庄崎
押上で清井から頼まれた後始末、正直受けなければ良かったとあれ以来後悔の毎日だった、あの女聞けば清井の実妹と言うではないか、ならば兄の威厳とやらで言い包めば良かったであろう私がわざわざ出張る必要などなかったのだお陰でここ数日ろくに寝付けないでいた。
あの女の記憶を消去しようと触れたその断片、富士を背景に蠢く異形、かなり気掛かりだったのかそれは海馬にこびりついていた、即ち夢現ではなく現実、女は富士でこれを認識しながら誰にも言い出せない日々を送っていたのだ、馬鹿な女だそれは杞憂に終わるとも知らずに、笑える誰が信じると言うのだそれにあの男と同じ血筋ならしつこく食い下がり最終的に職務不適合者の烙印を押されて、しかしその方があの女にとって幸せかもしれない、特救と言っていたか続けて属していればあれに必ず出逢ってしまうだろう。
まぁ結果、女の記憶からは消え今それを知る者は私だけになった回り回って私の耳に入る事は避けられたのは物怪の幸いであった、いくら緘口令を敷こうとも耳にした者が増えれば直喩でなくともそれは必ず漏れる特に末端の政治家などは銀座で興味を引こうと面白おかしく与太話として語ってみせるであろう、テメェが何を偉そうに語ってるとも知らず、あれは断じて現世に存在してはいけない怪異、いや怪異などで片付けられる範疇にない存在、もし富士の噴火や伊豆の地震と関係あるならばそれは天災そのものでしかないのだ、あれは神、荒ぶる神“素戔嗚”なのだ。
正直、この仕事に就き憂鬱でなかった日はないが全てを捨て辞めるには至らなかった、しかし今回だけは今すぐにでも副長官に辞表を叩きつけたい気分だ、炎の精霊如きに退却を強いられた者が素戔嗚などに太刀打ちできるはずがない、ここを辞め数日もすれば身動きも取れなくなり死に至るであろうしかしそれは平穏な死である片や素戔嗚に挑むなど神に反旗を翻す行為必ずやその報いを死後も受け続けるのだ、もし素戔嗚がまた現れ天災を処方してもそれが何であるか気付く者はそういない気付いたとしてもその者は必ず私と同じ選択をする“知らぬ存ぜぬ”この一択である、しかし私は自他共に認める損な性格なのだ見過ごすなどもっての外、そんな物は親の子宮に置いてきているまぁ親はいないらしいが、試した事はないが今晩でも自らに施術を施してみよう最悪リブートされ言語すら忘れたフォーマット状態になるかもしれないが少なくとも素戔嗚に気を病む日々はなくなるのだ。




