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私は私で、幸せになろうと思います  作者: みなと


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10/14

友人たちの応援は心強いもの

 さてあの後。

 リベリアは、夜遅くに帰宅したようだった。

 帰宅した早々、両親に『グロネフェルト公爵夫人に酷いことを言われた!』とわんわん泣きながら自分が言われたことの数々を報告したのだが、両親は困った顔にしかならなかった、らしい。

 むしろ、普段から体が弱い、という割にはこういう時ばかり頑張って出かけていくのはいかがなものかと。更に追い打ちで『泣いてまた体調を崩すくらいなら、行くのは良いけどさっさと帰ってこい』と、リベリアを溺愛しまくっている母親から指摘されてしまっていた。

 珍しいこともあるものだ、と思ったレイラだが、どうせこれは一種のパフォーマンスにすぎないだろう、と受け流しておいた。

 別にリベリアを叱ろうが何をしようが、レイラには関係の無いことだ。


「(朝ごはん、別々にしてもらって良かったわ。朝からあのヒステリーを聞くことがないのは、とっても快適だわ)」


 レイラは、起きてから身支度をしに来てくれたメイドに『お父さまとお母さまに酷いことを言ってしまって、合わせる顔がないから部屋で朝食を取ることにするわ』と伝えたところ、両親やリベリアを優先するメイドは、嬉々としてそのように対応してくれたのだ。

 だがしかし、何かを反省しているとかいうわけではなく、レイラは単純に距離を取りたかっただけ。

 昨夜の出来事を知っているから尚のこと、両親やリベリアと一緒に食事をしたくなかっただけだが、メイドはリベリア贔屓。レイラに対して嫌がらせを行えるんだ、ラッキーくらいにしか思っていないだろう。


「……うん、ご飯は変わらず美味しい」


 どれだけリベリアが可愛かろうと、最低限の食事は与えてもらえるし、リベリアと衝突した時に反省していなくとも反省している素振りさえ見せてしまえば、食事をもらえる。なんなら、反省しているからと理由をつければ、彼らとは食卓を別にすることだってできるし、登校時間をリベリアに合わせることもないだろう。

 あぁ、何という便利な言葉か……としみじみレイラは思うが、こうなれば遠慮なくこれを利用させてもらおう、とあっさり決めた。


 見切りをつければ、人とはこんなものだろう。


 もっとも、今回リベリアを叱った件に関しては、これからグロネフェルト家に嫁ぐから意識を変えなければ、とこれまでを反省したから叱ったのだ、とは到底思えない。


「そもそも、秋休み前のテストがあるというのに……どうする気なのかしら」


 朝食を終えて、後片付けをしてもらい、身支度を済ませていたレイラは時間割通りの教科書を詰め込んだカバンを持ち、部屋を出る。

 すると、いつもより元気な様子のリベリアがずんずんと歩いてきているのが見えた。


「……え、リベリア?」

「ちょっとレイラ! あなた、私が体調が悪いのに学校に行くつもり!?」

「ええ、そうだけど」

「はぁっ!?」


 信じられない、という顔をしているリベリアに対し、レイラは不思議そうに目を丸くして首を傾げることしか出来ない。


「学校に行っちゃいけない、だなんて……そんなことリベリアが決められるわけないでしょう?」

「決められるのー!!」


 どん、だん、と地団駄を踏んでいる片割れは、どう見ても同い年には見えない。

 これ、どうしたら良いのかな……とレイラが考えていると、慌てた様子の両親が走ってきた。


「レイラ、リベリアに何をしている!」

「レイラ、リベリアを困らせないでちょうだい!」

「…………」


 いやよく分からない。

 何でそうなる。この両親の目は、飾りか何かだろうか。


 物凄く訝しげな顔をしているレイラの様子を素早く察したグレースは、窘めるには鋭い目でレイラを睨みつける。


「レイラ! あなた、リベリアに何をしていたの!!」

「いえ、何もしていません。というか、私これから学校に行くんですけど……」


 止めないでほしいんですが、と顔に書いているレイラの様子を見たグレースは、思っていない答えに目を丸くした。

 それはオルドーも同じようで、あれ?といった様子で首を傾げている。

 二人の予想としては、リベリアに対してレイラがキツい口調で何らかの注意をしたとか、そういうことなんだろうな、と思っていたらしいが、毎回そうではない。


 あぁ、ここまで両親は視野が狭かったのか……と溜め息を吐きつつ、困ったような口調でレイラは言葉を紡ぐ。


「秋休み前のテストが近付いてきておりますし……授業を休む、だなんてことしたくないんですけど……」


 それはそうだろう、とオルドーもグレースも感じてはくれたらしい。


「……それ、は」

「そう、よね……?」


 顔を見合せてうん、と頷き合っているオルドーとグレースの様子を見たリベリアは、またわんわんと泣き始めてしまった。


「酷いっ!!」

「あのね、リベリア……その、それは酷いとかでなくて……」

「だって、レイラは私の傍に居てくれなきゃダメなの!! 学校になんか、こういう時には行かないで!!」

「え、嫌だけど」


 間髪を容れずに断った途端、リベリアはまた大声で泣き始めた……が。


「げほっ、げほ、っ……ひゅ、ごぼっ!」


 興奮したのか、あるいはリベリアにとって相当なストレスが一気にかかったのか。恐らく理由は後者だろう。

 普段よりも大きな発作を引き起こしたリベリアは、その場に座り込んで、げほごほと咳を繰り返す。

 喉からはひゅーひゅーと呼吸音が漏れ、何度も咳を繰り返していることで肺に負担がかかっているのを少しでも緩和させるためなのか、体を折り曲げることでどうにかしている、らしい。


