登用試験にて
「ここね……」
どきどきと高鳴る胸を押さえつつ、レイラは試験会場の前に立っていた。ここで、試験を行ってから、合格すれば卒業後に王宮の職員として採用されて働くことが出来る。
「……大丈夫」
寮生活をしているおかげもあって、勉強に集中できた。
しかも、分からないことがあれば、図書館の閉館ギリギリまで勉強が出来たし、家に帰ることもないからリベリアに邪魔されることだってなかった。
まさに天国、という環境下でやりたいことがやれるだなんて、何て素敵なんだろう……と改めてレイラは追い出してくれた両親とリベリアに感謝をし、受験票を手にして会場内へと入っていった。
受験票が届くのも寮にしておいた、だからリベリアに邪魔をされることもなかったのだ。
「ええと、まずは学科試験が……」
きょろきょろと周囲を見渡したレイラは、案内板を発見する。
書いてある場所を確認し、目的地へと向かえば既に着席している人も多く、レイラも自身の番号が書かれている席へと腰を下ろした。
「(学科試験は午前中、午後には魔力測定と魔法による実技試験……)」
時間割を確認し、そして試験開始時間がやってくれば規定通りに試験が開始される。
過去問を必死に解いて練習していたから、さほど難易度は高く感じない。
また、この試験では会場で用意された羽ペン以外を使用してはいけない、という決まりもある。他のものを使用すると、すぐさまアラームが鳴り響くような仕組みが作られているのだ。
どういう仕組みなのか、と問われれば、割と簡単なことらしい。
羽ペンを持った瞬間に、羽ペン内に仕掛けられている魔法が発動。持った人の魔力反応を検知し、きちんと使用されているのかを試験官は手にしている小さな魔道具で確認もできてしまうそうだ。
席に座っているにもかかわらず、試験官の持っている魔道具に反応が示されない=指定の羽ペンを使っていない、という証。
すると、びー!と物凄い音がして、試験中の生徒たちが何だ、と小さな声で呟いた。
「何だ……?」
「え、何?」
「このアラーム、って……もしかして」
「そこの席の受験生、立ちなさい!」
試験官の鋭い声が飛び、大股で該当の生徒のところに歩いていって、がっちりと腕を掴む。そして、ぐい、と無理やり立たせればその受験生は真っ青になっている。
「バレないと思いましたか?」
「……なんで」
「こちらの作成している魔道具を舐めないでいただきたいですね。さぁ、出て行ってください!」
すごい、とレイラは思う。
見た目も、重さも、普通の羽ペンと見分けがつかない。だから、強制退場を食らった受験生は『これくらいなら問題ないだろう』と高を括ったのだろうと思うが、そうはいかなかった。
ああ、こんなところで働きたい。
そうだ、魔道具の作成には魔石への魔力充てんがとても大事だと聞いているから、そういうところで役に立てれば……ああいや違う、そうだ、自分は魔法を使って役に立ちたいのだ。
思う存分、色々な魔法を試せるのであれば、こんなにも素敵なことはない……と改めて感じたレイラは、手を動かしていき、学科試験の解答欄を埋めていく。
過去問をやって、試験対策はばっちりだったこともあってか、スムーズに試験は終了した。
自分が最終的に目指しているところによって、試験内容も異なってくる。
レイラは魔術職員課を目指しているので、当然ながら試験問題は魔術に関することばかり。基礎はみっちりと鍛えているからこそ、手は止まらない。
「……できた」
集中していたので、一気に色々と問題を解いた。解いたまでは良いが、とても疲れてしまったのでレイラがひと息ついていると試験官の『そこまで!』という声が響く。
時間が足りなかった、と嘆く受験者もいるが、最初に問題数などを確認していたレイラはそのようなこともなく、問題なく残りの一般常識問題や歴史の試験などもこなしていったのであった。
午後からは、待ちに待った魔法に関する実技試験がある。
持参したお弁当をしっかり食べ、午後からの試験に備えていたら、あっという間に時間はすぎてしまう。
午後からの試験の準備をして、レイラは指定された場所へと向かった。
今年の魔術職員課は、難易度が従来よりも若干低い、という噂のせいかは分からないが、受験者が多いらしい。今までこういった試験とは縁がなかったレイラは、少し不安そうに周囲を見渡す。
「(どうしよう……)」
会場には座るところがあるとはいえ、何となく周囲は知り合い同士が多いのか、複数人で固まっているところが多かった。
とりあえず、一人でそっと座りたい……と思って見渡していると、ちょうどいい感じの席が空いていたので、そこに腰を下ろす。
少し待っていれば試験官が入室してきて、注意事項を説明してくれた。
「ではまず、皆さんの適性属性の診断から行います。各自、名前を呼ばれたらこちらにきてください。そして、この魔力測定装置に手を乗せてくださいね」
人は、生まれ持っている得意な属性があるが、それに加えて『適性属性』というものもある。
適性と得意なものがかみ合っているのが一番なのだが、なかなかうまくいかない。適性を診断して初めて本来の実力を発揮できる者もいることも、珍しくはない。
「ではまず、受験番号――」
次々に呼ばれていき、いよいよレイラの番になった。
