26.妾とそち
「君、などと他人行儀な呼び方をするでない。妾とそちの仲ではないか」
「呪いをかけた者と呪いをかけられた者ってだけの仲でしょ」
「ははっ。とても濃厚な仲ではないか」
栞太が眠る小さな家の外で寝転んだ状態で浮遊していた九尾の妖狐は、外に出て来いと家の中に居る凍夜に言った。
凍夜は動かず、また、九尾の妖狐から視線を外して栞太に留めた。
「この子を異世界に帰したらね」
「わからず屋だのう。その少年を異世界に帰したとて、妾がすぐに連れ戻すと言っておろうに」
「じゃあまた僕がすぐにこの子を異世界に帰す。君が飽きるまで、何度も何度も何度もね」
「おやまあ。そんなにその少年が好みではないか?」
「好みとか好みじゃないとかそういう話じゃないでしょ。この子に迷惑をかけているかいないかの話でしょ。まったく。君も大仙人様も本当に勝手な生物だよね」
「はは。勝手ではない生物などおらぬよ」
「問答に付き合うつもりはないし。僕はこの子を受け入れるつもりはない」
「相も変わらず頑なな子じゃ。ほんに。妾の愛を悉く撥ね退けるのう」
「ちょっと、気持ち悪い事を言わないでくれるかな」
「はは。照れるでない」
「照れてないし。本当に君と話していると疲れるよ。ああもう。ポメラニアンになりそう」
「なってもよいぞ。妾が癒してやろう。存分に、な」
「君に癒されようものなら、ずっとポメラニアンのままだし。断固としてお断りします」
「ほんに頑なじゃ。ほんに、愛いやつよのう。ゆえにちょっかいをかけたくなる」
「あ~はいはい。僕にちょっかいをかけていいから、この子にはちょっかいをかけないでください」
「嫌じゃ」
「………何でそんなにこの子に拘るわけ?大仙人様はわかるけど、君がそこまで拘る理由がわからな。まあ。わからなくもないけど。執着心が強いからね、君」
「ならば、その少年を諦めぬという事もわかっておろう。なにゆえ、抗うのか」
「わかっているくせに」
「はは。そうだな。わかっておる。そちの事はよお~く、わかっておるゆえに、その少年を留めておるのじゃ」
九尾の妖狐は目を細めて、歯を少しだけ覗かせて妖艶に笑ってみせた。
(2024.3.18)




