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【短期連載・完結】「純愛」以外は即脱落!? 追放された令和高校生の僕らが、不便な平成パラレルワールドで真実の愛を見つけるまで  作者: eccen.


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第4話 本隊の全滅と残された二組

 翌朝。


 蝉の声で目が覚めた。


 俺はゆっくりと身体を起こす。


「……朝か。」


 昨日の出来事が夢だったらよかった。


 そう思いながら辺りを見回す。


 しかし、目の前に広がっていたのは、やはり誰もいない平成の商店街だった。


 昨夜はゲームセンター近くの古い喫茶店で一夜を明かした。


 木製の椅子。


 少し色あせたソファ。


 壁には「アイスコーヒー 三五〇円」と書かれた手書きのメニュー。


 店主はいない。


 それでも不思議なことに、水道は使えたし、電気もついていた。


「おはようございます。」


 優しい声が聞こえる。


 振り向くと、あゆみが窓際で朝日を浴びながら微笑んでいた。


 制服の袖を少しまくり、紙コップに入れた水を差し出してくれる。


「ありがとうございます。」


「よく眠れましたか?」


「……あんまり。」


 苦笑いするしかなかった。


 目を閉じるたび、翔太が光に包まれて消えた瞬間が浮かぶ。


 本当に死んだのだろうか。


 それとも、別の場所へ送られたのか。


 何も分からない。


 分かるのは、このゲームが冗談では済まないということだけだった。


 あゆみも表情を曇らせる。


「昨日は……怖かったですね。」


「うん。」


「でも。」


 彼女は少しだけ笑った。


「蓮くんがいてくれたから、私は一人じゃありませんでした。」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。


