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【短期連載・完結】「純愛」以外は即脱落!? 追放された令和高校生の僕らが、不便な平成パラレルワールドで真実の愛を見つけるまで  作者: eccen.


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第3話 最初のスカッとプリクラの罠

 ゲームセンターの奥へ進むたび、空気が少しずつ冷たくなっていく。


 外は真夏の暑さだったはずなのに、店内はひんやりとしていた。


 蛍光灯は何本も切れ、ところどころ明滅を繰り返している。


 古いゲーム機のデモ画面だけが、誰もいない店内を照らしていた。


 ピコン。


 チャリン。


 ドン、ドドン。


 誰も遊んでいないのに、ゲームだけが勝手に動いている。


 その光景は、どんなホラー映画よりも不気味だった。


「……誰もいませんね。」


 あゆみが小さな声で言う。


「うん。」


 俺も自然と声を潜める。


 さっきまで聞こえていた大和の怒鳴り声だけが、店の一番奥から響いていた。


「ふざけんなよ!」


「何回やっても変わんねぇじゃねぇか!」


 俺たちは音を頼りに歩いていく。


 途中、懐かしいゲーム機が並んでいた。


 ブラウン管テレビを使った格闘ゲーム。


 コインを入れる穴がすり減ったレースゲーム。


 画面の粗い音楽ゲーム。


 そして壁際には、大きな和太鼓が二台並んでいる。


「これって。」


「和太鼓の達人?」


 俺は思わず足を止めた。


 今のゲームセンターにもあるが、デザインが全然違う。


 画面は小さく、キャラクターも昔のものだ。


 あゆみが懐かしそうに微笑む。


「友達と何回も遊びました。」


「難しかったけど、すごく楽しかったなぁ。」


「へぇ。」


 俺は少し驚いた。


 ゲームセンターという場所は、スマホゲームが当たり前になった俺たちの世代には、たまに遊びに行く場所でしかない。


 でも、あゆみにとっては違うらしい。


「放課後にみんなで集まって。」


「誰かが百円を出して。」


「順番に遊ぶんです。」


「勝っても負けても笑って。」


「帰る頃には真っ暗で。」


 その話を聞きながら歩いていると、不思議な気持ちになった。


 俺たちは同じ高校生なのに。


 青春の形がまるで違う。


 俺が高校に入ってから、放課後に友達と寄り道した記憶はほとんどない。


 部活が終われば、それぞれスマホを見ながら帰る。


 家に帰れば、ゲームも動画も一人で楽しめる。


 便利だけれど。


 今思えば、誰かと一緒に過ごした時間は意外と少なかった。


 そんなことを考えているうちに、店の一番奥へたどり着いた。


 そこだけが妙に明るい。


 ピンク色のネオン。


 ハートの飾り。


 そして、一台のプリクラ機。


 画面には大きくこう表示されていた。


『恋するプリント倶楽部』


「恋する??」


 俺が思わず読み上げると、隣のあゆみが少し照れたように笑う。


「昔は、プリクラを撮るだけでもドキドキしたんですよ。」


「そうなの?」


「好きな人と撮れたら、一週間くらい友達に自慢したり。」


 令和ならスマホで何百枚でも写真を撮れる。


 撮り直しも簡単だ。


 でも、この時代は違ったのだろう。


 一枚の写真に特別な意味があった。


 その時だった。


「おい!」


 聞き覚えのある声が飛んできた。


 振り向くと、大和たち三人がプリクラ機の前で立ち尽くしていた。


「蓮……。」


 翔太が苦い顔をする。


「まだ生きてたのか。」


 その言葉に少しだけ腹が立つ。


「死ぬ前提で話すなよ。」


「いや。」


 陸が苦笑する。


「追放されたら普通終わるだろ。」


「運が良かったな。」


 まるで他人事だ。


 俺が見捨てられたことを、誰一人悪いと思っていない。


 大和は俺を一瞥しただけで、すぐにプリクラ機へ視線を戻した。


「そんなことより、これ見ろ。」


 画面には赤い文字が点滅している。


純愛度が不足しています。


条件未達成。


試練を開始できません。


「意味分かるか?」


 大和がイライラしながら機械を蹴る。


「さっきから何回やってもこれなんだよ!」


 その横では、ギャル姿のマミが呆れたようにため息をついていた。


「だから蹴っても意味ないって言ってるでしょ。」


「うるせぇ!」


「俺は早くクリアして帰りたいんだ!」


 黒髪のさくらも静かに口を開く。


「無理やりじゃ駄目です。」


「このゲームは、たぶんだけど。」


「人の気持ちを見ている。」


 その言葉に、大和は鼻で笑った。


「ゲームが心なんか分かるかよ。」


「適当に恋人のフリすればいいだけだろ。」


 そう言ってマミの肩を強引に抱き寄せる。


「ほら。」


「これで恋人っぽいだろ?」


 マミは顔をしかめ、その手を振り払った。


「最低。」


「誰があんたなんかと。」


 ガラケーが震える。


 大和が慌てて画面を見る。


 その瞬間、彼の顔から笑みが消えた。


 純愛度 0%


 数字は、まったく変わっていなかった。


 それどころか――。


 画面の下に、新しい文字が浮かび上がる。


虚偽行為を確認しました。


警告 あと二回で失格判定となります。


「……は?」


 店内の空気が、一気に凍り付いた。


 店内に、不気味な電子音が響く。


 ピコン。


 大和のガラケーには、赤い警告文が表示されたままだった。


虚偽行為を確認しました。


警告 あと二回で失格判定となります。


「……ふざけんな。」


 大和は画面を睨みつける。


「ゲームのくせに何が虚偽だよ!」


