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私は私で、幸せになろうと思います  作者: みなと


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満場一致

「レイラ・ヴェルティ、君の希望は……ほう、魔術職員課」

「はい」

「……全属性……って、え?」


 初老の試験官は、レイラの適性について確認し、かけていた眼鏡を外してからもう一度じっと書類を見てみた。

 どうやって見直しても『全属性』という記載は変わらないのだが、何かの間違いかと書類をガン見し続けている。


「ぜ、全属性って……初めて見たんだが」

「わたしもですねぇ……へぇ~……」


 こんな風にグラフ表示されるんだぁ、と憧れの何かを見るかのような目でレイラの結果を見ている試験官もいる。


「あ、あの……そんなにも珍しいのでしょうか……? その、確か第三王女殿下も同じと聞いておりまして……ええと」

「いや、王女殿下は試験を受ける段階では全属性ではなかったんですよ。試験合格後、『王女だからとコネで入ったと言われたくないわ!』ととんでもないレベルで特訓を繰り返した結果、その……全ての属性をマスターしてしまわれた、という……これもまた飛びぬけておられるお方でして」


 それってあり得るんだろうか、とレイラの頬を冷や汗がたらりと流れていった。


「ま、まぁ……ともかく。試験を行いましょうか」

「そう、ですねぇ」


 あっはっは、とどこかぎこちない笑いをそれぞれの試験官が零しながらも、深呼吸をしてひたりとレイラを見据えてくる視線は、先ほどまでの穏やかなものではなくなっていた。


「さて、レイラ・ヴェルティ。先ほどの緊急対応についての報告は受けている。冷静な判断と対応、素晴らしい」

「ありがとうございます」

「その上で、いくつか君に質問なのだが……」

「はい」


 大丈夫、答えられる。質疑応答の練習だってしっかりとやってきたんだから、緊張しないで答えていけば何も問題はない。

 レイラは深呼吸をしてから、真っ直ぐに試験官を見た。


「幼い子が罹患すると言われている咳病……知っていますか?」

「!?」

「その反応は知っているとみなしましょう。この咳病に効く治療法について……君は、どう考える」

「……」


 知っているし、レイラはそれを克服している。

 そしてリベリアが罹患しているのが、まさにこの病。


「それは……」

「明確な回答は欲しない、提案レベルでも構わないから、持ちうる知識を使って答えてください」

「……魔力の巡りを、調整すること、かと」

「ほう」


 にこ、と試験官が笑みを深くした、


「どうして、そう思ったのかな?」

「理由は明確です。私が、そうやって治癒させたからです」

「……何?」

「お医者様にもそう診断していただいておりますし、必要であれば診断書も提出できます」


 迷いなく言い切ったレイラの言葉には、嘘などない。

 事実、レイラはこの咳病を自分の魔力運用によって治療しているのだから。


「まず前提として、皆さま多かれ少なかれ、魔力が体内を巡っております」

「ああ、そうだな」

「通常であれば、魔力の巡る……そうですね、うまく例えられなくて申し訳ございません。例えるならば魔力の『通り道』のようなものは、体が大きくなるにつれて広がっていくのと同時に形成されていくものではありますが、時にこれが形成されづらいことがあるそうです」

「……ほう」


 医者ならば、確かにそう診断する。

 実際にそう診断されている子供も多くいる中、治療法として現状最も多いとされているのが薬物治療。幼い子には飲みづらいとされている薬だが、一番効果も高く、手っ取り早い。


「現在の治療方法は投薬治療がメインとなっておりますが、あの薬は飲みづらく……」


 ちょっとだけレイラは遠い目をする。

 実際にレイラもあの薬を飲んだことがあるが、大変苦くて、喉の通りも驚くほど悪い。そしてしばらくの間口の中に味が残ってしまうから、薬を飲んだあとは飴をなめたり、アイスを食べさせてもらったりもしたものだ。


「……小さい子は泣いて嫌がりますからねぇ……」

「はい……。だから、私あれをどうにかしないといけない、と思いまして」

「うんうん」


 試験官は話を聞いてくれているから、レイラは幼い頃の記憶を辿りつつ、笑顔で告げる。


「しかも咳は昼夜問わず出てしまいますし、どうにか止めようと思って体を小さくしてみたりもしていたのですが、それだけではどうにもならなかったので」


 えへ、とレイラは茶目っ気交じりの笑みを浮かべたままで続けた。


「こう……体の中を巡っている魔力を、運用してみよう、と思いました」

「……はい?」


 恐らく子供なら、そんなことは考えないだろうと思うのだが、きっとレイラは必死に考えた末の結論だったのだろう。

 考えて考えて、必死に考えた結果、体の中にあった魔力反応を自分で見つけ出し、喉のあたりでとどまっていることを察したのだが、これを取り除くためには『詰まり』のようなものを取り除く必要がある。


