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【書籍化決定】私は私で、幸せになろうと思います  作者: みなと


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きっとこれが恋心

 リベリアが絡まなければ、学園では大変平和に過ごせているレイラは、いつもの三人組でのんびりと昼食を食べていた。

 今日は普通の席で、四人がけのテーブルを使用してまったりとランチを楽しんでいる。

 いつぞやに押しかけられて以来、とても静かに、穏やかにランチの時間を過ごせていたり、実家に戻らなくてもいいというだけで、メンタル的にも平穏が保たれているので勉強も捗る。一石二鳥どころの話ではなく、一石三鳥、むしろそれ以上になっている。

 クラスの担任からも褒められるし、ようやく少しずつレイラは自己肯定感が上がってきていた。


「そういえば、レイラはいつ頃職場見学に行くの?」

「ええと……お知らせが来てたかな。確か来週の金曜日の昼からよ」

「え、そうなの?」


 今日のランチはメインがオムレツ、ソースはトマトソースで煮込んだ野菜たっぷりのもの、付け合せにサラダ、パン、コンソメスープ、ミニデザート、ドリンク、になっている。

 レイラがこのランチメニューを選び、リッドはメインが鳥のソテーのものを選んだ。チェスカはチキングラタンとサラダ、ドリンクにパンのセットにしている。

 三人が3人とも異なるメニューだから、『それ一口ちょうだい』を遠慮なく行っていたりもする。


「俺、同じ日に騎士団の見学があるんだけど……」

「そうなの?」

「あら、それなら二人揃って行って、帰りにデートでもしてきたら?……あつっ!」

「そ、そんな……デート、だなんて……って、チェスカったら大丈夫!?」


 ホワイトソースがまだまだ熱かったせいで、軽く火傷をしてしまったチェスカだったが、レイラが素早く水を差し出した。


「……あ、ありがと……レイラ」

「どういたしまして。たまにあるわよね、冷めてるかなー、って思ったらまだまだ熱い、ってこと」

「……油断したわ……でも美味しい……!」


 学食のメニューはどれもこれも美味しくて、皆がランチメニューを何にするかいつも悩んでいるし、ドリンクだって種類が多い。


「んで、リッドは……あぁ、デートはめちゃくちゃ乗り気みたいね」

「え」


 顔を赤らめ、思わず声が裏返っているリッドを見て、レイラはクスクスと笑う。


「ふふ、私は勿論良いよ?リッドと二人で出かけるの、今までほとんど無かったし……えっと、楽しみ、かも」

「レイラ……」


 ばあぁ、と更に顔を明るくしたリッドを見て、思わずチェスカは笑ってしまった。

 こんなにも穏やかなレイラを見ることができるだなんて……と母親みたいな気持ちを抱きつつ、すっと制服のジャケットのポケットに手を入れてから何かを取り出す。


「そんなお二人さんに、優しいチェスカさんからこれをあげましょうね~」

「何?」

「最近オープンした新しいカフェの無料券。付き合いのある商会の会長から貰ったんだけど、二枚だったからこう……微妙だなぁ、って思ってたのよ。リッドを省いて私とレイラで行く、っていうのもありかな、って思ったんだけど」

「ねぇちょっと、それは勘弁してくれないか」

「こうなるのが分かってたから。レイラ、貴女の婚約者って割と狂犬じみたところがあるから、しっかり躾なさい」

「え?う、うん?」


 リッドのどこが狂犬なんだろう……と呑気に考えているレイラだが、彼女だけがきっと知らない。

 婚約者がいても、レイラのことを諦めきれずに虎視眈々と狙い続け、最近は思考回路がだいぶ達観してきてしまっており『傍に居られるならそれだけで良いや』と中々重症めいた思考回路を持っていたこと。

 チェスカに窘められても『思うだけは自由だし、片想い歴長いから慣れちゃった』と、あっけらかんとリッドが笑っていたりしたこと。

 なお、今回の婚約破棄の一件に関してありとあらゆる根回しをした上で今のところ互いの婚約関係は暴露していないが、恐らくリッドの母親やグロネフェルト家から、『リッドとレイラの関係性はどこぞの馬鹿二人とは全く異なっている』と広められる準備が虎視眈々と進んでいることも、レイラだけは知らないままだ。


(……リッドが狂犬、ねぇ)


 じぃ、とレイラがリッドのことを見れば、表情をキラキラ輝かせながら『何だい?』と問い返してくれる。

 周囲の女子から『……あれ、誰……』とか、『あんな風に笑えたんだ……』とか聞こえてくるが、リッドはこれがレイラに対する通常運転。

 チェスカも最初こそ驚きはしたが、すっかり慣れてしまったので、平然とランチを食べ進めている。


「レイラ、狂犬云々はまた説明してあげるから。二人でのデート、ゆっくりしていらっしゃいな。寮には外出届、ちゃんと出すのよ?」

「うん。ありがとう、チェスカ」


 嬉しそうにお礼を言ってから、リッドとレイラは互いに微笑み合う。

 だが、これも()()()()()()なので、他の生徒は『あの二人、相変わらず仲がいいなぁ』とほっこりしていたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして、いよいよやってきた職場見学の日。

