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神様はバンド名がダサいと言った  作者: 山吹 ことり


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2/20

第二話 神様、ついてくる

「出てけ」


「なぜじゃ」


「知らないやつが部屋にいるから」


「知ったであろう」


「名前しか知らない」


「十分じゃ」


「十分じゃない」


 朝から何をやっているんだろうと思う。


 ミョンと名乗った女は、俺の机の前に座っていた。


 昨日。


 神社から帰って。


 そのまま寝た。


 朝起きたら。


 いた。


 普通に。


 俺の部屋に。


「菓子」


「ない」


「昨日はあった」


「神社に落としたやつ?」


「うむ」


「お前が食ったの?」


「もらった」


「あれ俺のだったんだけど」


「やると言った」


「……言ったけど」


 そこまで覚えているなら。


 昨日の神社にいたということになる。


「お前、あそこからついてきたの?」


「たぶん」


「たぶんって何」


「気づいたらここにおった」


「怖いんだけど」


「失礼じゃな」


「普通に怖いだろ」


 玄関の鍵は閉まっていた。


 窓も。


 そもそも。


 こんな格好のやつが外を歩いていたら。


 もっと目立つ。


「どうやって入ったの」


「知らぬ」


「知らぬで入ってくるなよ」


「わしに言うな」


「誰に言うんだよ」


 ミョンは気にした様子もなく、机の上を見ている。


 何か食べ物がないか探しているらしい。


「勝手に触るなよ」


「まだ触っておらぬ」


「見てる」


「見るくらいよかろう」


「人の部屋を物色するな」


 試しに。


 肩を押す。


「何をする」


「触れる」


「当たり前じゃ」


「当たり前じゃない」


 ちゃんと感触がある。


 幽霊ではない。


 少なくとも。


 触れる。


「じゃあ人間?」


「知らぬ」


「自分のこと何も知らないの?」


「ミョンじゃ」


「名前の話してない」


「菓子が好きじゃ」


「プロフィール増やすな」


 少し考える。


「神様?」


「神とは言っておらぬ」


「じゃあ何」


「音を聞くものじゃ」


「意味分かんない」


「わしにも分からぬ」


「お前、自分のことだろ」


「聞こえるものは聞こえる」


「何が」


「音」


「それは俺も聞こえる」


「お前とは違う」


「何が違うんだよ」


 ミョンは答えず。


 また机を見る。


「菓子は?」


「話戻すな」


     ◇


 昼過ぎ。


 スマホを見る。


 昨日送った連絡。


 シズクから返信が来た。


『今日スタジオ行く』


 少しして。


 ヒロキも。


『一応行く』


 一応って何だ。


 レンだけ。


 既読がつかない。


 昨日。


 辞めると言って。


 そのまま。


「……」


「何を見ておる」


「連絡」


「誰からじゃ」


「メンバー」


「昨日の?」


「そう」


「帰ると言った者は?」


「来ないかも」


「そうか」


「何その顔」


「何も」


「絶対何か思ってるだろ」


「別に」


「お前が別にって言うな」


 スマホをポケットに入れる。


「行くか」


「どこへ」


「スタジオ」


「音がある?」


「あるけど」


「行く」


「お前も?」


「当然じゃ」


「当然じゃない」


「置いていくのか」


「置いていきたい」


「わしは行く」


「聞けよ」


 結局。


 普通についてきた。


     ◇


 途中のコンビニ。


 飲み物を取って。


 レジへ向かおうとしたところで。


 ミョンが止まった。


 菓子売り場。


「これ」


「買わない」


「昨日のと同じ」


「知らん」


「供えたものは特別なのじゃ」


「ただ落としただけ」


「そのあとやると言った」


「細かいな」


「買え」


「命令すんな」


 無視して歩く。


 後ろから。


「これ」


「聞こえてる」


「これじゃ」


「分かったって」


「買うのか」


「買わない」


「けち」


「何で昨日会ったばっかのお前に菓子買わなきゃいけないんだよ」


「昨日もくれた」


「事故だよ」


「今日は事故ではない」


「余計買いたくなくなった」


 レジの前まで行く。


 止まる。


 戻る。


「一袋だけだからな」


「うむ」


「毎回買うと思うなよ」


「うむ」


「絶対聞いてないだろ」


 結局。


 昨日と同じ菓子を一袋買った。


 自分でも甘いと思う。


     ◇


 スタジオには。


 シズクが先にいた。


「おつかれ」


「おつかれ」


 ミョンも。


 普通について入る。


 俺の横を通って。


 シズクの前へ。


 シズクは何も言わない。


「……」


 ミョンが顔を近づける。


 シズクはベースを出している。


「……見えてない?」


「何が?」


「いや」


 ミョンがシズクの目の前で手を振る。


 反応なし。


「見えておらぬ」


「マジか」


「アキ、誰と喋ってるの?」


「ちょっと待って」


「何を待つの」


「俺も分かんない」


