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神様はバンド名がダサいと言った  作者: 山吹 ことり


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11/22

第十一話 俺が歌う曲

「ボーカル募集、やめる?」


 次のスタジオで。


 シズクが言った。


「いきなり?」


「だってアキ歌えるじゃん」


「一回やっただけ」


「またやってもいいって言ったんでしょ」


「何で知ってる」


「顔」


「また?」


「出てる」


 ヒロキも頷く。


「俺も今のままでいい」


「マジ?」


「うん」


「新しい人探すの面倒」


「理由そこ?」


「それだけじゃない」


「じゃあ何」


 ヒロキは少し考える。


「アキの曲だし」


「うん」


「アキが歌う方が早い」


「合理的すぎる」


「あと」


「何」


「もう三人でライブできたし」


「……」


「わざわざ誰か入れなくてもよくない?」


 シズクも。


「私もそう思う」


「二人とも簡単に言うな」


「嫌なの?」


「嫌っていうか」


 マイクを見る。


 前なら。


 そこに立つのはレンだった。


 今は。


 俺が立つ。


 まだ変な感じはする。


 でも。


 前ほど。


 そこから逃げたいとは思わなかった。


「……反対する理由もない」


「じゃあ」


 一度息を吐く。


「募集はしない」


 言った。


 シズクが頷く。


 ヒロキも。


「決まり」


「軽いな」


「何か儀式いる?」


「いらないけど」


 ミョンが壁際で笑っている。


「何」


「いや」


「絶対何か思ってるだろ」


「自分で決めたのう」


「……うるさい」


「褒めておる」


「そうは聞こえない」


 シズクが俺を見る。


「で」


「何」


「新しい曲作って」


「早くない?」


「今の三人の曲」


 その言葉で。


 少し止まった。


「今の三人」


「うん」


「今ある曲じゃダメ?」


「ダメじゃないけど」


 シズクがベースの弦を軽く鳴らす。


「全部レンが歌ってた曲でしょ」


「まあ」


「アキが歌っても、それは変わらないし」


 ヒロキも。


「一曲くらいあってもよくない?」


「何が」


「最初から三人のやつ」


「……」


 今までの曲は全部。


 どこかでレンの声を想定して作っていた。


 この高さ。


 このメロディ。


 この言葉。


 レンならどう歌うか。


 それが最初から頭にあった。


「三人の曲」


「うん」


「……分かった」


     ◇


 家に帰って。


 ギターを持つ。


 コードを鳴らす。


 一つ。


 二つ。


「レンの音じゃ」


 ミョンが言った。


「いきなり?」


「今の」


「ただのコードだぞ」


「前の雨音クラブの音」


「悪い?」


「悪くはない」


「じゃあいいだろ」


「新しい曲ではないのか?」


「新しいよ」


「なら、なぜ前と同じ音を探す」


「別に探してない」


「探しておる」


「……」


 腹が立つ。


 でも。


 もう一度弾く。


 さっきと同じコード。


 その上に。


 無意識にメロディを乗せる。


 途中で止めた。


「……あ」


「何じゃ」


 分かった。


 レンなら。


 ここで声が伸びる。


 そこまで。


 最初から作っていた。


「くそ」


「何を怒っておる」


「俺に」


「面倒じゃのう」


「うるさい」


 コードを変える。


 一つ。


 今までなら選ばなかった形。


 もう一つ。


 少しだけ。


 指が止まる。


「これ」


 鳴らす。


 さっきより。


 狭い。


 派手じゃない。


 でも。


 声を置きやすい。


 自分の。


「……」


 そのまま歌う。


 言葉が出る。


「昨日までの音を

 まだ部屋に置いたまま」


 ミョンが顔を上げた。


「何」


「続けよ」


「命令すんな」


「今のは止めぬ方がよい」


「何で」


「聞こえたからじゃ」


「何が」


「お前」


「またそれ?」


「うむ」


 もう一度。


「昨日までの音を

 まだ部屋に置いたまま」


 次。


「片づける理由もなくて

 捨てるほどでもなくて」


 少し。


 自分でも分かった。


 さっきまでと違う。


 レンが歌うところを。


 想像していない。


 自分が。


 どう歌うか。


 それだけ考えている。


「今のお前じゃ」


 ミョンが言う。


「……そう?」


「うむ」