 学園には仕事に関することなので、と届けを出しておいたし、見学が終わってからゆっくり二人で街中を歩いていた。


「からかわれちゃった……」

「あはは、仕方ないよ。リーシェ殿下は事情を知ってるんだから」

「そうなんだけど」


 並んで歩きながら、レイラとリッドは笑い合う。

 職場見学で、揃ってやってきた二人を見てからいそいそとリーシェがレイラに近寄り、『正式な婚約発表はまだ?』と小声で質問したものだから、めちゃくちゃ慌てふためいたレイラと、それをおっとりした笑顔で眺めているリッド、詳細を知らない他の職員たち。

 終始和気あいあいで時間は過ぎていったし、レイラは卒業後に基礎執務から教えていくから、と言われたものの恐らくはリーシェが付きっきりであれこれ教え、普通ではないスピードで業務をこなしていくことになるだろう。

 他の職員がこそこそと話しているその内容を聞いたリッドが、不敬だと言われることを覚悟した上でリーシェに『レイラは頑張りすぎるから程々に!』と指摘したりしていた。


「とっても素敵な人ね、……って言われたのは、嬉しかった、わ、よ?」


 身長差があるために、言いながら少し上目遣いになるレイラがめちゃくちゃ可愛らしく見え、リッドは勇気を出した(周りにせっつかれた)ことを、改めて良かったのだ、と噛み締めた。

 

「うん、それは俺も嬉しい」

「……それに、その、こんな私なんかをもらってくれるだなんて」

「レイラ」

「?」

「なんか、っていうのは禁止。ダメ」

「え」


 どうして、と視線で問いかけてみるが、もう一度しっかりと『ダメだよ』と苦笑い交じりで言われてしまい、レイラは『分かった』としか言えなくなってしまった。

 婚約を発表していないとはいえ、二人の婚約はグロネフェルト家、リーシェ、更にはリッドの家族全員から既にたっぷりと祝福をされている。

 正式な婚約者同士、といって問題はないだろう。

 レイラが自分を下げすぎるような発言をすれば、リッドは迷うことなくそれを訂正させる。


 お願いだから、もっと自信を持っていてほしい。

 それに値するだけの、いいや、それ以上の能力を持っているのだから。


(……少しずつ、改善はしてきたけど……)


 実家にいる間、常に否定され続けていたレイラの、自己肯定感を上げるのは中々に難しい。

 だが、リッドやチェスカだけではなく、ここ最近はクラスの皆、遠慮しなくなったグロネフェルト家の皆様方(勿論ジェレミーは除く)、リーシェ等から『不安になんかならなくていい』『貴女は貴女、良いところがいっぱいあるんだから!』と散々言われて、照れくさそうにしている。

 以前ならば、言われたとしても顔を曇らせるだけだっただろう。


「レイラ、君は俺が大好きな婚約者なんだ。だから、『なんか』じゃないよ」

「……う、ん」


 リッドが言っても、どうにも腑に落ちないような顔をしているレイラの手をぎゅう、と握って微笑みかけた。


「ひぇっ!?」

「恋人同士なんだから、良いだろう?」

「こ、こい、びと」

「婚約者だからね」

「あう……」


 顔を真っ赤にして照れているが、繋いだ手は離さないから、リッドはそれを良しとしてするりと指を絡め合うように手を繋ぎ直した。所謂、恋人同士という繋ぎ方に。


「リ、リッド」

「ようやく恋が叶ったんだから、これくらいは許して?」


 ぱちん、とウインクをしたリッドに悪戯っ子のように微笑まれてしまえば、レイラは何も言えない。

 リッド自身、端正な顔立ちをしているから、ウインクも様になってしまうから周囲の女性がきゃあきゃあと嬉しそうな声が聞こえてきた。


(……何か、もやもやする……?)


 そろりとレイラが改めてリッドを見上げれば、『ん?』とまた優しく囁かれた。

 甘くて、低くて、心地良い声に、レイラはきゅう、と胸が締め付けられるような感覚になってしまう。


(……ヤキモチ?)


 周りの女の子なんか、目に入ってなんかいない。レイラしか映していない。

 理解はしているが、それでも周囲の女の子たちにリッドのことを見てほしくなんかない、という気持ちが湧き上がってくる。


(独占欲、っていうのかしら……依存……?どっちなんだろう……)


 ずっと見つめていたから、リッドからどうしたの?と問われてしまい、慌てて首を横に振った。


「何でもないわ」

「そう?」

「えぇ。……あの、手の繋ぎ方って、このまま……?」

「嫌?」


 また、甘い声で囁かれる。


「…………ううん、これが良い」

「なら、このまま行こう」

「……うん」


 くすぐったいような、よく分からない感覚だがレイラは頷いて、嬉しそうに微笑んだ。

 そのまま手を繋いで歩き出す二人の背中を見ていた者がいるだなんて、気が付かないまま。

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