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この木の下で君を待つ  作者: カル
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十五話 煌めくフリージア


颯天は玄関先に居た。

また溢れそうになった涙をぐっと堪えて僕は口を開いた。


「颯天…?」


「よ!弓弦、元気か?」


「…うん。とりあえず…上がって。」


僕は颯天をリビングまで招き入れる。


「お邪魔しまーす!弓弦、今日仕事は?」


「…休み。」


「そっか!俺もだ!」


「うん…。」


「どうした弓弦!暗い顔してるぞ!」


颯天は笑顔でそう言った。

まるで、僕を励ましているかのように。


「颯天…どうして…ここに?」


「弓弦が心配だったから。」


「っで、でも…。僕はっ…亜矢さんを…。」


「お前が心配だから来た。理由はそれだけで充分だろ。」


どうして颯天はこんな顔が出来るんだ…?

こんなにも真っ直ぐで、優しい顔を。

本当に僕の事を心配してくれてるんだ。

そう思わせてくれる顔だ。


「亜矢の事は福音から聞いた。大変…だったな。」


「…」


僕は下を向き何も言わなかった。

亜矢さんの事を考えると自然に視線が下を向く。

それほどにまで亜矢さんの病気と余命は僕にとって身をえぐられるくらいの悲報だったんだ。


「…で、お前はどうするんだ?弓弦。」


颯天は頬の緩みを引き締め、次は真剣な眼差しでこちらを見てきた。


「どうって…。」


「何も、、しないのか?」


颯天のその言葉を聞いて、誰かに胸の中を蹴り飛ばされた。そんな感覚が僕を襲った。


「何もって…。……じゃないか。」


「どうした?結弦。」


「何も出来ないじゃないか!!」


どうして僕はこんなにも声を張り上げているのだろう。

僕の体はどうして、僕の意志とは正反対の動きをするのだろう。


「うわぁぁぁあああ!!」


また涙が溢れ出た。


「弓弦…?」


この時、颯天はどんな顔をしていたのだろう。

こんなに狂ったように叫ぶ友を、どんな顔で見ていたのだろう。


「何かってなんだよ!1日…30分しか会えないんだよ!もう、もう!あと1ヶ月しか」


「ふざけた事言ってんじゃねぇ!」


颯天は目を見開いてそう言った。

その声は全てを壊してしまいそうなほど荒々しくリビング全体に響いた。


「颯天…?」


「弓弦!お前の大好きな人なんだろ!

あと少ししか時間がないんだろ!

お前が先に諦めてどうすんだよ!

あいつは……亜矢は俺じゃダメなんだよ。

あいつの寂しさを埋めてやれるのは、あいつを幸せにしてやれんのはお前だけじゃねぇのかよ!

ふざけんな!

やり方で迷ってる暇はねぇよ!

1分、1秒でも長く側に居てやれよ!

やる事やって悩め!

あいつは…。

っく…。

亜矢は結弦を待ってんだよ…。」


ーーー

ーーーーーー

どうして俺はこう言ってるんだろうか。

結弦が俺の親友だからか?

亜矢が俺の片想いの女の子だからか?

