表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この木の下で君を待つ  作者: カル
11/18

十一話 連鎖する苦しみ


二人は涙を流していた。

それを見て僕も自然と泣いていた。


「弓弦…。」


颯天はそう言った。

静かに、思いを込めている様に。


亜矢さんの叫び声で見えた記憶は今から12年前の記憶。

僕がまだ6歳だった時の記憶だ。

小学校一年生の僕は毎日の様に颯天と遊んでいた。

いつも2人で遊んでいた時、ちょうど秋の季節。

この季節に、二人の少女と出会う。

年は同じくらいで、二人とも顔がそっくりで見分けがつかない。

2人の名前は亜矢と福音。

僕達は気が合って、そこから一緒に遊び始めた。

『あの時』が来るまでは。

僕が見た夢はまさしく『あの時』の鱗片だった。


「ゆー君!一緒に遊ぼ!」


いつもの様に彼女はそう言った。

だから僕は彼女といつもの様に一緒に遊ぶ。

でもいつもと違った。

それはもう一人の女の子が居ない。

だから僕は浮かれていた。

大好きな『彼女』と二人で遊べたから。

その子は双子の妹がいた。

そう。その彼女こそ亜矢さんなのだ。

僕は当時亜矢さんの事を「あーちゃん」と呼んでいた。


いつもと違うから、その時の僕はいつもと違う場所であーちゃんと遊びたかった。

これが全ての始まり。

いつもは公園で遊ぶのに、この日は川辺で遊んだ。

銀杏の葉が綺麗に世界を彩る。

そんな中川辺で遊ぼうだなんて普通じゃ考えられないけど、『その時』が来るまでは本当に楽しかったのを覚えている。


「ゆー君、楽しいね!」


あーちゃんは笑顔でそう言った。

あーちゃんの笑顔が好きだった僕は尚更、テンションが上がった。


だから言ったんだ。


「あーちゃん!大きくなったら結婚しようね!」


その言葉を聞いてあーちゃんは一瞬目を見開いた、そして満面の笑みで頷いた。

この時の僕は相当嬉しかった。

この時の僕はきっと恋に落ちていた。

高鳴る心臓、熱くなる全身。

初めての感覚だ。


「あーちゃん!お散歩しよ!」


僕の提案にうなずくあーちゃん。

2人は川辺を散歩する。

この時僕は、少し段のある道の上、その端を歩いていた。

少しでもバランスを崩せば川に落ちてしまうような、危険な場所を歩いていた。

あーちゃんは僕の内側を歩く。

かっこいい自分を見せたかったのだろう。


そしてある物を見つける。

白くて綺麗な花だ。

それをあーちゃんにプレゼントしたくなった僕は、その花を摘む。


「ゆー君。そこで何してるの?」


あーちゃんは僕にそう言ってきた。


「これ!綺麗なお花!あーちゃんにあげたくて!」


僕はその白い花をあーちゃんにあげた。

ただ喜んで欲しくて。


「ありがとう!」


あーちゃんは笑顔でその花を受けっとった。


「うわぁ。綺麗。」


あーちゃんはそう言って花を見つめる。

僕もあーちゃんと一緒に花を見た。


そしてまた歩き出す時。


――あーちゃんはバランスを崩して川に落ちた。――


そこからはよく覚えていないけど、あーちゃんを岸にあげ、びしょ濡れの服のままひたすら目を閉じたあーちゃんに声をかけていた。


「あーちゃん!あーちゃん!起きて!起きて!」


僕の呼びかけにあーちゃんは目を開けることはなく、ただひたすらに時が過ぎていた。

そんな中、颯天と福音ちゃんが来た。


「おい!弓弦!何やってんだよ!」


颯天は焦った様にそう言った。

無理もない。弓弦の側で亜矢が倒れているからだ。


「あーちゃんが…。あーちゃんが…。」


僕は泣きじゃくりながらそう言った。


「泣くな!弓弦!大丈夫!亜矢は助かる!」


颯天は力強い声でそう言ってどこかに走っていった。


「弓弦君…。」


福音ちゃんはそう言って僕を見る。

今にでも泣き出しそうなそんな顔だ。


「大丈夫。僕がなんとかするから!」


僕は涙を腕で拭って、力強くそう言った。


「弓弦君…。約束…。だよ?」


福音ちゃんはそう言って腕で顔を無造作にごしごし拭って、きりっとした顔をした。

そこから僕達はひたすらにあーちゃんの名前を呼び始めた。


救急車が来るまでの間。

どうやら颯天が呼びに行ってくれたらしい。

救急車はあーちゃんと身内である福音ちゃんを乗せ病院に行ってしまった。

そこから僕達が会うことはなかった。

小さい頃の僕は、あーちゃんは死んじゃったから帰ってこないって思っていた。

その時の僕は黒い水の中にいた。

喉の奥は痛くて胸の奥からきゅーっと絞られていような感じだ。

息も上手くできなくて、ただひたすらに苦しかった。


だから。


僕は。


――忘れたかった――


この苦しみから逃げるためには苦しみの元凶を忘れてしまえばいい。

この事を何度も、何度も、何度も、何度も、自分に言い聞かせた

そして僕はあの時の記憶を全て、忘れた。


この事を僕は思い出したんだ。


だから。

それだからこそ。

僕は君に言わないといけない。


「あーちゃん。ありがとう。」


このありがとうは何のありがとうだろうか?

生きててくれて?また出会ってくれて?

考え始めたらきりがない。

だから僕は考えるのを辞めた。


「ゆー君。お帰りなさい。」


あーちゃんはそう言って僕の側まで駆け寄る。

そして二人は二人の存在を確かめる様に抱きしめあった。


「あーちゃん。ごめんね。」


僕のその言葉にあーちゃんは首を横に振る。


「弓弦。本当に思い出したんだな。」


颯天は真剣な眼差しでこちらを見る。


「うん。颯天もありがとう。」


不幸というものは連鎖をするのだろか?

弓弦と福音の事件。それはまだ何も解決していない。

弓弦は忘れた記憶を取り戻し、そして今からまた二人で話し合いをする筈だった。

なのに。

君は僕の胸の中から崩れる様に、膝を付いた。そして。倒れる。

本当の不幸はここから始まったのだ。

この銀杏の木の下で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