↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はバンド名がダサいと言った  作者: 山吹 ことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/20

第六話 誰が歌うんだよ

 ライブの翌日。


 三人でラーメンを食べていた。


 昨日まで四人だったのに。


 テーブルにいるのは、俺とシズクとヒロキだけだ。


「で」


 ヒロキが麺を持ち上げながら言う。


「誰が歌うの」


「いきなりそこ?」


「一番大事じゃない?」


「まあ」


 そうだけど。


 レンが辞めた。


 雨音クラブは続ける。


 そこまでは決めた。


 でも。


 ボーカルがいない。


「新しいボーカル探すとか」


 俺が言う。


 シズクが首を傾げる。


「誰」


「知らない」


「募集する?」


「それもあり」


 ヒロキが麺をすする。


「知らない人入れるの面倒そう」


「お前が言う?」


「人見知りだから」


「初耳」


「言ってないし」


「でも、新しい人入れるならオーディションとか?」


 シズクが言う。


「そこまでちゃんとやる?」


「やるなら?」


「知らん」


「アキ、そればっかり」


「今何も決まってないんだから仕方ないだろ」


 昨日。


 終わらせないとは言った。


 でも。


 その先は本当に何も考えていなかった。


 誰かを探す。


 知らない人を入れる。


 一から曲を覚えてもらう。


 雨音クラブの曲を。


 レンじゃない誰かに。


 そこまで考えて。


 少しだけ変な感じがした。


「アキ」


 ヒロキが言う。


「何」


「また考えてる」


「考えるだろ」


「ラーメン伸びるよ」


「そこ?」


「大事」


「お前ほんと食い物優先だな」


 俺の横では。


 ミョンがテーブルの餃子を見ていた。


「食うなよ」


「なぜじゃ」


「それ俺の」


「一つ」


「ダメ」


「けち」


 シズクがこっちを見る。


「ミョン?」


「餃子狙ってる」


「食べられるの?」


「食える」


「じゃああげれば?」


「俺のなんだけど」


「神様に餃子供える人初めて見た」


「神とは言ってないらしい」


「まだそこ?」


 ミョンが餃子を一つ取った。


「おい!」


 皿から。


 一つ。


 消える。


「……消えた」


 ヒロキが言う。


「ほんとにいるんだな」


「今さら?」


「食べ物なくなると実感ある」


「基準そこ?」


「大事」


「お前ら似てない?」


「誰と」


「ミョン」


「見えないから分かんない」


 ミョンは満足そうに餃子を食べていた。


「うまい」


「もう一個取るなよ」


「けち」


「一個やっただろ」


「供物は多い方がよい」


「勝手に宗教作るな」


     ◇


 食べ終わって。


 三人で店を出る。


 ヒロキは駅の方へ。


 シズクも途中で別れる。


「じゃあ次のスタジオ」


 シズクが言う。


「水曜でいい?」


「うん」


 ヒロキ。


「空いてる」


「何やる?」


 俺が聞く。


「それ決めるのアキじゃない?」


「何で」


「リーダー」


「いつ決まったの」


「最初からじゃない?」


「知らない」


「じゃあ水曜ね」


「うん」


 三人で別れる。


 俺は一人。


 いや。


 ミョンもいる。


「アキが歌えばよい」


 突然。


 ミョンが言った。


「は?」


「歌」


「何で俺」


「曲を作っておるのはお前じゃろ」


「だからって」


「歌えぬのか」


「歌えないことはない」


 デモを作る時。


 仮歌くらいは入れる。


 誰かに聞かせるためじゃない。


 メロディを確認するため。


 レンに渡す前に。


 どんな感じになるか。


 その程度。


「では歌えばよい」


「人前で歌うのは違う」


「何が」


「役割」


「役割?」


「俺はギター」


「今はボーカルがおらぬ」


「だから探す」


「なぜ」


「なぜって」


 ミョンが俺を見る。


「役も変わるのではないか?」


 少し。


 言葉が残った。


「簡単に言うなよ」


「簡単じゃ」


「お前はな」


「嫌なら歌わなければよい」


「どっちなんだよ」


「わしが決めることではない」


 また。


 それだった。


 ミョンは音のことは言う。


 でも。


 最後には俺に返す。


「……分かってるよ」