多分、どっちでもないんだろうな。

自分の気持ちにケジメを付けたいんだ。

そして本音を言いたかった、ただそれだけだ。

これは俺、矢内颯天の本心。

気持ちに嘘をつけない、惨めな男の本心だ。



「颯天…」


そう言う僕の親友の声は最初こそ荒々しく響いたが、終わりになるにつれ、声は小さくなり、震え、そして、颯天は涙を流した。

それを見た僕は色んなことを悟った。

僕を本当に心配してくれてること、

僕と亜矢さんの幸せを祈ってること、

そして、亜矢さんのことを…。

だからこそだ。

僕は自分に甘えてられない。

亜矢さんの為に、亜矢さんを幸せにしなければならない。

颯天の為に、亜矢さんを幸せにしなければならない。

そして、僕自身の意志のために、亜矢さんを幸せにしなければならない。


「結弦…すまない。」


「颯天、こっちこそごめん。」


そういえば、颯天の泣き顔なんて初めて見るな、いっつも笑って気楽なやつだから、颯天は。

そう思ったらなんだか可笑しくなって、僕は笑ってしまった。

決して、腹を抱えるほど大笑いした訳じゃない。

ほっとして笑いが零れた。

そんな風に微笑んだ。


「なんで笑うんだよ、ったく。」


そう言った颯天の顔にも笑顔が浮かんだ。

颯天はやっぱり凄いや。

僕がどんなにどん底に居ても、どんなに苦しくても、それを振り払ってくれる。

本当に優しくて、最高な僕の親友だ。


「亜矢さんに花を買っていこう」


不意に僕はそう言ってしまった。


「おう!」


「うん!」


微笑み合う2つの影はゆっくりと揺れ、そして、2つ同時に動き出した。


「いらっしゃいませ!って結弦くん!?」


店に着いた僕達を神崎さんが出迎えてくれた。


「神崎さんこんにちは、今日はお客さんとして来ました!」


神崎さんさはそうゆう僕に優しく微笑み、近くまて歩み寄った。


「結弦くん、今日はどうしたの?」


「亜矢さんにお花をプレゼントしたくて。」


そう言う僕に、神崎さんは少し首を傾げた。


「アドバイス…いる?」


「あー…。是非、お願いします。」


神崎さんは僕のその言葉を聞いて笑顔を僕に向けた。


「わかったわ!任せて!

ところで、そちらの方は?」


神崎さんは颯天に目を向けた。


「初めまして、結弦のダチの颯天って言います。矢内颯天です!」


颯天は声を大きく、元気よくそう言ったが心做しか、緊張してる様だ。


「そんなに緊張しなくていいよ、神崎さん優しい人だから。」


「お、おう。」


僕が声を掛けても緊張が溢れ出ている。

社交的で人付き合いに苦労したこと無さそうな颯天がここまで緊張してるなんて珍しい。


「神崎さん…あの、すみません。その、実は亜矢さん今、入院してて、、。」


「え、大丈夫なの?それなら健康成就のお花が良いわよね。入院ってお花持って行っていいのかしら?一応アクセサリーか、ストラップにしとく?お守りにもなるし!」


神崎さんはそう言うと店の奥にスタスタと入っていった。

あえて何も聞いてこない神崎さんに僕は優しさを感じた。


「行っちゃったね。何で颯天緊張してるの?」


僕は颯天の方に軽く視線を向けそう言った。

颯天は少し考えた後に深呼吸を1回した。


「この町の伝説があんだよ。

1人の女が10人以上の不良をフルボッコにしたって伝説が。

その女の名前は『カンザキ』。

俺の知り合いが言ってたんだよ。

頭に紫陽花のヘアピンを付けた神崎と名乗る女には気をつけろ。

その女こそ最恐。っと。」



颯天は真剣な顔でそう言った。

僕は上手く信用することが出来なくて、少し可笑しくなってきた。


「あはは、まさか神崎さんが…。」


僕がそう言い終わる頃、神崎さんは何か持って店の奥から出てきた。

紫陽花のヘアピンを輝かせて。


「まさか…ね。」


颯天が余計なこと言うから変に意識してしまう。

神崎さん最恐説。

もう、本当最悪だ。


「はい!結弦!これ持っていきな!」


神崎さんはそう言って僕に、アクリルストラップを1つ渡した。

そのアクリルの中には銀杏の葉が綺麗でそれでいて枯れそうで、まるで亜矢さんがそのままその中に入っているかの様な、そんな気がした。

それはさっきまで変に神崎さんを意識して見ていたその意識ごと壊して、僕の頭の中を亜矢さんで染め上げた。


「ありがとうございます。神崎さん。」


「あ、あと。颯天…君だっけ?君にはこれを!」


神崎さんはそう言って颯天に1輪の花を渡した。

その花はフリージア。

その花は太陽の光を見ているかのように綺麗に煌めいてそれでいてとても儚げだった。


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