☆レオナルド事件
遡ること一年前。時は文化祭、本番。
「姫……どこにいるんだ」
暗い舞台の上で、一人だけ光を浴びて王子は登場していった。
彼に熱い視線が注がれているのが、舞台袖から見ていてもはっきりとわかる。
イケメン王子が甘いセリフを言うたびに、女子たちが騒がしくなって……
「……王子、レオナルドが私を狙ってる。助けて」
続いて雪雛が、水色のドレスを揺らしながらゆっくりと静かに登場し、セリフを言っていく。
観客たちはうっとりと雪雛を眺め、可愛くて綺麗なその姿に釘付けになっている。
私も舞台袖から、スポットライトを浴びてきらきらと輝く雪雛姫の姿を眺め、憧れの気持ちでいっぱいになった。
やっぱり雪雛は可愛い!
しかも、優しいし頑張り屋だし。
いつか、この子の彼氏になれる男の子は幸せだろうなぁ。
雪雛の出番もいったん終わり、ぼんやりと劇を眺めていたら、クラスメイトの女の子に肩をぽんと叩かれた。
「一ノ瀬さん。そろそろ出番だからよろしくね」
気づいたら自分の出番が近づいていたのだ。
「あ、あぁごめん。教えてくれてありがとう」
髪をワックスでセットし、剣の位置を調整する。
男役のため、声を低くして彼女に笑いかけた。
「え、あ……ええと、うん! 頑張って、ね!」
女の子は頬を赤く染め、急に言葉がたどたどしくなって。
不思議に思ったが、出番が近づいていたのでスタンバイし、私はレオナルドになりきって荒々しく舞台へと入って行った。
「ちっ……この愚民どもが。殺せ! 皆殺しだ!」
マントを翻して、剣を抜ききり、低音の声で怒号をあげる。
そのセリフに観客席が沸き立った。
最低で最強の悪役登場に盛り上がっていると思いきや……
「レオナルド様、かっこいい……」
「あの人誰!? あとでメアド聞きに行こう!」
「レオナルド様、王子に倒されちゃうの!? そんなの嫌っ!」
――え? 嘘だよね。私……女で、しかも悪役なんですけど……!
その後は悪役レオナルドが登場するたびに、黄色い声援が飛び、王子とレオナルドが姫をめぐって決闘する最後の見せ場では、レオナルドを応援する空気がひしひしと見てとれた。
私が男装をして、イケメン王子の存在を霞ませ、劇を台無しにした。
これがレオナルド事件の大まかな内容。
――はい。遡り、終了。
苦笑いをして雪雛に文化祭の思い出を話していく。
「王子に悪いことしちゃったよね。悪役のレオナルドばかり応援されて。いつも人を見下してプライド高い王子役の男の子も、自分が悪役の気持ちになったのかな。アドリブで王子が私の剣に飛び込んできた時は驚いたよ……。雪雛までも、とんでもないアドリブをきかせて、ラストをねじ曲げちゃうし」
「……あれは空気を読んだだけ」
「もう、なんで普段空気読もうとしないくせに、あのときは空気読んじゃったのさ!」
実は、レオナルド事件はあれで終わりではなく、まだ続きがある。
観客の空気を察知した王子役の男の子と雪雛の行動は……
王子は自ら斬られて倒れ、姫はレオナルド……つまり私の方へと駆け寄り、抱きついてきたのだ。
「……やっとあなたといられる。ずっと、レオナルドのことが好きだった」
姫のセリフに会場が沸き立ち、なぜかわからないが感動の空気が辺りを包んでいく。
涙を浮かべて、ハンカチでぬぐう女生徒もいたくらいだ。
――レオナルド、悪役だし最悪なヤツなのに。そんなのが姫と結ばれて、王国を支配していいんだろうか……?
そんな疑問を持っていたのは私だけだったようで、感動ストーリーっぽいまま私たちの劇は幕を閉じ、さらに文化祭での最優秀賞をとった。
その日から私は悠という名前なのに『悠くん』だとか『ジェンヌ(タカラジェンヌからきているらしい)』だとか呼ばれるようになり、バレンタインには大量にチョコを渡され、女子からの告白を次々と受けるようになってしまって。
雪雛の言うように、私がショートヘアにすることで、見た目が男の子に近づき、あの時のようになるかもしれない。
悠くん……ジェンヌ……か。
『悠くんのことがずっと好きでした!』
『ジェンヌ様、私と付き合ってください!』
『悠くん、いっそのこと男の子になっちゃえばいいよ! 男の子になったら一番に教えてね!』
――うん。やっぱり、ショートにするのは絶対によそう。




