表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王の異世界冒険譚  作者: Undo
第二章 転生と出会い
PR
33/34

また会う日まで

「おはよう!」


朝。

木々の隙間から差し込む陽光の中、満面の笑みで二人を迎える。


結局徹夜になってしまったな。

だが、満足いく内容には落ち着いたぞ。

ふふふっ。


「…………」

「…………」


なんだ?

寝起き早々、二人して珍獣でも見たような顔をしているではないか。


「……なあ、エリス」

「あぁ…言わないで。あんま関わりたくないから」

「なんかバル、今日すっげぇ機嫌よくね?」

頭を抱えるエリスに構わず言葉を投げるアッシュ。


「そう?」

そんなに顔に出ていただろうか?


「そうよ」

「なんかあったのか?」

怪訝な表情で問いかける2人だが、


「何もないよ♪」


にっこり。

これでもかといい笑顔を見せてやる。


「…………」

「…………」

二人の顔がさらに引き攣る。

「なんだろうな……」

「奇遇ね。私もよ」


失礼な奴らだ。


昨晩は二人の装備を少々――本当に少々弄ってやっただけではないか。

若者の成長を願う年長者からの、ささやかな餞別というものだ。


少々使い所を選ぶが。


少々癖もあるが。


少々死ぬほど苦労するかもしれんが。


なぁに。死にはせんさ、多分。


――おいテン。

そこで首を振るんじゃない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


森を抜け、街道を進むことしばらく。


やがて、木々の向こうに街の外壁が見えてきた。


遠目にもわかるほど高い石壁だ。


壁面には、何か戦いで生じたものらしい補修跡が残っている。


街道には、荷馬車や旅装の冒険者、商人たちが行き交い、門の前には入街を待つ人々の列ができていた。


大きく開かれた門の両脇には、槍を携えた兵士が立っている。


門の向こうには、石造りと木造の建物が並び、尖った屋根や煙突が覗いていた。


焼いた肉やパンの香りに、馬糞と汗、革、鉄の匂いが混ざっている。


森の中では感じなかった、人が集まって暮らす場所特有の匂いだ。


「あぁ……」

「やっと帰って来れたぁ…」

2人の口から安堵の声が漏れた。


流石に色々と応えたのだろう。


聞けば、ここ4、5日、まともな休息を取らずの強行軍だったらしいからな。

食糧もギリギリで依頼も未達寸前、もう見世物小屋で身体売るしかないとか言ってたな。


強く生きろよ!

プルゥ!とテンも大きく振るえた。


しかし、これが街か。

この世界に来て初めて見る、まともな都市。


さて、どのような文化が――


「止まれ!」


……おっと。


門番の男が槍を横にして、俺様たちの行く手を遮った。


その視線は俺様――ではなく。


プルン!


…テンに向けられている。


「その魔物はなんだ!」

何と言われても、スライムだが?


「テンだよ」


「そんな事を聞いているんじゃない!」


む?では何を聞いているのだ。


「ちょ、ちょっと待って!」


エリスが慌てて俺様と門番の間に割って入る。

「門番さん。この子、魔物使いみたいなんです!」


「みたい?」

曖昧な表現に目を細める門番に、笑顔を崩さずエリスは続ける。


「記憶がないんです。森で保護しました。このスライムとは従魔契約を結んでいるので危険はありません」


あぁそういう事か。

すまんなエリス、すっかり忘れていたわ。


「身元は?」


「だから記憶が――」

「いや、でもバルって神――むぐっ!」

アッシュの口をエリスが塞ぐ。


「んんっ!…何でもありません」


「…………」


ホホホと笑顔で誤魔化すエリス。

門番の目がさらに細くなる。


おい、バカ。話をややこしくするな。


「と、とにかく!私たちは冒険者です。このままギルドへ連れていって、身元と従魔について相談するつもりですので」


早口に捲し立てつつ、エリスが鈍色の板、ギルド証を差し出す。

門番はそれを確認し、俺様とテンを何度か見比べた。


「……街中では絶対に従魔を暴れさせるな」


「もちろんです!」


「何かあれば、お前たちの責任になるぞ」


「はい!」


プルゥ!