「じゃあこれでいく」


「わしに決めさせるな」


「さっきまで口出してただろ」


「聞こえたものを言っただけじゃ」


「十分口出してる」


「最後はお前が決めよ」


「便利だな」


 でも。


 また弾く。


 次の言葉を探す。


 一度止まって。


 戻って。


 変えて。


 また歌う。


 気づけば。


 ずっとギターを持っていた。


 その夜。


 久しぶりに。


 一曲を最後まで作りたくなった。


     ◇


 次のスタジオ。


「途中まで」


 俺が言う。


「もうできたの?」


 シズク。


「途中までって言っただろ」


「早い」


「昨日ずっとやってた」


「暇だった?」


「曲作ってたって言ってんだろ」


 ヒロキがスティックを持つ。


「とりあえずやる?」


「うん」


 コード。


 歌。


 まだ。


 一番とサビだけ。


 俺が弾いて。


 歌う。


 ヒロキが途中から入る。


 シズクも。


 一度。


 最後まで行く。


「どう?」


 聞く。


 シズクが少し考える。


「サビ、ベースもっと動いていい?」


「どんな」


「もう一回やって」


「うん」


 イントロ。


 歌。


 サビ。


 シズクのベースが。


 さっきより前に出る。


「あ」


 止める。


「何」


「今のいい」


「でしょ」


「もう一回」


 今度は。


 ベースを聞きながら歌う。


 少しだけ。


 メロディを変える。


「そこ変えた?」


「うん」


「前の方が好き」


 シズク。


「え」


「今のだとベースと同じ方向行く」


「じゃあ戻す」


「早」


「合わないなら変えるだろ」


 ヒロキが言う。


「サビ入る前、一拍空けない?」


「何で」


「その方が入った時でかくなる」


「やってみる」


 もう一回。


 今度は。


 サビ前。


 ヒロキが一拍。


 何も叩かない。


 空く。


 そこへ。


 三人で入る。


「……これ」


 俺が言う。


「いい」


 シズクも頷く。


「じゃあ一拍空ける」


「うん」


 また最初から。


 ヒロキのドラム。


 シズクのベース。


 俺のギター。


 歌。


 一回やるたび。


 少し変わる。


 俺が持ってきた曲なのに。


 もう。


 家で作った時と同じじゃない。


「ここ、ギター減らして」


 シズク。


「何で」


「歌聞こえにくい」


「俺のギターだぞ」


「歌もアキでしょ」


「……そうだった」


 ヒロキが笑う。


「忘れるなよ」


「まだ慣れてないんだよ」


 ギターを少し減らす。


 歌う。


 今度は。


 声が前に出る。


「……ほんとだ」


「でしょ」


「腹立つ」


「何で」


「正しいから」


 三人で。


 何度も。


 変える。


 前は。


 俺が作って。


 レンに渡して。


 レンが歌える形へ持っていくことが多かった。


 もちろん。


 シズクもヒロキも。


 あとから音を足していた。


 でも。


 曲の真ん中には。


 最初からレンの声があった。


 今は違う。


 誰か一人のために。


 形を決めていない。


 ヒロキが叩けば。


 そこが変わる。


 シズクが弾けば。


 また変わる。


 俺も。


 それを聞いて。


 歌い方を変える。


「もう一回」


 俺が言う。


「何回目?」


 ヒロキ。


「数えるな」


「最近それ多い」


「いいから」


 もう一度。


 最初から。


 曲が終わる。


 少しだけ。


 静かになる。


 ミョンが言った。


「初めて聞いた」


「何が」


「三人の曲」


「……」


 シズクとヒロキには聞こえない。


 でも。


 俺は少し笑った。


「何?」


 シズクが聞く。


「何でもない」


「ミョン?」


「うん」


「褒めた?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


「こいつ分かりにくいから」


「失礼じゃのう」


「聞こえてないからいいだろ」


「わしには聞こえておる」


「知ってる」


 まだ。


 完成していない。


 歌詞も。


 二番も。


 細かいところも。


 これからだ。


 でも。


 この曲は。


 レンの代わりに俺が歌うための曲じゃない。


 最初から。


 今の三人で作って。


 俺が歌う曲だった。


 その違いが。


 思っていたより。


 大きかった。

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