 ガラケーを乱暴に閉じ、プリクラ機を蹴りつけた。


 ゴンッという鈍い音がゲームセンターに響く。


 しかし、プリクラ機はびくともしない。


 代わりに画面が一瞬だけ暗くなり、次の文字が表示された。


暴力行為を記録しました。


「は?」


 さらに画面の下へ、新しい数字が浮かぶ。


純愛度 -5%


「マイナス!?」


 翔太が素っ頓狂な声を上げる。


「そんなのアリかよ!」


 マミは腕を組み、冷たい視線を向けた。


「だから言ったでしょ。」


「この世界、力ずくじゃどうにもならないって。」


 大和は舌打ちをした。


「だったらどうしろって言うんだ!」


 返事はなかった。


 代わりに、俺の隣であゆみが小さく呟く。


「それは…ちゃんと向き合うこと、じゃないでしょうか。」


「え?」


 あゆみはプリクラ機を見つめたまま話す。


「昔、友達とプリクラを撮る時って、写真そのものより、一緒に笑った時間の方が大切だったんです。」


「写真は、その思い出を残すためのもの。」


「だから……。」


「嘘じゃ意味がないのかもしれません。」


 その言葉に、俺は思わず納得してしまう。


 スマホなら、写真は何百枚でも撮れる。


 加工もできる。


 気に入らなければ消せばいい。


 でも、この時代のプリクラは違う。


 一回撮ったら終わり。


 だからこそ、その一枚に意味があった。


「チッ。」


 翔太が急に笑った。


「分かった。」


「ようは恋人っぽく見えりゃいいんだろ?」


 そう言って、黒髪のさくらへ近づく。


「なぁ。」


「ちょっとだけ付き合ってよ。」


「写真撮るだけ。」


 さくらは静かに首を横へ振る。


「嫌です。」


「お願い。」


「帰りたいんだ。」


「……。」


「お願いだから!」


 さくらは困ったように視線を逸らす。


 すると翔太は、焦りから彼女の手首を掴んだ。


「一回だけ!」


「離してください。」


「いいから!」


 その瞬間だった。


 店内の照明が一斉に消える。


 パチン。


 ゲームセンターが真っ暗になった。


「な、何だ!?」


 翔太が叫ぶ。


 次の瞬間。


 プリクラ機のフラッシュだけが、眩しく光った。


 パシャッ!


 誰もボタンを押していない。


 それなのに、シャッター音が響いた。


「えっ…?」


 写真がゆっくりと排出口から出てくる。


 翔太は震える手で拾い上げた。


「なんだこれ……。」


 写っていたのは。


 翔太だけだった。


 さくらはいない。


 背景もない。


 真っ黒な写真の中央で、翔太だけが青ざめた顔をしている。


 その写真の下には、赤い文字が印字されていた。


偽りの想いを確認しました。


第一脱落者 認定。


「は……?」


 翔太の顔から血の気が引く。


「ちょ、ちょっと待て。」


「俺、何もしてねぇ!」


 ガラケーが鳴る。


 ピリリリリ……


 震える指で開く。


脱落処理を開始します。


「やめろ!」


「待て!」


「大和!」


 翔太が助けを求める。


「助けてくれ!」


 大和も初めて顔色を変えた。


「おい!」


「どうすれば解除できる!?」


 誰も答えない。


 ゲームセンター中のゲーム機が一斉に起動する。


 チャリン。


 ピコン。


 ドンドン。


 電子音が重なり、不気味な音楽になる。


 プリクラ機の画面には、大きくカウントダウンが表示された。


10


「嘘だろ……。」


9


「誰か止めろ!」


8


 翔太は出口へ向かって走る。


 しかし。


 自動ドアは開かない。


 ガンッ。


 ガンッ。


 何度体当たりしても動かない。


「開け!」


「開けよ!」


5


「嫌だ!」


「帰りたくない!」


 俺は思わず一歩前へ出た。


「何か方法が――」


 その腕を、あゆみがそっと掴んだ。


「駄目です。」


「え?」


「今は近づかないで。」


 その声は震えていた。


 まるで、この光景を知っているかのように。


3


 翔太は泣きながら床へ崩れ落ちる。


「ごめん!」


「もうしない!」


「お願いだ!」


2


「帰して!」


1


 その瞬間。


 眩しい白い光が店内を包んだ。


「うわっ!」


 思わず目を閉じる。


 数秒後。


 恐る恐る目を開けると。


 翔太の姿は消えていた。


 服も。


 ガラケーも。


 何一つ残っていない。


 静まり返るゲームセンター。


 聞こえるのはゲーム機のデモ音だけだった。


 大和は呆然と立ち尽くす。


「……死んだのか?」


 誰も答えない。


 その時。


 店内放送が静かに流れ始めた。


『第一試練を終了します。』


『現在の生存者 六名。』


『偽りでは、愛は証明できません。』


『次の試練は、午前八時に開始します。』


 ブツッ。


 放送は終わった。


 あまりにもあっけない終わりだった。


 大和は拳を握り締める。


「……絶対にクリアしてやる。」


「こんなゲーム。」


「俺がぶっ壊してやる。」


 しかし、その声には、これまでの余裕はもう残っていなかった。


 一方、俺は隣に立つあゆみを見た。


 彼女は消えた翔太がいた場所を、悲しそうに見つめている。


「どうして……。」


 小さく漏れたその声には、恐怖だけではない、別の感情が混じっているように聞こえた。


 そして俺たちはまだ知らない。


 「脱落」が本当に意味するものも。


 翔太が向かった先が、「死」ではないことも。


 それを知るのは、まだ少し先のことだった。

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