 高校に入ってから、「いてくれてよかった」なんて言われたことは一度もなかった。


 SNSでは既読だけが増え、リアルでも空気みたいな存在だった俺にとって、その一言は思っていた以上に大きかった。


「俺も。」


 自然と口が動く。


「一人じゃなくてよかった。」


 あゆみは照れくさそうに笑い、窓の外へ視線を向けた。


 その時。


 ピリリリリ……


 二人のガラケーが同時に鳴る。


 画面を開く。


第二試練を開始します。


制限時間 本日18時まで


純愛度が20%未満のペアは脱落候補となります。


「二十……?」


 昨日はゼロだった数字。


 俺は恐る恐る画面の下を見る。


現在の純愛度 12%


「増えてる。」


 思わず声が漏れた。


「えっ?」


 あゆみも画面を見る。


「本当……。」


 二人とも昨夜まで0%だったはずだ。


 特別なことは何もしていない。


 プリクラも撮っていない。


 ゲームもクリアしていない。


「どうして……。」


 俺は首をかしげる。


 すると、あゆみが小さく笑った。


「昨日、一緒に歩いたからでしょうか。」


「歩いただけで?」


「瓶コーラを半分こしたり。」


「たくさんお話ししたり。」


「……。」


 そう言われると、思い当たることはある。


 昨日の俺たちは、ゲームを攻略しようとしていたわけじゃない。


 ただ、お互いのことを知ろうとしていただけだ。


 その時間が数字になったのだろうか。


 もしそうなら──。


「このゲーム。」


 俺はぽつりと呟く。


「効率じゃ勝てないのか。」


 昨日までの俺なら、きっと攻略サイトを探していた。


 最短ルート。


 最速クリア。


 タイパ重視。


 でも、この世界には検索も攻略情報も存在しない。


 あるのは、自分の言葉だけだった。


 一方、その頃。


「なんでだ!」


 商店街の反対側では、大和の怒鳴り声が響いていた。


「なんで5%なんだよ!」


 ガラケーを握り締める手が震えている。


 隣にはマミ。


 少し離れた場所には陸とさくら。


 二組とも無事だった。


 しかし。


 画面に表示された数字は残酷だった。


大和・マミ 5%


陸・さくら 3%


「昨日、一日中一緒にいたのよ?」


 マミは呆れたように言う。


「それなのに5%?」


「知らねぇよ!」


 大和は苛立ちを隠さない。


「もっと手でも繋げばいいのか!?」


「抱きつけばいいのか!?」


「だから違うって言ってるでしょ!」


 マミが睨み返す。


「あんたは全部、自分のためじゃない。」


「クリアしたいから。」


「助かりたいから。」


「そんな気持ちで近付かれても、嬉しくない。」


 その言葉に、大和は黙り込む。


 反論できない。


 全部、その通りだったからだ。


 一方の陸は、さくらに向かって無理に笑顔を作る。


「ねぇ。」


「今日はデートってことで。」


「喫茶店でも行く?」


 さくらは静かに首を横へ振る。


「無理に笑わなくていいです。」


「……え?」


「あなた。」


「ずっと私じゃなくて、ガラケーの数字ばかり見ています。」


 陸はハッとして画面を隠した。


 図星だった。


 彼の頭の中にあるのは「どうすれば数字が増えるか」だけ。


 目の前の相手ではなかった。


 その頃、俺とあゆみは商店街を抜け、小さな公園へ来ていた。


 ブランコ。


 滑り台。


 錆びたジャングルジム。


 どれも古いが、丁寧に手入れされている。


 誰もいないのに。


「この公園。」


 あゆみが懐かしそうに目を細める。


「放課後、よく友達と来たんです。」


「鬼ごっこしたり。」


「アイスを食べたり。」


「今でも覚えてる?」


「全部じゃありません。」


 彼女は少し寂しそうに笑う。


「でも、楽しかった気持ちだけは残ってるんです。」


 その言葉を聞いた瞬間。


 俺のガラケーが、静かに震えた。


 画面を見る。


純愛度 18%


「え……?」


 俺は思わず息を呑む。


 ただ話を聞いていただけなのに。


 数字が、一気に6%も増えていた。


 そして、その様子を。


 公園の入口から、大和がじっと見つめていた。


 公園のブランコが、風に揺れる。


 ギィ……。


 ギィ……。


 静かな音だけが響いていた。


 俺はガラケーを見つめたまま、何度も数字を確認する。


純愛度 18%


 間違いない。


 さっきまで十二%だった数字が、一気に増えている。


「蓮くん。」


 あゆみが不思議そうに首をかしげた。


「どうかしました?」


「……十八%になってる。」


「えっ?」


 彼女も自分の画面を開く。


 同じ数字だった。


「どうして……。」


 俺は公園を見回す。


 何かイベントをクリアしたわけじゃない。


 アイテムを手に入れたわけでもない。


 ただ、あゆみの思い出話を聞いて、一緒に笑っただけだ。


 その時だった。


 後ろから拍手が聞こえた。


「なるほどな。」


 聞き覚えのある声だった。


 振り返る。


 公園の入り口に立っていたのは、大和だった。


 その後ろにはマミ。


 少し離れた場所には陸とさくらもいる。


 四人とも疲れ切った表情をしていた。


「見つけたぞ。」


 大和はゆっくり近付いてくる。


「やっぱりお前らだったか。」


「何が?」


 俺が警戒すると、大和は鼻で笑った。


「純愛度を上げる方法だよ。」


「ずっと見てた。」


「お前ら、攻略法を隠してただろ。」


「隠してない。」


「じゃあ何で上がる?」


「俺たちにも分からない。」


 それは本当だった。


 偶然ではないと思う。


 でも、狙って上げられるものでもない。


「嘘つけ。」


 大和は俺の胸ぐらを掴む。


「教えろ。」


「どうやった。」


「だから知らない!」


 俺が答えても、大和は離さない。


 その時。


「やめて!」


 あゆみが間に入った。


「蓮くんは本当に知らないんです!」


「どけ。」


「嫌です!」


 小柄な身体で俺をかばうように立つ。


 その姿を見て、大和は一瞬だけ驚いた顔をした。


「……何だよ。」


「そんなに庇うほどの男か?」


 あゆみはまっすぐ大和を見つめ返した。


「蓮くんは。」


「昨日も、ずっと私の話を聞いてくれました。」


「困っていたら助けてくれました。」


「だからです。」


 たったそれだけの言葉だった。


 でも。


 俺のガラケーが静かに震えた。


 画面を見る。


純愛度 22%


 条件達成。


 その文字が表示される。


 同時に、空から優しいチャイムが鳴り響いた。


 ポーン……


第二試練 達成


蓮・あゆみ クリア


 俺たちは思わず顔を見合わせる。


「クリア……?」


 その一方で。


 大和たち四人のガラケーが、一斉に赤く点滅し始めた。


 ピリリリリ!!


