第10話:怒涛のゲキを背に、豹馬再び唸る
カンッ! と乾いた凄まじい音とともに、白球は東京ドームのバックスクリーン横へ消えていった。
アール・ジャージの起死回生となる同点3ランホームラン。スコアボードには「3-3」の数字が並び、球場の熱気は最高潮に達している。
「くそっ……!」
マウンド上で膝に手をかけ、荒い息を吐き出す銭形豹馬。
たった一巡で攻略され、完璧だったピッチングをひっくり返されたショックは小さくなかった。頭が真っ白になりかけ、指先が微かに震える。
「おい、豹馬!」
声をかけてきたのは、セカンドの真木秀悟だ。サードの達摩豪、ファーストの達摩厳、そしてショートの猿飛英恵も、当たり前のようにスルスルとマウンドへと集まってきた。
「なにボサッとしとんねん、エースの分際で下向いてたらあかんやろ!」
「せやで! たかが3点追いつかれたくらいで、お前のマグマみたいな闘志が冷めたわけちゃうやろ!」
豪快に笑う達摩兄弟や、凛とした瞳で豹馬を見据える英恵の表情には、焦りの色など微塵もない。
「お前がこれまで背負ってきたものはそんなに軽かったのか?」
真木が静かに、しかし力強く豹馬の肩を叩いた。
川口ヘッドコーチが井草監督に一声かけて
「ここは大塚コーチに一声かけてもらった方が良さそうですね」
そして、ベンチからゆっくりと、しかし一歩一歩に重みのある足取りで一人の男が歩み寄ってきた。
荒武者ジャパン投手コーチ、大塚昭典。
かつて日米の修羅場をくぐり抜け、魂のピッチングで幾多のピンチを救ってきたレジェンドが、マウンドの真ん中に立つ豹馬を鋭い眼光で見据えた。
「大塚コーチ……」
大塚は低く、しかしベンチ裏まで響くような通る声で豹馬に言い放った。
「なにをビビってやがる、豹馬。相手がメジャーのスターだろうが、怪物だろうが関係ない。お前のボールは、そんな簡単に打たれるほどヤワだったか?」
「……っ!」
「忘れるな。お前が投げているのは、日本の、いや、お前自身の誇りをかけたボールだ。四の五の言わず、自分の魂を込めた一番いい球をキャッチャーのミットへ叩き込め。打たれたら、俺が全部引き受けてやるよ」
その渋みのある声、そして揺るぎない信頼に満ちた眼差しが、豹馬の胸の奥で燻っていた火種に再び引火させた。
――そうだ。俺はここで縮こまるためにマウンドに立ってるわけじゃねぇ!
豹馬の双眸がカッと見開かれる。ニヤリと歪んだ口元には、かつての不敵な笑みが戻っていた。
「へっ……! 言われなくても分かってまさぁ。見ててくれよ大塚コーチ、野郎ども! 俺のジャガーボール、ここからもう一回、全開で唸らせてやらぁ!」
「よし、それでいい」
大塚コーチは満足そうに頷くと、静かにベンチへと引き返していった。
内野陣も「頼んだぞ!」とそれぞれの守備位置へ散っていく。
試合が再開される。
なおも同点、ノーナウトランナーなし。DWAの攻撃は4番の強打者、ケイル・シュワーブへと続く。
「さあ、来いよメジャーの強打者さんよぉ!」
豹馬の気迫は、先ほどまでの失点のショックで萎縮するどころか、より一層研ぎ澄まされて輝いていた。
投じられた初球、外角低めへ狂いなくコントロールされた150km/hのジャガーボール!
手元で凄まじい変化を見せた魔球に、シュワーブのバットは完全に詰まった。
――カキィンッ!
打球はボテボテのサードゴロ。猛然とダッシュした達摩豪が鮮やかに捕球し、一塁へ正確な送球を送る。これでワンアウト!
「まずはひとつ!」
続く5番打者は、破壊力抜群の左スラッガー、ヨルドン・アロバレス。
一打勝ち越しの場面だが、息を吹き返した豹馬の投球はさらに冴えわたる。外角高めの150km/hのストレートでファーストストライクを奪うと、追い込んでからの決め球は外角低めへのジャガーボール。
アロバレスの豪快なスイングが大きく空を切る!
――ズバァンッ!!
「バッターアウト、ツーアウト!」
そして、打席には6番・ショートのムーキー・ボッツが入る。
内野陣やベンチからの熱い声援を背に受けて、豹馬は渾身のサイドスローからラストボールを投げ込む。
唸りを上げて手元で鋭く曲がる高速ツーシームに、ボッツのバットはまたも空を切った。
――スパーンッ!!
「ストライク、バッターアウト! スリーアウトチェンジ!!」
同点に追いつかれ、なおも続く絶体絶命のピンチ。
だが、大塚コーチのゲキと大阪弁の熱い仲間たちの叱咤を背に受けて蘇った銭形豹馬は、シュワーブをサードゴロに打ち取り(1アウト)、アロバレスとボッツを連続三振(2アウト、3アウト)に斬って取り、これ以上に追加点を与えなかったのだった!
(第11話へ続く)