「だから、魔力を喉元に移動させていったんです。詰まりを取り除くためには、押し出せばいいのかな、という小さい頃のあほらしいかもしれない考えなのかもしれませんが……でも、それが良かったようでして」

「ちょ、ちょっと待ってね!?」

「はい」

「小さい頃によくそんなこと考えたなぁ……」

「単純が故に、かもしれません」


 ちょっと照れ臭そうにしながら言えば、そういうことじゃない! と試験官は何回も首を横に振っている。

 だが、着眼点はとても良いかもしれない。

 小さいからこそ、あまりに素直だった考えは正解を導き出したらしく、気が付けば咳病は治っていた、というわけだ。


「ですが、かかりつけ医には褒めていただけました。着眼点はとても良い、と褒めていただけましたし、結果的に私は咳病を治療できました」

「なるほどな……」

「恐らくですが、これは外部的要因でも有効ではないかと推測できます」

「ほう?」

「私は自分の魔力を流していって、詰まりのようなものを押し流しましたが……きっと普通の子供はできないと思いますので、人員を治療院に配置しておく方が良いかと進言いたします」


 なるほどな、と呟く試験官は、何かを手早くメモしている。

 恐らく、治療院宛に連絡を入れるのだろうか、とレイラは考えて、手を挙げた。


「おや、どうしましたかレイラさん」

「ええと、可能であれば……ですが、魔力操作に長けている人が良いかと思われます」

「理由を聞いても良いかな?」

「小さい子は、体に負担がかかりやすいです。自分の魔力操作をして、詰まりを解消したとき、私は数日寝込んだ、と先生から聞いておりますので」

「ふむ……」


 なるほどな、と呟きながら、更に色々と書き記していく。

 というか、レイラへの試験はこれなのか、と首を傾げる。これは過去の体験を話しているだけであって、試験について解答しているということにはならないのでは……と眉をひそめた。


「あの……」

「どうしました?」

「これって、試験なんでしょうか……」

「はい、そうですよ」

「え、ええと……でも、これって私の経験談を話しているだけですし!」

「ああ、だからこそ、です」


 にこ、と三人並んだ試験官の、真ん中に座っている人物が笑顔のままで続ける。


「皆同じ試験内容だと、誰がどれだけ役に立つか分からないでしょう?」

「……?」


 これはどういう意図だ、とレイラは思考をフル回転させていく。同じような問題なら過去問を手に入れれば対策できるから、それを繰り返し解けばいい。傾向を読んでから、点数だけ取ってしまって面接で聞こえの良いことを並べれば問題なく試験はクリアできるだろう。

 だが、それを繰り返していれば、本当に有能な人が入ってくれているのかどうかは分からない。


「君の試験申込書を見ていてね、『咳病を自分で治した』という記載があったから、そこのところを聞きたかったんだ。これはきっと、とても有益なんじゃないか、とこちら側が判断したんだけど……思っていたより役に立ちそうで助かるよ」

「…………へ」


 あの膨大な試験申込書を、一通一通見ているのか、とレイラは驚いた。

 だからこそ、『この受験生のこの知識、あるいは体験が業務に活かせる』と考えた結果の、この質問なのだ、と意図を理解したレイラはぽん、と手を打った。

 きっと普通であればとても失礼な行為ではあるものの、試験官は笑顔でいてくれている。


「理解できたようで何よりです。では、実技試験は……そうですね、君なら問題ないとは思いますが……そうそう、では複数属性の魔法を展開して……」


 言葉が続けられる中、レイラは意図を理解できたことでスッキリしたのか、次の実技試験はとんでもなくスムーズに進行させた。

 なお、実技試験の内容は学園の実習でやってみせたものに加え、さっきの暴走事件の時に展開した土属性の魔法を展開すること、更に水魔法単体を使って『水を紐のように操作して結んでみてくれ』というもの。

 何だそんなことか、と微笑んだレイラは遠慮なく魔法の才を発揮して実技試験に挑んだのだが、試験官が全員顔を引きつらせていたことは、本人のみ知らない。


「満場一致で合格でしょう、あの子」

「魔法研究所がめちゃくちゃ欲しがりそうな人材ですねぇ……」

「でも王女殿下のご希望なので魔術職員課にまずは配属を……」

「いやいや、それよりも教官としての研修を受ける、っていうのはどうでしょう?」


 こんな会話が繰り広げられていたことも、やはりレイラだけは、知らない。

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