何が為に生きるのか
神隠しに遭い、その後神子として何事かを成せとの使命を負うも、異端の力を恐れた者達から力と記憶を封じられた可哀想な子ども。
これが、即興で考えた設定だ。
一部真実を混ぜる事で嘘の信憑性を上げることができるのだが、さて効果はいかほどかな?
「キミが神託を…?」
「すっげ!神様と話できんの!?めっちゃ便利じゃね」
疑惑を拭いきれないエリスとバカ…能天気なアッシュ。
笑顔は崩さない。
嫌な時ほど笑顔は最大の武器になる。
「神子なら色々と辻褄が合う…」
「でも、都合が良すぎる気もするし、なんで今このタイミングなの……?」
「質問の意図も…何かの暗示?罠?それとも……」
ほらな、勝手に色々考えてくれるだろう?
思考を巡らせば巡らすほど、都合のいい答えを求めるモノだからな。
さて、ダメ押しにもう一言……
「俺は、東部の田舎の木こりの息子、アッシュ!」
大声でバカ…楽天家の戦士が叫ぶ。
「田舎で人生終わるの嫌だったから、家飛び出して街で冒険者やってる」
「騎士団に入隊して、偉くなりたいと思ってた!」
「ちょちょちょっと!いきなり何を言って…」
突然の相方の暴走に似た行動に戸惑うエリス。
「だってさ…色々考えてもわかんねえから、とりあえず自己紹介しようと思った!」
「だからなんで…」
もっともな疑問だ。
だが、
「どんな冒険者になりたいかって質問だろ」
「だったらサッサと教えてやった方が早いかなって思ってさ」
「それに、多分悪い奴じゃなさそうだし」
バカが答える。
「……根拠は?」
「勘!!」
即答するバカに大きなため息で答えるエリス。
鼻の頭を摘んでしばらく唸った後、再度大きなため息を吐いた。
「アレコレ悩んでるのが、馬鹿らしくなってきたわ…」
いいわとエリスが続ける。
「私はエリス、家名はハーヴィン」
「魔法使いの一族で、このバカとは子どもの頃からの顔馴染み」
「圧強めの実家に嫌気がさして、全寮制の魔法学校に入学したのよ」
「卒業後は、ご覧のとおり。無理が祟って経絡に傷がついて細かい魔法の操作ができない落ちこぼれの出来上がりってね」
両手を広げて、半ばヤケクソ気味に自己紹介するエリス。
その様子を喜んで見守るアッシュ。
「そんなことないぞ!エリスの魔法はちょっと…アレだけど、スゲェ威力だし」
「それに計算間違えないし、値切りもできる。この剣とマントも値切り倒して格安で買えたし」
「何より、美人で胸も尻もデカい……っ痛ぇって!」
誇らしげに相方を語るアッシュだったが、顔を真っ赤にしたエリスに思いっきり手にした杖で頭をどつかれる。
「いいい、いらんことを言うな!底なしノンデリバカ!」
「痛い!痛いって!」
ふむふむ、緊張の糸は綻んだようだな。
意図せん状況であるが、仕方ない。
バカは読めんからな。
「で?」
「ん?」
相方をしばき倒して黙らせたエリスが視線を送る。
「キミの番だよ」
俺様の番…? そうか…そうなるか。
さてと、どう答えるべきか…
少しの沈黙。
バチバチと火花が弾けるのが聞こえた。
「………ボクはバルザック」
俯き加減で呟く。
「ごめんね。名前以外はよくわからないんだ…」
「うっすらと覚えていることはあるんだけど」
先ほど即興で作った設定をさらに盛ることは容易い。
適当な村の名前でも出して、好きな食べ物に嫌いな食べ物、幼少期の思い出の一つ二つ。
それらしく語れば、この二人を煙に巻く程度は難しくないだろう。
だが――そこまでする必要があるか?
改めて二人を見る。
アッシュとエリス。
ここまで行動を共にして、二人から神族特有の匂いや加護の類は感じ取れない。
少なくとも、俺様が知る限りでは。
ならば神達とは無関係――
…………いや。
そう断ずるのは早計だな。
神という輩は、得てして自分勝手なものだ。
本人の同意も得ず、勝手に加護を与える。
信仰とも呼べぬ些細な行為を理由に、自らの信徒として扱う。
そんな神がいないと、誰が言い切れる?