 そこへ。


 ドアが開いた。


「おつかれ」


 ヒロキ。


「ヒロキ」


「何」


「ここに女いる?」


 ヒロキがシズクを見る。


「いるけど」


「シズク以外」


「いない」


「だよな」


「大丈夫?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


 ミョンが俺の横で笑っている。


「面白いのう」


「お前のせいだろ」


「アキ」


 シズクの声が少し低くなる。


「ほんとに何?」


「説明すると長い」


「短く」


「神社で菓子落としたら、変な女がついてきた」


「長くていいから説明して」


「だよな」


     ◇


 一通り話した。


 神社。


 菓子。


 昨日の願い。


 帰ったら部屋にいたこと。


 ミョンという名前。


「で」


 シズクが言う。


「その子が今ここにいるの?」


「いる」


「どこ」


「俺の横」


「そこ?」


「うん」


 シズクが。


 俺の横を見る。


 当然。


 目が合わない。


「寝不足じゃない?」


「俺もそう思う」


 ヒロキ。


「俺だけがおかしいみたいに言うなよ」


「だって見えないし」


「俺だってそう思うよ」


 ヒロキが言う。


「ミョン、なんか動かせる?」


「できるぞ」


「できるの?」


「うむ」


 俺が机の上のペットボトルを指す。


「これ」


 ミョンが持つ。


 持ち上げる。


「うわ」


 シズクが立ち上がった。


「浮いた」


 ヒロキも。


 少しだけ目を見開く。


「それは怖い」


「だろ!」


「置いて」


 シズク。


 ミョンが置く。


「……ほんとにいるんだ」


「だから言ってるだろ」


「見えないけど」


「俺には見える」


「何でアキだけ?」


「知らん」


 ミョンを見る。


「何で?」


「知らぬ」


「お前も?」


「うむ」


「何なら知ってるんだよ」


「菓子はうまい」


「帰れ」


 ミョンが笑う。


     ◇


 レンは。


 結局来なかった。


「どうする?」


 ヒロキが聞く。


「何が」


「練習」


「やる」


「三人で?」


「来ないんだから仕方ないだろ」


 そう言ったものの。


 三人で。


 何をどうやるのか。


 考えていなかった。


 俺がギター。


 シズクがベース。


 ヒロキがドラム。


 マイクだけ。


 誰もいない。


「とりあえず一曲目」


 俺が言う。


「うん」


 ヒロキがスティックを上げる。


 カウント。


 イントロ。


 ここまでは。


 いつも通り。


 ギター。


 ベース。


 ドラム。


 次。


 レンが入るところ。


 何もない。


「……」


 分かっていたのに。


 一瞬。


 待ってしまった。


 声が来る。


 そんな気がした。


 来ない。


 俺は。


 その空いたところへギターを足す。


 シズクのベースも。


 少し前に出る。


 ヒロキも。


 いつもよりフィルが多い。


 三人しかいないのに。


 音だけは。


 いつもより多い。


 それでも。


 足りない。


 曲の真ん中に。


 大きな穴が開いている。


 音を詰めても。


 そこだけは埋まらない。


 一番。


 サビ。


 途中まで。


「止めよ」


 俺が言う。


 音が切れる。


「……無理だな」


 ヒロキ。


「うん」


 シズクも否定しない。


「もう一回やる?」


「今日はいいんじゃない?」


 シズクが言う。


 誰も。


 すぐには次を始めようとしなかった。


 いつもなら。


 誰かがミスしたとか。


 テンポが速いとか。


 もう一回とか。


 何かある。


 今日は。


 何もない。


 ただ。


 一人いない。


 それだけだった。


「何じゃこれは」


 ミョンの声。


「何」


 部屋の隅。


 壁に貼ってあるステッカーを見ている。


 俺たちが前に作ったやつ。


「雨音クラブ」


「俺らのバンド名」


「これが?」


「そう」


「雨音」


「そう」


「クラブ」


「そうだよ」


 ミョンは。


 少し考えた。


 真面目な顔で。


「ダサいのう!」


「お前にだけは言われたくねえよ、ミョン!」


 思わず。


 大声が出た。


 シズクとヒロキが同時に俺を見る。


「何?」


「……何でもない」


「またミョン?」


「うん」


「何て?」


「言わない」


「気になる」


「絶対言わない」


 ミョンは。


 まだ笑っている。


「そんなにおかしい?」


「かなり」


「お前の名前も大概だからな」


「ミョンは良い名じゃ」


「自分で言うな」


「アキ」


 シズク。


「今度は何て?」


「こっちの話」


「ずっとこっちの話してるけど」


「もういいだろ」


 雨音クラブ。


 ボーカルは来なかった。


 三人で音を出して。


 全然埋まらない穴だけが残った。


 代わりに。


 どこの何かも分からない女に。


 バンド名を全力で馬鹿にされた。

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