「何が」


「俺が決めるって」


「ならよい」


「腹立つ」


     ◇


 次の日。


 シズクから連絡が来た。


『今日会える?』


 近くのカフェ。


 二人で向かい合う。


「何」


「アキさ」


「うん」


「歌わない?」


「……」


「何その顔」


「昨日ミョンにも言われた」


「じゃあ決まりじゃん」


「何で二票で決まるんだよ」


「ヒロキにも聞く?」


「そういう問題じゃない」


 シズクがストローを回す。


「デモで歌ってるでしょ」


「それは誰にも聞かせない前提だから」


「私たち聞いてるよ」


「メンバーだから」


「ライブもメンバーとやるじゃん」


「客いるだろ」


「いるね」


「無理」


「一回だけ」


「嫌」


「スタジオで」


「それなら」


 言ってしまった。


 シズクが笑う。


「じゃあ決まり」


「待て」


「ヒロキに送る」


「待てって!」


「一回だけでいいから」


「何でそんな俺に歌わせたいの」


 聞く。


 シズクは少し考えた。


「新しい人探すより早いから」


「現実的」


「それもある」


「他は」


「アキ、曲全部知ってるじゃん」


「作ってるからな」


「メロディも、歌詞も、どこで息するかも」


「レンがどう歌うかも」


「それはもういい」


 少しだけ。


 胸に刺さった。


「……うん」


「新しい人入れて、一から全部覚えてもらうより」


「うん」


「アキが歌った方が、今の雨音クラブには近い気がする」


「近い?」


「少なくとも、知らない人よりは」


「でも俺、ボーカルじゃない」


「今はいないじゃん」


「それミョンにも言われた」


「じゃあ二票」


「だから二票で決めるな」


 シズクが笑う。


「あと」


「何」


「デモ聞いてるけど」


「うん」


「別に歌えない声じゃないよ」


「……褒めてる?」


「かなり」


「その言い方やめろ」


「事実」


「ライブで歌うのとは違う」


「だからまずスタジオ」


「……一回だけ」


「うん」


「それでダメなら」


「新しいボーカル探す」


「そう」


「分かった」


 言ってから。


 少しだけ後悔した。


     ◇


 その夜。


「お前ら勝手すぎる」


 ミョンに言う。


「わしは何もしておらぬ」


「最初に言っただろ」


「歌えばよいと」


「それ」


「嫌なら歌わなければよい」


「もう歌うことになった」


「そうか」


「反応薄くない?」


「お前が決めたのであろう」


「シズクに押された」


「最後に頷いたのはお前じゃ」


「……そうだけど」


 ミョンが菓子を食べる。


「何をそんなに怖がる」


「怖がってない」


「嘘じゃ」


「……」


「歌えぬのではないのじゃろ」


「歌えないわけじゃない」


「なら何が嫌じゃ」


 少し考える。


「俺の役じゃないと思ってた」


「また役か」


「だってずっとそうだったんだよ」


「レンが歌って」


「うん」


「お前が弾いて」


「そう」


「今、レンはおらぬ」


「分かってる」


「なら」


 ミョンが言う。


「今までと同じである必要もないのではないか」


 返事ができなかった。


     ◇


 ミョンが静かになってから。


 ギターを持った。


 いつもの曲。


 レンが歌っていた曲。


 イントロを弾く。


 歌い出し。


 一行だけ。


 声を出す。


「……」


 止めた。


「無理」


「何がじゃ」


「いたのかよ!」


「最初からおる」


「聞くなよ!」


「歌えと言ったのはわしじゃ」


「だからって今聞くな!」


 ミョンが笑う。


「下手ではない」


「評価すんな」


「では何が嫌なのじゃ」


「分かんない」


 音程を外したわけでもない。


 声が出なかったわけでもない。


 ただ。


 自分の曲なのに。


 自分が歌うと。


 急に知らない曲みたいに聞こえた。


 レンの声が入る前提で作った曲。


 そこへ。


 俺の声が入る。


 違和感しかない。


「やっぱ無理だろ」


「一行で決めるのか」


「十分」


「明後日もう一度やればよい」


「簡単に言うな」


「簡単じゃ」


「お前はそればっかりだな」


 ミョンが笑う。


 次のスタジオまで。


 あと二日。


 ギターじゃなく。


 歌のことで緊張する日が来るとは思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。