十四話 本当の気持ち
福音ちゃんは至って変わりない。
そう。
寂しそうに感じたのは福音ちゃんに僕が同情しているからだ。
福音ちゃんは少なくても僕を好きだろう。
それはよく分かる。
でも、その僕は双子の姉の恋人だから、福音ちゃん自身が報われない。
だから、きっとこの子は寂しいんだろう。
そう僕が自分の価値観で勝手にこの子を決めつけた。
だからこそ。
僕の気持ちを、言わなければいけない。
福音ちゃんにとっては辛く、悔しい答えだろう。
でも、亜矢さんの為、いや。
僕自身の為に僕は言うんだ。
「福音ちゃん。店での事は本当に謝る。ごめん。でも、僕が好きなのは亜矢さんなんだ。心の底から愛してるんだ。だから、福音ちゃんの所にはいけない。僕の居場所は、亜矢さんの側だから。」
僕の言葉に福音ちゃんは驚いた様に目を見開いた。
「で、でも…。1日30分しか会えないんだよ…?」
そう言った彼女の声は震えていて、目には涙が潤っていた。
「うん。知ってる。でも、1分1秒でも長く、亜矢さんの側に居たい。だから、ごめん。」
僕がそう言うと、彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「うわぁぁぁあ!!ごめん…なさい…!!」
福音ちゃんはそう言って大号泣した。
でも、その声には今まで感じられなかった、温もりが入り交じっているような感じがした。
「福音ちゃん、ごめんね。」
僕はそう言った。
頭を下げて。
そして、頭をあげる時、亜矢さんの顔を右目でチラッと見ると、亜矢さんも大粒の涙を流していた。
「亜矢さん?」
僕は彼女を心配してそう言った。
「なんで…!!福音ちゃんは、謝るの!!」
亜矢さんは泣きながらこう言った。
その声は大きく、そして、強かった。
「…え?」
福音ちゃんはそう聞き返す。
「だって…、だって!福音ちゃんも弓弦くんが大好きだったんでしょ!ずっと…、頑張ったんでしょ!だったら、謝る必要なんてない!福音ちゃんは悪いこと、何も…。してないんだから!!」
「うん…。ありがとうっ…。ありがとうぉ!」
福音ちゃんは亜矢さんのその言葉を聞いて泣き叫んだ。
僕はその様子をただ、見守るしかなかった。
2人の涙が治まって、ようやく笑顔が戻った頃、看護師が入室してきた。
看護師は「面会終了時間です。」
そう言ってまたどこかに行ってしまった。
僕は言われるがまま、席を立った。
「じゃあ、亜矢さん。また、、来るよ。」
僕がそう言うと亜矢さんはニコッと笑う。
「うん。ありがとう。またね」
「お姉ちゃん、私も…また来るね!」
福音ちゃんも亜矢さんにそう言う。
亜矢さんは控えめに手を振った。
それがきっかけで僕達は病室を出ていった。
「っく…。」
病室を出た瞬間、呼吸が上手く出来なくなった。
体が僕の意志とは正反対の行動をとる。
「弓弦くん?」
福音ちゃんは心配してるかのように僕をそう呼んだ。
でも、何も聞こえなかった。
「っ…ぐっ…ん…ぐっ。」
もう。
我慢するのはやめよう。
もう。
いいじゃないか。
もう。
今、隣に亜矢さんは居ないのだから。
もう。
強がるのは…よそう。
そう思ったらもう止められなかった。
熱く、そして冷たい涙が僕の頬を流れ落ちる。
その時初めて気付いた。
なんで冷たいのだろう。
その理由を。
そっか…。
僕はもうとっくに涙を流していたんだ。
泣き止んだ様に見せ、亜矢さんを不安にさせないように強がって笑顔を作っていたつもりだったけど。
あと1ヶ月の命と知った時から、僕はもう。止めることなく涙を流してたんだ。
体が涙を流している事に今、気が付いただけなんだ。
「結弦くん…。お姉ちゃんを…、よろしくね。」
福音ちゃんはそう言って出口方向へ早歩きで行ってしまった。
そこから僕は何をしたのだろう。
気が付けば、部屋に居た。
その部屋に朝日が差し込む。
悲しみに溢れた黒い夜はいつの間にか終わりを告げ、朝日だけが輝いていた。
そんな中、玄関のドアがガチャりと音を立てて動く。
僕はそこに目を向ける。
「颯天…。」
そこには僕の親友が居た。
親友は僕に笑顔を向ける。
僕の曇った心を一瞬で晴らしてくれる太陽の様な笑顔。
忘れていた。
僕には心強い友達が居てくれた事を。