「お前も返事するのか……」


ふむ。


街への侵入成功。

ご苦労様。

案外容易いものだったな。


色々あったが、門をくぐり街に入る。


街の中は、外から聞こえていたざわめきが近くなった程度で、森とはまるで違う世界だった。


露店から客を呼ぶ声が飛び交い、荷物を担いだ男たちや買い物客が行き交っている。


焼いた肉やパン、香辛料、薬草の匂いが混ざり合い、通りの奥からは鍛冶場の音が響いていた。


「バル! あれ食い物屋だぞ!」

アッシュが指差す。


「見ればわかるわよ」

「こっちは武器屋だ!」

「だから見れば――」

「おい、あれ何だ?」

「聞いてるの?」

「なあ、あの串焼き食っていいか?」

「話を聞きなさい!」


騒がしい二人を横目に、俺様は街並みを眺める。


建物の壁には、見たことのない文字で書かれた看板が掛かっている。


剣と盾を描いた店。

瓶と葉を描いた店。

獣の頭蓋骨を掲げた店。

文字が読めずとも、何を扱っているのかは何となくわかるようになっているらしい。


実に興味深い。


この世界に来て初めて足を踏み入れた都市は、想像していたよりもずっと騒がしく、臭く、そして生きていた。


後でゆっくり見て回るとするか。


そう考えていた、その時だった。


「危ない!」

後方からざわめきが聞こえた。


今までの喧騒とは違う、緊張感のある、そう、悲鳴も混じっていた。


「道を空けろ!」


誰かが叫ぶ。


振り返ると、通りの向こうから二頭の馬が車台を引き連れて駆けてくる。


蹄が石畳を叩き、車輪が激しく跳ねる。


「バル!」


腕を引かれ、事なきを得たがあと一歩遅ければ怪我ではすまなかっただろうに。


目の前を二頭立ての馬車が駆け抜けていく。


妖精や花の意匠の金細工を満遍なく施した豪奢な装飾。


黒を基調として鏡の如く磨き上げられた車体。


随分と金の掛かった馬車だ。


「貴様ら往来の邪魔だ!」


馬車が止まる。


御者台から蒼白い肌の女がこちらを睨みつけていた。

切れ長の瞳をさらに細めて睨んでくる。


「道の真ん中でぼうっとして!死にたいのか!?」


「いや、そっちが――」

「アッシュ、やめなさい」


エリスが制する。


まあ、いい。

こちらにも不注意はあった。


とりあえず、1発いっとくか――


「メギド、乱暴な言葉は好きじゃないわ」


馬車の中から、女の声がした。


御者の女が振り返る。


「申し訳ございません。フロウ様。…ですが、コイツらが…」


「子どものした事でしょう?それに、無茶な運転をしていたのはコチラの方よ?」


馬車の窓が開く。


銀の髪。

褐色の肌。

髪で顔が半分隠れているが、整った顔立ちの女が、そこからこちらを覗いていた。


「ごめんなさいね。驚いたでしょう?」

「怪我はないかしら?」


「い、いや! 全然! 俺たちは大丈夫です!」


……なぜお前が答える。


「へぇ……」


隣から低い声のエリスだ。


「随分嬉しそうね、アッシュ?」


「え? いや別に?」


「鼻の下」


「伸びてねぇよ!」


「伸びてる」


「伸びてない!」


やれやれ。

朝から元気なことだ。


「フフッ…では、失礼するわ」


美女が微笑む。


御者が手綱を取る。


馬車がゆっくりと動き始めた。


その時。

女の視線が――俺様に向いた。


ほんの一瞬。


銀の瞳と目が合う。


…………。


チクリ。


胸に刺激が走ると同時、全身が掴まれる感覚に襲われた。


が、すぐに違和感はなくなる。


「バル?」

「どうしたの?アンタもあの魔女に心奪われちゃったかなぁ?」


一瞬呆けていただけだ。

そこのバカと一緒にしないでもらいたいものだな。


「魔女?」

そうとエリスが答えた。


「有名人よ。エンマーシュ商会の耳長の魔女」

「子どもを攫ってるとかの噂があるけど……バル大丈夫?」


「大丈夫だよ」


遠ざかっていく馬車を見る。


奴隷商エンマーシュか。


ふむ。

覚えておこう。


冒険者ギルドは、街の中心近くにあった。


「じゃ、俺たちは依頼の報告してくるけど……」

アッシュが言いにくそうに頭を掻く。


