第9話:豹馬の快投と、迫り来る試練
初回に3点のリードをもらった先発・銭形豹馬の勢いは、回を追うごとに増していった。
「うらぁッ! 銭形ツーシーム!」
「ジャガーボールだぁッ!」
150km/hの快速球と、手元で鋭く曲がり落ちる魔球の出し入れに、DWAの強力打線はことごとく術中にハマる。
2回、3回、4回……。球場のバックスクリーンに表示されたスコアボードのDWAの安打数(H)と四死球(B)の欄には、「0」の数字が並び続けていた。
「すごい……! 銭形投手、6回終了時点でDWA打線を相手になんとパーフェクトに抑え込んでいます!」(放送席・稲山亜実)
「彼の投球フォームは独特のサイドスローですからね。初見のDWAのバッター陣はタイミングが全く取れていない。まさに快投ですよ」(放送席・羽根達徳)
6回裏の荒武者ジャパンの攻撃が終わり、スコアは3-0のまま、試合は「魔の終盤」と言われる7回表へと突入する。
ベンチで汗を拭い、給水ポシェットから水分を補給した豹馬が、ニッと不敵に笑ってグラウンドへと向かう。
「へっ、パーフェクトなんてガラじゃねぇが……このまま完封してやらぁ!」
しかし――世界の怪物たちは、ただ黙って引き下がる器ではなかった。
7回表、DWAの攻撃は打順が3巡目に入り、1番・ライトのフォルナンド・タテスJr.から始まる。
「……そろそろ見切ったぞ、少年」
打席に立ったタテスJr.の目が、これまでの打席とは明らかに違っていた。眼光は鋭く澄み渡り、豹馬の腕の振りだけに焦点を合わせている。
(ふん、何回目だろうが関係ねぇ! 初球、ジャガーボールで行くぜ!)
豹馬が腕を振り抜き、手元で鋭く変化するスイーパーを投じる!
だが――!
――ギィィィンッッ!!
タテスJr.は手元で変化した瞬間のボールを力で強引に捉えた! 打球は弾丸ライナーとなってサードの達摩豪の横を破り、レフト前へと突き刺さる!
『ヒット! 7回表、ついにDWAが初安打を放ちました! 銭形のパーフェクト、ここで潰えます!』
「チッ……運良く拾われちまったか」
豹馬がマウンド上で唾を吐く。だが、試練はここからだった。
続く2番のピート・クロウ=アーミー。
初球の150km/hのツーシームに対し、鋭く踏み込んでバットを合わせた。
――カァァンッ!
一二塁間を鮮やかに抜けるライト前ヒット!
あっという間にノーアウト一、二塁。DWAの打者たちが、たった一巡の間に豹馬の軌道と球種を見極め、チーム全体で共有していたのだ。
「豹馬! 落ち着け、一つずつだ!」
ショートの位置から猿飛英恵が声を張り上げる。
だが、ノーアウト一、二塁の絶体絶命のピンチで打席に立つのは、DWAのキャプテンであり3番の巨砲、アール・ジャージ。
ジャージは不敵な笑みを浮かべ、バットを威圧感たっぷりに構える。
(くそっ……! 呑まれてたまるかぁッ!!)
豹馬が渾身の力で投げ込んだ渾身の150km/hストレート!
だが、その球はわずかにボール半個分、真ん中寄りに入ってしまった――!
――ドドガァァァンッッ!!
東京ドーム全体を揺るがすような恐ろしい打球音が響き渡る!
ジャージの豪快なスイングから放たれた白球は、高々と舞い上がり、バックスクリーン横の看板を直撃する特大の同点3ランホームランとなった!
『行ったぁぁぁーっ!! アール・ジャージ、起死回生の一発!! 3対3! DWA、一瞬にして同点に追いつきました!!』
「嘘だろ……」
マウンド上で呆然と立ち尽くす豹馬。
6回まで完璧に封じ込めていた世界の怪物たちが、一瞬の隙を見逃さず、一気に牙を剥いて襲いかかってきたのだ。
勝ち誇るジャージがダイヤモンドを一周する中、東京ドームは静まり返り、豹馬にはかつてない重圧と試練が重くのしかかっていた――。
(第10話へ続く)




