31.師匠
「栞太はどうしてるんだ?」
「身体がポメラニアンの姿に馴染もうとして力を使ったせいで、疲れて眠ってる」
「そうか」
燧乎の岩にて。
常ならば朝一番に燧乎が眠る場所へと来る栞太が来なかった為、迎えに行った燧乎であったが、栞太より先に、栞太が眠る小さな家の前で座っていた凍夜に会ったのだ。
また栞太を異世界に帰そうと潜り込んだのだろう。
燧乎の考えは果たして当たっていたが、凍夜からさらに予想外の話を聞いては眉根を寄せた。
「まさか九尾の妖狐が栞太に凍夜と同じ呪いをかけるとはな」
「多分、まったく同じではないと思う。何か、人間に戻る為に僕とは違う条件が課せられていると思うんだ」
「凍夜は癒してくれたら誰でもいいんだったか?」
「ポメラニアンから仙人に戻る為に癒してくれるなら、誰でもいいってわけじゃないと思うよ。ある程度親しければいけないと思う。僕もポメラニアンになっている時は、意識が曖昧だから、その選別基準はよくわからないけど。仙人に戻った時、必ず知り合いが傍に居てくれているから」
「………九尾の妖狐は栞太をこの仙界に留めたいようだ、と言っておったな?」
「うん。本当に。滅茶苦茶迷惑な妖怪だよ」
「否定はせん。滅法迷惑で、滅法力の強い。大仙人様しか敵わん、大妖怪だ」
「………燧乎、怒ってる?」
「ああ。己の不甲斐なさに、な。弟子と迎えた栞太を守れなかった」
「本当に燧乎は情が深いね」
「それは凍夜だろう。栞太を異世界に戻そうとした。それが正解だと知っておったのに、あっしは大仙人様にそうするように願い出なかった。一緒に修行をしたい。その目先の欲を優先させた。その結果が、これだ。栞太には申し訳ない事をした」
「そんなに自分を責めないでよ、燧乎。悪いのは全部、大仙人様と九尾の妖狐なんだから。うん。そもそも、大仙人様があの子に貸している宝貝、仙羽衣が守ってくれなかったのが悪いわけだし。っていうか、そもそもこの仙界に連れて来たのが悪いわけだし」
「うむ。ひとまず、大仙人様の元へ栞太を連れて行こう」
「うん」
(2024.3.21)




