24.洗脳
「よし今日も頑張った」
燧乎の岩。
大きな岩の中身をくり抜いた小さな家にて。
岩から直接生える岩草という、楕円形の大きな葉を出入り口に垂らしたその家は、一人分しか寝る空間がなく、栞太は燧乎の下で修業をするようになってから、ここで一人、寝ていた。
掛け布団も敷布団も枕も何もなく、硬い地面に直接寝転がっていた。
不思議と、身体を痛める事はなく、安らかに眠れていたのだ。
(母さんと父さんはちゃんとご飯を食べているだろうか。家がごみ邸になってないといいけど。水浸しになってたり、泡まみれになってたりもしてないといいけど。いや、それどころか、火事になって消滅。いや。一応は、大人だしな。そこら辺はきちんと、していると。いいなあ。黙ってこっちに来ているし。捜索願とか出されてる………かもしれない。一度帰って、説明して、戻ってこれたら。勉強とか遅れてるよな。こっちに来てから何日経ったっけ。果たせたら、元の時間に戻るっていうご都合主義が発動しないかな)
心配事は山ほど出てくる。
けれどどうしてだろうか。
帰りたいという欲求が出てこない。
(燧乎師匠が言ってたっけ。大仙人様の持っている木の杖の宝貝、導香が、俺のやる気を引きずり出しているって。だったら、俺のこのやる気は、本当なら、ないに等しいものだったはずで。本当なら、元の世界に帰りたいって、思っている、はずで)
本来ならば浮上せず沈殿したままのやる気を無理やり引きずり出されたのだ。
操られているといっても、いいような状況だろう。
けれど、嫌な思いがしない。
「………これが洗脳って、やつなの、かな」
重たくなってきた瞼に抗う事なく、眠りに就いた。
今日もまた、結論は出なかった。
(2024.3.17)