「バルはどうする?」

今はまだギルドに行く訳にはいかん。

多分大騒動になるだろうからな…


「街を見て回ろうかなって」


「だったらさ」


少し間を置いて。


「俺たちのパーティに入らないか?」

ほう。

予想はしていたが、相変わらずストレートな奴だ。


「アッシュ!」

エリスも声を上げる。

多分、もうちょっと段取りがあったのだろうな。

心中お察しするぞ。


「いいだろ? バル、めちゃくちゃ役に立つし」

「そういう言い方じゃなくて……」

「でもエリスも昨日――」

「それ以上言ったら殴るわよ!」


もう殴る構えではないか。

まったく…


「ありがとう」

笑顔を見せる。


「でも、やめとくよ」

笑顔で答える。


「そっか……」

アッシュの肩が落ちる。

エリスも黙ったまま、視線を逸らした。


悪いな。

元より、この二人について行くつもりはない。

装備の具合は見ていたい気持ちも、なくはないが。


だが。

俺様には俺様でやるべきことがあるのでな。


「じゃあ、これ」


エリスが小さな袋を押しつけてきた。


「なに?」


「餞別」


いつも以上にぶっきらぼうな態度で、それ以上語らない。

中を見ると、


金、食糧、小さな薬瓶。


さらに別の包みには、子ども用らしき服と靴。


「これ、お姉ちゃんの――」

「いいの!」


妙に大きな声で遮られた。


「子どもがそんな格好でうろついてたら目立つでしょ!」


「でも、これ……」

「いいから!」


問答にならないエリスを尻目にアッシュに視線を送るも、苦笑しながらヒラヒラと手を振るだけ。


ふむ。

袋の重みから察するに。

コイツら手持ちの大半を入れたな?


「ありがとう、お姉ちゃん」

不器用な好意だ。

ありがたく、いただいておこう。


「別に」

エリスは顔を背けた。


耳まで赤いぞ。


「じゃあな、バル!」


アッシュが手を上げる。


「また会おうぜ!」


「うん!」


「テンもな!」


プルゥ!


「次会った時は、もっとデカくなってたりしてな!」


やめろ。


これ以上大きくなったら移動が面倒だ。


「じゃあね」


エリスが小さく手を振る。


「……元気でね」


二人がギルドの中へ消えていく。


アッシュは最後まで何度も振り返り、エリスも一度だけ、こちらを振り返った。


…………。


静かになったな。


プルゥ。


「寂しいのか?」


プル。


「そうか」


まあ。

悪くない時間だった。


さて。


服もある。


金もある。


この世界についての最低限の知識も得た。


そして――


胸元に手を当てる。


トクン。


微かな魔力の鼓動。


先ほどから消える気配がない。


いや――

消えるどころか、胸を締めつける力がドンドン強くなってきている。


繋がっているのだ。


糸のように。

針のように。


俺様と、術者を。


さて、心当たりは――


一つしかないな。

…あの女か。


先ほどの馬車。

銀髪の女。


俺様の胸に、知らぬ間に術式を刻んでいったらしい。


この形状。

魔力の流れ。

そして、この妙に所有権を主張する術式構造。


おそらく――


奴隷紋。


…………。


ふ。


ふふ。


ふふふふふ。


面白い。


俺様を奴隷にするつもりか?


随分と愉快なことを考える奴がいたものだ。


「テン」


プルゥ?


「予定変更だ」


街を見て回るのは後にしよう。


場所は――痛みが教えてくれるか。


解呪は――ほお?中々強力ではないか。


ならば――会いに行こうではないか。

俺様に首輪をつけようとした、酔狂なご主人様の所へ。



さて。


鬼が出るか。


蛇が出るか。


それとも――


別れと出会いは対極にあるが、こうも早く新しい出会いがあるとはな。


自分の運否天賦がいかほどか、それを知るのも新しい暇つぶしになるだろうか?


何はともあれ、年甲斐もなく俺様の足取りは、自然と軽くなっていた。

二章の最後です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