そういえば、魔力の適性は検査したことがなかったなぁ、くらいの感覚でぺたり、と測定器に手を触れた瞬間、試験官がぎょっとした顔になる。
「え?」
「……え?」
何だろうか、と思っているレイラ。
実際何が起こっているのか分からず、どうしたら良いのだろうか、と困惑していると何やら手にしている用紙にがりがりと書き込んでいっている。
「すごい、けど……え、ええ?」
「あ、あの……」
他の人は『適性、水!』とか言われて終わりだったのに、とレイラが疑問に思っていると、試験官がレイラの様子にハッと気づいてこっそりと小さな声で話しかけてきた。
「貴女、何か訓練でもしていた?」
「訓練、ですか?」
「……してないわね、その様子だと」
「はい」
そんなものに心当たりはないし、やったことも、やろうとしたこともない。
あるならやりたいくらいなんだけどなぁ、とレイラが呑気に考えていると、試験官は意を決したように、すぅ、と息を吸い込んだ。
「レイラ・ヴェルティ。適性属性……す、全て!」
「…………え」
その試験官の声に、会場がどよめいた。
適性が二つある人も普通にいるのだが、まさかの全属性。言われてみれば、色々な属性の魔法が使えていたし、思い返してみればグロネフェルト家とレイラが縁を結べたのは『魔法』が関係していることは、聞いていた。
だが、確かにこれまで適性検査などは一切行っていなかったはずだ。リベリアのお守りで忙しかったのだから。
ただ単に魔力が多いから、くらいの認識だったのだが、色々な意味でレイラ自身も呆気に取られてしまった。
「うそ……」
「嘘ではありません、貴女は全属性の適性がある、とても稀有な存在。実技試験も期待しておりますよ」
「は、はい……?」
よく分からない、というか実感がない。
言われてみれば、くらいの認識しか持てないのだが、割と色々な属性の魔法を使えていたような……?とレイラは過去の自分を思い返すものの、頭を過っていくのはリベリアの相手をしている自分ばかり。
「(もっと早くこういうこと知りたかった……)」
溜め息を吐きながら歩いているレイラは、自分がめちゃくちゃ注目されていることに全く気付いていない。
よっこいしょ、と座ったら座ったで視線が向けられているのだが、レイラは自分の手をぼんやりと見つめていて、これまた気付いていない。
受験者たちは次々に測定をし、それぞれの適性を発表されている。
恐らくこの後の実技試験を行ってから後、合格者は適材適所、という形で能力を活かせるように配置されることだろう。
あくまで試験は適性ではなく、『試験』として行われるから、得意とか不得意とか関係なく『ではこれを行ってください』と何らかの課題を出されることになる。
「(適性が全部……だから、魔法を色々使えていた。あれ、でも……ジェレミー様ってこれを当たり前だとおもっていたようだけど、リベリアって……)」
というところまで考えていたら、適性属性は皆判明したようだ。
試験官がぱんぱん、と手を鳴らしたことでレイラもハッと我に返る。
「では、これから一人ずつ実技試験を行います。この会場は仮に魔法が暴発しても大丈夫な素材を使用して作られていますから、皆さん気にしないように。あと、万が一の時のために試験の様子も観察されておりますので、事故などが起こりそうになれば他の職員が駆けつけてくれます。ご安心を」
どんな試験をやるつもりなんだ、と受験者たちはぞっとしている。明るい口調の試験官がやたらと圧を掛けているような……と震える者もいる中、試験官はすっと的を取り出してがたごとと設置を始めた。
何だ何だ、と見ているとあっという間に組みあがったそれは、人型をしている的のようなもの。
「あの、それは……?」
「今から、得意な属性でも良い。先ほど測定した適性属性でも構いません。この的を完全破壊するくらいの、瞬間火力をぶつけてください。繰り返しますが、属性は問いません」
得意なものでも、何でも良い。
あれを壊す場合はどんな属性を……とレイラが考えている中、最初の受験者が前に出た。ばちばち、と音がしているので、恐らく雷属性を使うのだろうか、と皆が思ってじっと見つめる。
「いきます、『我が手に集え、そして収束せよ! 雷を刃と成し、かのものを破壊せん!』」
魔法を使う際に、イメージしやすいように呪文とされる文言を唱える者もいる。どうやら一人目はそのようだった、のだが。
「……! あなた、コントロールが!」
「え」
目標を破壊する、ということだけに気を取られてしまったらしく、思っていたよりも威力が上がってしまったらしく、形を成す前に広範囲の雷魔法が射出される事態になってしまった。
「きゃあああああ!!」
「うわああああああ!?」
悲鳴を上げる中、何かを思いついたレイラは椅子から立ち上がったかと思えば、ばん、と床に手をついてぐっとそのまま引き上げるようなイメージで無詠唱で土の壁を作り上げた。
「……あの子……」
あまりに素早い動きのため、他の受験者を保護していた職員たちも、何なのだろうか、と他の人を防御魔法で守りながらレイラを見ている。
あの対応を、あんな一瞬でできてしまうだなんて……と、防御魔法の中で守られている人の呟きは、何故だかとても大きく聞こえたのであった。