「な、何だ!?」


 大和が慌てて画面を開く。


制限時間終了まで 10分


純愛度不足


 陸も悲鳴を上げる。


「まだ三%しかない!」


 マミは舌打ちした。


「だから言ったじゃない。」


「人の気持ちは数字じゃないって。」


「うるせぇ!」


 焦った大和は、マミの両肩を掴む。


「頼む!」


「好きって言え!」


「抱きしめてもいい!」


「数字だけ上げろ!」


 マミの目が冷たく細くなる。


「最低。」


 パシンッ!


 乾いた音が公園に響いた。


 大和は頬を押さえたまま固まる。


「私は道具じゃない。」


「ゲームをクリアするためのアイテムでもない。」


「……。」


「そんなことも分からない人とは、一緒にいたくない。」


 そう言ってマミは背を向ける。


 その瞬間だった。


 彼女のガラケーが鳴る。


ペア解消を確認しました。


 大和の画面にも同じ表示が出る。


「え?」


 そして数字が変わった。


純愛度 0%


「嘘だろ……。」


 さっきまでの五%さえ消えた。


 大和の顔が青ざめる。


 一方の陸も必死だった。


「さくら!」


「俺、本気だから!」


 さくらは静かに微笑む。


「違います。」


「あなたが好きなのは。」


「私じゃなくて。」


「令和へ帰ることです。」


 陸は何も言い返せなかった。


 図星だった。


 彼は一度も、さくら自身を見ようとしていなかった。


 その瞬間。


 ガラケーが冷たく震える。


純愛度 0%


「そんな……。」


 陸は膝をつく。


 店内ではなく、公園の空気そのものが変わり始めた。


 空が曇る。


 風が強くなる。


 スピーカーから、あの機械的な声が流れた。


『第二試練を終了します。』


『条件未達成のペアを確認。』


『脱落処理を開始します。』


 大和が顔を上げる。


「待て!」


「まだ時間が!」


『残り時間。』


 電子音が鳴る。


5


「嫌だ!」


4


 陸がさくらへ手を伸ばす。


「お願いだ!」


「助けて!」


 しかし、さくらは悲しそうに目を閉じた。


「ごめんなさい。」


「私には、あなたを助けられません。」


3


 マミも静かに呟く。


「最後まで、自分以外を見られなかったのね。」


2


 大和は初めて恐怖で震えていた。


 学校では誰より強かった。


 誰より人気者だった。


 なのに今は。


 誰一人、自分を助けてくれない。


1


 眩しい光が、公園を包み込む。


「うわああああ!」


 大和と陸の叫びが重なる。


 次の瞬間。


 二人の姿は、光の中へ溶けるように消えていった。


 静寂。


 風だけが吹く。


 俺は何も言えなかった。


 目の前で二人が消えた。


 それなのに。


 あゆみはどこか悲しそうな顔をしていた。


「どうして……。」


 彼女は小さく呟く。


「本当は。」


「帰れるのに。」


「……え?」


 俺は聞き返す。


 しかし、あゆみは慌てて首を振った。


「な、何でもありません。」


 その時だった。


 彼女の肩掛けバッグから、小さな使い捨てカメラが落ちる。


 白いボディに、緑色の文字。


 『写るんです』


 俺は拾い上げる。


「これ。」


「まだ使えるの?」


 あゆみは大切そうに受け取った。


「はい。」


「残り、あと一枚だけなんです。」


 カウンターには、小さく。


 「1」


 と表示されていた。


 その数字こそが、この世界の真実へつながる最後の鍵になることを、俺たちはまだ知らなかった。

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