ましてや俺様は、この世界の神々について何も知らん。
本人たちすら知らぬうちに、何処ぞの神の駒として盤上に置かれている可能性も――
…………。
ないな。ただのお人好しな連中だ。
いや、限りなく薄い。
薄いが――
ゼロではない。
ならば、わざわざ危険を冒す理由もないか。
「さっき言ったとおり、ボクにはほとんど記憶がないから……」
困ったように笑ってみせる。
「名前と……村にいたこと。それからテンのこと」
「それくらいしか覚えてないんだ」
プルン。
呼ばれたことが分かったのか、背後でテンが一度だけ跳ねた。
よし。いい子だ。
「だから、自分が何者なのかも、本当はよくわからないんだ…」
これは嘘だ。
俺様が何者であったかなど、誰より俺様自身が知っている。
今の俺様が何者なのかと問われれば―――
…………まあ。
それは追々考えればよかろう。
「だから、神様の声が聞こえた時、もしかしたら何かわかるかもしれないって思ったんだ」
顔を上げる。
「それで、お兄ちゃんとお姉ちゃんに聞いてみたの」
しばしの沈黙。
アッシュは腕を組んで唸り、エリスは俺様の顔を穴が開くほど見つめている。
さて…どう出る?
「…………まあ」
先に杖を下ろしたのはエリスだった。
「今の話が本当かどうか、確かめようがないのよね」
「エリス?」
「だってそうでしょ。記憶がないって言われたら、それ以上聞きようがないもの」
完全に疑いが晴れた顔ではない。
当然だろうな。
こんな怪しい子どもの言うことを簡単に信じ込むような奴は冒険者をやめた方がいいからな。
「でもよ」
アッシュも小剣から手を離した。
「バルのおかげで結構稼げたしな」
「…………それなのよね」
エリスが何とも言えない顔をする。
「希少素材は見つかる。薬草も予定以上。おまけに私の身体の異常まで言い当てる…」
指を一本ずつ立てながら数えていく。
「怪しい。ものすごおぉぉく!怪しいんだけど……」
「役に立つ!」
ゴンッ!
再び杖がアッシュの頭を叩く。
「痛ぇ!」
「もう少し言い方ってものがあるでしょうが!」
「でも間違ってないだろ?」
「それは……まあ……そうだけど」
信用ではなく、実利か。
実に分かりやすい。
「それにな」
頭を擦りながらアッシュが笑う。
「やっぱ悪い奴じゃねぇと思う」
エリスが呆れたように横目を向ける。
「また勘?」
「おう!」
「…………はぁ」
本日何度目かわからぬため息。
「冒険者の勘ってのも、馬鹿にできないのよねぇ…」
そう言って、エリスもようやく杖を収めた。
「少なくとも今のところ、私たちに危害を加えるつもりはなさそうだし」
「それに、こんな森に子ども一人置いていけないだろ」
「テンもいるよ」
プルン!
「……その巨大スライム込みよ」
アッシュが笑う。
「街まで一緒に来いよ、バル」
「いいの?」
「ああ」
「私はまだ完全に信用したわけじゃないからね」
すかさずエリスが釘を刺す。
「街まで。とりあえず、それまでよ」
「……うん!」
子どもらしく笑顔を作る。
……上出来だな。
完全な信用など必要ない。
疑いながらでもいい。
俺様を傍に置くという選択さえしてくれれば、それで十分だ。
こちらとしても、この二人を完全に信用したわけではないのだからな。
互いに腹の内を一枚隠したまま。
それでも同じ道を歩く。それくらいで丁度いい。
…………さてと。
話が逸れたな。
俺様が聞きたいのは、そんなことではない。
「それで、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「ん?」
「なによ?」
俺様は焚き火へ小枝を一本放り込む。
火の粉が小さく舞い上がった。
「まだ答え……聞いてないよ?」
二人が顔を見合わせる。
「…二人がどこから来たのかはわかった」
木こりの息子。
魔法使いの名家の娘。
だが、俺様が知りたいのは過去ではない。
「ボクが聞いたのは――」
笑みを浮かべる。
「これから、どんな冒険者になりたいの?」
過去がどうであったかなど、俺様にはどうでもいい。
何者だったかではない。
これから何を成すのか。
それが、重要なのだから。




