十話 記憶の欠片
花屋で起きた事件の後、僕は何も考えられずにいた。
ただひたすらにあの時の亜矢さんの涙と泣いてる顔がずっと僕の頭の中をぐるぐる回った。
気付いたら僕は家に帰ってベッドに横たわっていた。
そして眠った。
「ゆー君!一緒に遊ぼ!」
暗闇の中、どこか懐かしい声が聞こえる。
確かに僕は眠った。
だけど妙に意識ははっきりしている。
「うん!」
また声がする。
さっきの声はとても幼くて、可愛らしい声だった。この声も幼い。
でも女の子ではない。声は高いが男の子の声をしている。
なぜだろう。どこかしら、懐かしさを感じる。
「ゆー君そこで何してるの?」
また女の子の声が聞こえた。
その刹那、世界に『色』が付いた。
その世界は懐かしさの塊だった。
だってここはこの街。そう。僕の故郷。
今はビルや建物がいっぱい出来たけど、この世界はそれがまだない。
幼少期の頃の街並みだ。
そして目の前に、女の子が立っていた。
顔はよく見えないけど、この人は僕の知っている人だとすぐに分かった。
「おい!弓弦!何やってんだよ!」
後ろから次はまた別の男の子の声が聞こえる。
僕は後ろを振り返った。
そこには小さい颯天が居た。
懐かしくて声をかけてあげたいけど、声をかけれない。
声をかけれないというより声を出すことが出来ない。
この時僕は何をしていたんだろう。
よく覚えていない。
でもきっと僕は何かをしていたんだろう。
考えても、考えても思い出せない。
「弓弦君…。」
また女の子の声が聞こえる。
さっきとは違う女の子の声だ。
その声はとても静かだった。
僕はこの声を聞いてなぜか胸が痛くなった。
「弓弦君…。約束…。だよ?」
その声の対象は僕なのか、それとも幼少期の僕なのかわからない。
そして僕はこの声をきっかけに目を覚ました。
「夢…?」
僕はこの夢をなぜか鮮明に覚えていた。
夢自体は穴だらけで、実際何が起こっていたのか全くわからないけど、女の子二人の声と颯天がいたことは覚えていた。
そして目を覚ました僕の頬には涙が伝っていた。
でも僕の体は衝動的に何かをしなければならないという思いに包まれた。
だから僕は家を飛び出して、銀杏の木の下に行った。
夜空が綺麗に煌めいて街を淡く照らしている。
僕はそんな中を全速力で走って、走った。
街は静寂していて、僕の息の音だけが聞こえる。
僕は家から出て、約10分後、銀杏の木の下近くに着いた。
息が上がっててとても苦しい。
そして銀杏の木の根元を見た。
「え?明かり?」
僕は思わず口からそう言ってしまった。
なぜなら木の根元付近が、夜の光とは別の光が淡く光っていたからだ。
僕は恐る恐るそこに近づく。
そこには二人の人影があった。その人影は何か会話をしている。
花火と一緒に。
そう僕が見た光は花火の光だったのだ。
花火の光は人影の顔を照らす。
そしてその人がだれか僕は分かった。
颯天と亜矢さんだ。
疑問が浮かぶ。
何故、この二人がここで花火をしているのかだ。
そして怒りが込み上げてくる。
でも僕はその怒りを必死に抑えた。
颯天は良い奴だ。
それを知っているからだ。
小・中・高、一緒に学校に通って、友達やっていたから。
その関係は友達の域を超えて、親友とまで呼べるくらい仲は親密だった。
だから、僕に隠れて、二人がそんな関係になるなんて考えられない。
ありえない。
だから僕は怒りを抑えて何とか冷静さを保った。
そして僕は動きだした。
「二人でなにやってるの?」
いつもどうり、表情に笑顔を含ませながら。
「弓弦…?」
まず颯天がそう言った。
動揺が無いと言えば嘘になるだろう。
でもそこには焦りが無かった。
単純に僕の声にびっくりしている。
それだけだ。
「うん。ちょっと散歩中で。」
僕はそう言った。この答えは捉え方によれば嘘になるだろう。
僕は何かの使命感に駆れ、ここに来たのだから。
「そっか。」
颯天はそう言った。
亜矢さんは黙って下を向いている。
「二人は何をしているの?」
僕は二人にそう聞いた。
僕の本心だから。
「ただ、花火してるだけだよ。」
颯天はそう言った。
その表情はいつもの颯天の表情。
何かを隠している様子もなく、焦っている様子もない。
「どうして二人が?なんか接点あったっけ?」
僕はそう聞いた。
すると颯天は下を向いた。
そして一瞬の沈黙が生まれた。
「お前の彼女が、夜8時頃うちのレストランに来た、落ち込んでいて泣いていたから、花火でもしながら相談に乗っていただけだよ。」
颯天はそう言った。
「亜矢さん本当なの?」
僕は次に亜矢さんに聞いた。
亜矢さんは静かにコクと頷いた。
どうして相談相手が颯天なのかよくわからないけど、亜矢さんを傷付けたのは事実だし、僕には亜矢さんを責める資格もなければ、この二人を問い詰める資格もない。
「そっか。」
だから僕はこの言葉だけを言ったのだろう。
「お前も一緒にやるか?」
颯天はそう言って、火の付いていない花火を渡してくる。
「大丈夫だよ、二人で楽しんで。」
僕はそう言って、この場を離れようとした。
その刹那―――。
「待って!!」
亜矢さんの叫び声が聞こえた。
僕はその声を聞いて、夢で起きたことが今度は穴が無い状態で走馬灯の様に流れた。
「あーちゃん?」
僕はそう言って後ろ振り向く。
それがきっかけなのかは分からない。
なぜか、亜矢さんと颯天が涙を流して立っていたんだ。




