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35.夕灯
宝貝、夕灯。
満開の紅の薔薇が一輪、薔薇の蕾が二つ、深緑と新緑の薔薇の葉が一枚ずつ、芥子色の房が一つあしらわれた花飾り。
荊の尻尾の付け根に結んであるが、普段はふさふさの毛に隠れて見えていない。
使用者である荊が行った事がある場所へと瞬間移動できる。
「なかなか起きないなあ」
仙界の遥か下に位置する、下界の人間界にて。
生まれ育った木と藁の小さなこの家に、宝貝、夕灯を使用して仙界から瞬間移動してきた荊は、藁の寝台の上に銜えていた栞太を下ろしたが、なかなか目を覚まさなかった。
震霆に栞太が秘密の場所で一緒に遊びたがっていると言われて、最近誰も遊んでくれなかったので、ついつい嬉しくて興奮してしまって、ポメラニアンの姿の栞太を連れ去ってしまったのである。
「栞太。ぼくの岩に寝転んでいた人間の少年だよね」
すんすんと鼻を近づけて栞太の匂いを嗅ぐ。
「やっぱり、あの時の少年だっ。でも、今はポメラニアンだ。何でだろう?ぼくと一緒で、仙人に化けられるのかな?でも。栞太は、人間。妖怪でも仙人でもないけど。人間って、動物に化けられるのかなあ?化けられるようになったのかなあ?」
荊は栞太の傍らで寝そべると、くあり、一つあくびをして、目を瞑った。
「栞太。早く起きて、一緒に遊ぼうよ」
(2024.3.22)