「リベリア!」

「大変だ、すぐに先生を呼べ!」

「はいっ!」


 こうなってしまっては、もうレイラはこの家で『透明人間』扱いをされてしまう。


 これが、日常。


 だから、すっとその場を離れたレイラは、そのまま誰にも言わずに学校へと歩き始める。

 少し遠いけれど、歩いて行けなくもない。そう思って歩いていると、ガラガラとレイラに向けて近付いてくる馬車が一台あった。


「……あら」

「レイラ、おはよう!」

「リッド、おはよう」


 レイラの顔をよく知っている馬車の馭者が、速度を緩めてくれたらしい。

 おはようございます、と挨拶をすればにこにこと笑って頭を下げてくれる。どこかホッとした様子のレイラを窓から見たリッドは、馭者に『馬車を止めてくれ』と頼んだ。


「レイラ、乗って?」

「?」

「歩いていくの、時間かかるだろう。それに……」

「なぁに?」

「何だか、吹っ切れたような雰囲気があるからさ。理由を教えてほしいなー、って思って」

「…………」


 そんなに分かりやすいのかしら、と呟いたレイラは、リッドに促されるまま馬車に乗り込んだ。

 腰を下ろせば、ゆっくりと馬車は動き出す。確かに、歩いていくよりは遥かに早く学校に到着するだろうなぁ、と思ったレイラは、向かいに座って機嫌のいいリッドに視線をやった。


「……楽しそうね」

「うん。珍しくレイラの目が死んでないなぁ、って思ってさ」

「まぁ……」


 それはそうかもしれない、と思って、レイラはちょっとだけリッドから視線を外す。

 あぁ、こうするということは当たっていたんだな、とリッドは笑顔を浮かべたままで口を開いた。


「家で、何かあった?」

「……何かあった……というよりは、決めたことが、あって」


 はて、とリッドは首を傾げた。珍しくいきいきとしているレイラを見ているだけでも、気持ちがほっこりとしてきていたのだが、両親にあれこれ決めつけられていたレイラが『決めた』ということは余程強い気持ちを持ってそうしたのだろう、と推測できる。


「決めた、って……何を?」

「家から、出ようと思ったの」

「え」


 リッドの予想の上を行くレイラからの言葉に、目を丸くしたままでいると、嬉しそうな様子のレイラは更に言葉を続ける。


「もうね、いいかな、って思って」

「いやまぁ、それは確かにそうなんだけど……」

「そもそも、婚約者を交代するとか馬鹿げているにも程があるんだけどね」

「?」

「顔が同じだから、ちょーっと名前を変えれば別に問題ない、とか言うんだもの。良かったわ、グロネフェルト公爵家の跡取りがジェレミー様じゃなくて」


 それはそうだ、とリッドは激しく頷く。何度も首を縦に振りまくっていたら、ちょっとだけ首が痛くなってしまったので、軽く手で押さえつつレイラの言葉の続きを聞く。


「それにね、私の代わりにきっと……グレッタ様が怒ってくださったわ」

「あぁ、公爵夫人ね。あの方をそんな風に呼べるの、レイラくらいだよ」

「そう?」

「あの方は、本当に色々厳しいのと、ご自身の『内側』に入れた人しか可愛がらないことで有名だから」

「そうなの!?」


 まさかそんな感じだったとは、と目を丸くしていたレイラだが、少しだけ気持ちがふわりと温かな何かに包まれたような気がした。

 私のことを、大切に思ってくれていたんだ。いいや、そう感じていないわけではなかったが、それはあくまでグロネフェルト公爵家のためだとばかり思っていた。


「……私って……思ったよりも味方が多い……の、かしら」

「あのね、レイラ」

「?」


 自尊心をあまりにも『家族』から傷つけられまくっていたレイラは、己に関して過小評価ばかりしていたらしい。

 苦笑しながらリッドは、ゆっくりと口を開いた。


「君は、家族()()にはとっても大切にされてるんだよ。だから、もっと頼ってほしい。学校に行ったらチェスカにも話してあげるといい。とっても喜んでもらえるだろうから」

「……そう、かしら」

「絶対、そうだよ」


 リッドが『絶対』と言うならば、と。レイラは着いて早々にこちらに駆けて来てくれて、がばりと抱き着きつつ朝の挨拶をしてくれたチェスカに、リッドに報告した内容と同じ内容を報告した。


「~~っ、やっと決心したのね!」

「へ」

「何でも言ってちょうだいね、みーーんな、貴女の味方なんだから!」


 ……本当だった、と目を丸くしているレイラは、これまでフィルター越しにこういった好意を受け止めていたらしい。


 小さいかもしれないが、これがレイラにとっての自立をしていくための第一歩、なのだ。

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