東雲高校 部活視察
「おい、今の話のどこが聞いてほしい話なんだ?」
中学時代の劇についての話を聞いて、一ノ瀬の男装が劇のストーリーを捻じ曲げてしまうほど格好いいということはわかった。
まさか、そんな自慢をしたいから呼んだわけじゃない……よな?
「大丈夫、大事なのはここから、だよ」
一ノ瀬はくすりと笑って、続きを話しだしていく。
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とにかく中学時代の私は女の子にモテて、モテて、モテまくった。
それはすごく嬉しかったけれど、やっぱり私は女だし、女の子にだけモテるというのも気持ちとしては複雑で。
雪雛のように女の子らしく可愛くなりたいと思う一方で、可愛くなれる方法がわからない。
とりあえず高校に入ったら料理研究部だとか華道部だとかに入部し、女子力を磨いてみようか、などと思っていた。
でも……いざ東雲高校に入学して、体験入部をしたもののなんだかしっくり来なくて。
途方に暮れていた私が廊下で出会ったのは、鮮やかな赤ぶち眼鏡をかけているやり手の女生徒会長、棗先輩。
「生徒会に入れば、一ノ瀬が男子にもモテる方法を教えてやってもいい」
そう言われてほいほいと私は生徒会に所属することになって、モテる方法を伝授してもらうことになったんだ。
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屋上に強い風が吹き、一ノ瀬のショートの黒髪を揺らす。
「たぶんこの時の女の子扱いしてほしいっていう気持ちがきっかけで、この乙女ゲームみたいな世界に取り込まれちゃったんだと思う。でもさ、今は過去の自分を全力で殴ってやりたいよ。星倉もそうなんじゃないの? だって君はこの世界の住人じゃない。高校も学年も一緒だもんね」
なるほど。一ノ瀬は乙女ゲームの世界に取り込まれたってわけか。
だから、あんなふうにイケメンに絡まれて……って、そういやこいつ、会ったこともないのになぜ俺が東雲高校の生徒だって知っているんだ!?
にこりと笑う一ノ瀬は、漆黒の瞳で俺の方を楽しそうに見つめていく。
「不思議そうな顔してるね。私、生徒会の一人だよ。部活の視察にも行ってるし、それぞれの部活のメンバーは大体把握してる。この前名前を聞いてから、一晩考えてようやく思い出した。星倉冬馬、バスケ部期待の新人エース……でしょ?」
――まさか、お前……!
俺の横で、こほんと咳払いをした一ノ瀬は、冷ややかな視線を俺に送り、こう語って見せる。
「生徒会です。突然ですが視察に参りました。……なぜ運動部の部室に雀卓と、うめぇ棒、ハイパーファミコンがあるのですか? 不要です。本日中に撤去してください」
そして言い終わった後、得意げに笑う。
――やっぱりそうだ……
「生徒会の女王、城崎棗の手下。お前、ハルカ女史……だろ」
「そう呼ぶ人もいたね。私、書記だったし」
生徒会のハルカ女史。実際に会ったことはなかったが、噂だけは聞いていた。
頭が切れ、淡々と仕事をこなすキャリアウーマンな一年生。
長い黒髪と、可愛いというより綺麗な顔、そしてクールな性格は、年上好きな男子生徒たちの中で高い人気を誇っていた。
「皆に謝れよ……マジで……」
「なんでさ!」
頭がよく、口数少なくて、落ち着いた大人の女子。ハルカ女史。
それが、こんなにアホっぽくて麻雀が趣味で……朝っぱらからつまみを食うヤツだなんて知ったら、皆泣くぞ。
「ま、それはともかくとして。星倉は見たところ美少女ゲームの世界に来ちゃってたみたいだね。廊下でいろんな女の子と熟女教師と、オトメンに話しかけられてるの見た。誰狙いなの? 早乙女君? それとも白鳥先生?」
自分で言いながら、頬を膨らまして笑いをこらえる一ノ瀬。
「誰も狙ってねぇよ! 俺はこの世界の誰ともくっつく気はねぇんだ」
そしてどんな展開が待っていようと、早乙女ルートと白鳥先生ルートに入るのは全力で阻止してみせる。
「そ、なら都合がいいや。あのさ、星倉……」
穏やかに笑う彼女から飛び出した言葉は……




