↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王の異世界冒険譚  作者: Undo
第三章 エンマーシュ商会
PR
39/42

かくして其は奴隷となりけり 1

「ずいぶんとお疲れみたいね」


夜。

フロウの誘いで彼女の書斎に案内された。

書類に視線を向けながら、こちらに声をかけてくる。


「な、なんのことですか…元気いっぱいですよ……」


嘘である。


食事の後、エレノラをはじめ何人もの子どもたちに腕を引っ張られて園庭に連れていかれた。


鬼ごっこに始まり、かくれんぼ、氷鬼、だるまさんが転んだ、缶蹴り、宝探し、けんけんぱ、縄跳びetc


しかも、一つずつではない。

後半になると複数の遊びが同時進行し、そのうえ、すべてがエンドレスだ。


まぁ?俺様ともなれば、ガキのお遊びを同時にこなすことぐらい訳ないのだが?


これに加えて、ガキどものお守りまである。


やれトイレだ、転んだ、喧嘩しただの――


一瞬目を離しただけで、カオスな状態になりよる。


テンがその身を犠牲にしていなかったら、怪我人が大量発生していただろうな。


従僕は水たまりのように広がったまま、動かずにいる。

心労が祟ったか。しばし休め!


ガキの体力はどうなっているのか?

今度、腰を据えて研究したいものだ。


「アナタたちが子どもたちを見ていてくれたおかげで、色々と助かったわ」

「メギドたちも残務が山積みだったからね」


ニッコリと笑うフロウ。


まんまと利用された格好になったわけだ。


「それで、この紋は外してもらえるんですか?」

「イヤよ❤︎」


胸の紋様を示して抗議した俺様に、フロウは間髪入れず答えた。


はっ倒してやろうか、この女!


「…なぜでしょうか」


思わず素が出てしまいそうになったが、できるだけ冷静な口調で尋ねる。


「アナタ身寄りがないのよね?」


スゥッと目を細めるフロウ。

その視線はどこか憂いを帯びていた。


「この町、いえ。他の町でもどこでも、身寄りのない子どもが一人でいたら危ないじゃない」


今度はパッと明るく笑って見せた。


何かしらの事情があるか……

ヘスティアが以前見せた世界で、何かヒントはあったかな?


「アナタはここで、お腹いっぱい食べられる」

「私たちはアナタに子どもたちを任せられる。その分、溜まっている仕事も片づけられる」


両手をパンッと叩き、笑顔を向ける。


「お互いに利がある。なんて素晴らしいことでしょう❤︎」


胡散臭い作り笑顔と言葉選び。


さて、本心ではどう思っているのかな?


子どもたちのために用意された広大な屋敷。


十分すぎる食事。


腕の立つ三人の従者。


そして、要塞じみた外壁と物見櫓。


慈善だけで維持できる規模ではない。


「……そういえば、聞いていませんでしたね」


「何かしら?」


「フロウさんは何を生業としているのですか?」


フロウは笑顔を崩さない。

いや、少しだけ口元が引き攣ったか?


それよりも、空気が変わった気配を感じた。

なんと答えるかな?


「――身寄りのない子どもを引き取って、しかるべき時にしかるべき人の所へ紹介するお仕事よ」


フロウは微笑んだまま、さらりと言ってのけた。


その内容、つまり――


「『奴隷商』ですよね。それも、子ども専用の」


「まぁ…そういう言い方もできるわよね」


頬を膨らませて、明後日の方に顔を向ける。

イタズラがバレた子どものようだった。


案外、幼稚な部分もあるのだな。


――もっとも。


本当に隠したいことを見抜かれた人間が、果たしてこんな反応をするだろうか。


この女、まだ何かを隠しているな。


「あの子たちを売るんですか?」


あの子たち、赤毛の女の子エレノラをはじめとした、今日一緒に遊んだ子どもたちだ。 


「気になる?」


正規の奴隷商人であれば、なんら問題ないだろう。


おそらく法に触れる内容でもない。


「いえ…」


ただ―――


――そう、ただ単に。


「気に入らないだけです」


人の売り買いというモノが、性に合わないだけだ。


おそらく俺様は睨んでいたのだろう。


その証拠にフロウは少し驚いた表情を見せていた。


「ねぇ…」


「フロウ様!」


何かを言いかけたフロウだったが、勢いよく書斎の扉が開き、相当な剣幕のメギドにたちが入ってきたことで、かき消されてしまった。


「今すぐ!お隠れください!」


「貴女たち?どうしたの?」


かなり焦った様子で詰め寄るメギド。

マリーもユーテスも慌ただしい様子だった。


「奴が…」


「ご機嫌よう、フロウ殿」


続いて書斎に現れた人物を見て、フロウの顔が強張るのを見た。


知らない顔だ。


視線を移すと、身なりの良い、というか紫生地にけばけばしい装飾を施した服を着た小太りの男が、覆面をした屈強な男二人を伴って書斎に入ってきた。


「無礼だぞ!主の許可なく私室に入り込むなど!」


メギドが吠える。

腰の剣に手をかけ、今にも抜き打ちする素振りである。


マリーとユーテスもそれぞれ臨戦態勢となっている。


昼間の間抜けた雰囲気からは想像もつかない気迫と殺気を纏っている。


「下がりなさい、貴女たち」


「ですが…」


メギドの抗議を意に介さず、一歩前に出るフロウ。


「ご機嫌よう。ゲラルド商人ギルド長」


満面の笑みで来訪者に相対するフロウ。


だが、その笑顔は俺様に向けていたものとは違う。


商人ギルド長、か。


さて――何をしに来た?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。