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この木の下で君を待つ  作者: カル
12/18

十二話 ハッピーエンドを君に捧げる

君を抱きしめたその刹那君は糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。


「あーちゃん!!」


僕は叫んだ。

その声に気付いた颯天は走ってこちらまで駆け寄る。


「弓弦!どうした!?」


颯天の声には驚きと焦りが入り混じって荒々しくその空気に響く。


「あーちゃんが!!あーちゃんが!!」


颯天の声とは正反対に僕の声は小さくそして震えていた。

この光景から連想されるトラウマを思い出していたから?

違う。

弓弦は純粋に亜矢を失うのが怖かったのだ。


「弓弦!俺は救急車を呼ぶ!お前は亜矢をどうにかしろ!」


颯天は僕にそう言い残し、電話をする。


「亜矢をどうにかしろ。っか…。」


僕はあーちゃんの顔も見る。


大きな瞳を閉じ、まるで寝ているのではないか?っと思うほど、静寂していた。


「あーちゃん…。いや。亜矢さん。」


僕は眠る君の頬に右手を添え、そう囁いた。

僕は確かにあーちゃんの事が大好きだ。

でも、僕が恋をしたのは『亜矢さん』だ。

だから僕は言い換えたのかもしれない。

君の頬に触れると、色んな思いが溢れてきた。

幸せな思い、君を失う恐怖、そして、感謝の思い。


「亜矢さん。起きてよ、もっと楽しいことまだまだたくさんしようよ。君を失いたくないよ。」


僕は亜矢さんに自然とそう言っていた。

ただ名前を叫んでいただけの12年前とは違う。

脈拍があるか、心臓は動いているか、呼吸はしているか。

僕は知っている知識を駆使し、亜矢さんが助かる方法を何度も何度も頭の中で考えていた。


亜矢さんの容態は詳しくわからないけど、心臓は動き、呼吸もしていることが分かった。


「亜矢さん。頑張れ。」


僕はそう亜矢さんに言った。

純粋に無事目が覚めることを祈って。


時はあっという間に過ぎ、救急車は亜矢さんを迎えに来ていた。


亜矢さんは救急車に乗せられた。

その時僕の体は自然と動いた。


「僕も乗せてください。この人の恋人です。」


「分かりました。同伴お願いします。」


救急隊員の人は僕にそう言って救急車に乗せてくれた。

救急車にのる途中、颯天は真剣な眼差しを僕に向けていた。

まるで『亜矢を頼んだ』そう言っているような気がした。


救急車の中亜矢さんはたくさんの機械と、点滴に繋がれていた。

僕はただひたすらに亜矢さんの無事を祈った。


病院に着いた後、僕達はいったん引きはがされた。

亜矢さんはその後、何個かの検査をして、この病院へ入院することになった。


僕は病室で静かに眠る亜矢さんの手を握り、ただひたすら無事に目を覚ますことを祈った。


「亜矢さん…。」


でもその思いは簡単に通じず、亜矢さんは目を覚まさない。


「こんばんは。黒霧亜矢さんのご家族の方でしょうか?私、亜矢さんの担当医になりました、後藤と申します。」


僕が祈っていると、担当医の後藤先生が挨拶に来た。


「お世話になります。僕、水無瀬弓弦と申します。亜矢さんの恋人です。」


僕がそう言うと、後藤先生は残念そうな顔をする。


「彼氏さんですか。ご家族の方に今回の検査を説明したいのですが、亜矢様のご家族の連絡先とかはご存じないでしょうか?」


「すみません。わからないです。」


「そうですか…。」


後藤先生はまた残念そうにそう言う。

そして決意を決めた表情になる。


「分かりました。では先に彼氏さんに説明しましょう。」


後藤先生はその後長々と亜矢さんの容態を説明した。

その内容に僕は驚きを隠せずにいた。

その理由は3つある。

一つ目。亜矢さんが今まで入院生活をしていた事。

二つ目。亜矢さんは難病を抱えていた事。

三つ目。亜矢さんの余命はあと一カ月という事。


担当医が言うに、12年前、救急車に運ばれた亜矢さんは難病を罹患していた。

その治療はまだ完成していなくて、常に入院生活を送っていた。

今までは対象的に治療を行っていて容態を保っていたが、最近急に悪くなってきているという事。


「わかり…ました…。」


この時の僕は何を考えていたのだろう。

きっと何も考えていなかった。

淡々と説明されるリアルを僕は受け止めたくなかったのだ。

でもこの時の僕は分かりましたといった。

難しい疾患や難しい治療は分からないけど、確実に一つの事は理解出来た。


――君はあと、一カ月の命――


八月一日の夜僕はこう誓った。

この一カ月を二人が幸せな月にしよう、と。

君の為なんて言ったら綺麗ごとになるのだろう。

これは単なる僕が後悔したくないだけなんだ。

でもそれでいい。


後悔は悲しみしか生まない。

未来を暗くするだけだ。

本当に君が僕の事を想ってくれてるのなら、ともに明るい未来を見たい。


「亜矢さん、僕は亜矢さんを幸せにするよ」


眠り姫の様に眠る君の側でそう囁く。

僕は悲劇の王子様でもなければ、姫を強引に奪う怪盗でもない。

僕は水無瀬弓弦、亜矢さんの恋人だ。


「ゆーくん?」


その時は突然に訪れた。

先ほど誓った対象が誰かも分らずにただ漠然と君を幸せにしたいと思っていたそんなとき、君、黒霧亜矢は目を覚ます。

僕は涙が溢れそうだった。

理由は自分にも分からない。

嬉しさと寂しさが入り混じった不思議な気持ちだ。


「亜矢さんおはよう」


僕は夜中にも関わらずそう言った。

それに対して優しい笑顔で微笑む君。

余命一カ月の彼女を前に僕は手を伸ばす


「僕が君を幸せにするよ」


僕と過ごすこの一カ月が二人にとって最高の思い出となるように。

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