そのような感傷的な理由ではなかった。
荊である。
荊が度々帰ってくるので、この家を守っているのだ。
今回の闇競売のように、荊は大金に変えられると知っているから。
(こいつは莫迦だからな。一緒に遊びたいと言えば、誰でもほいほいついてくる。心底莫迦なやつだからな)
今回は失敗したが、成功に失敗はつきもの。
これまでも盗みを働く中で、何度失敗した事か。
成功よりも失敗の回数の方が遥かに多く、捕吏に何度捕まったか、数えるのも莫迦莫迦しくなるほどである。
痛い目にも遭うし、生物は裏切るものだと刻まれているのに、やはり裏切られたら悲しくもなるし、盗みを働く為に準備は不可欠だし、身体も頭も精神も疲弊するし。
割に合わない事この上ないのだが、盗人を止めようとは微塵も思わなかった。
何故って。
やはり盗みには、ぞくぞくとわくわくが詰め込まれているからだ。
あの緊張感と危機感を何度でも何度でも味わい続けたい。
まあ、無論、金を得る為でもあるが、それよりもぞくぞくわくわくを味わいたい気持ちの方が大きいだろう。
(ま。けど、今回は失敗だったって事で。荊を金に変えるのは、次回に持ち越しだな)
一緒に遊ぼうよ。
虎のくせに凶暴さを引っ込めて愛くるしい表情を向ける荊と、荊の背中に乗っかったままの漆黒のポメラニアンと一緒に鬼ごっこを満喫した來凱は、草原に寝転んでは、一仕事終えましたと言わんばかりの爽やかな微笑を湛えたのであった。
(2024.3.28)




