若者よ
どんな冒険者になりたい?
それだけの問いかけだった。
子どもの素朴な疑問だ。
アッシュなら意気揚々と答えるだろう…と思っていたが…
「どうしたの?」
「どうしたって…」
何度かみた訝しげな表情だ。
戦士は小剣の柄に手をかけている。
魔法使いは戦士の影に入り杖の先をこちらに向けてくる。
露骨に警戒している。
はて、何がいけなかったか?
緊張の面持ちのまま、沈黙が流れる。
耳にするのは、木の葉の擦れる音と焚き木の爆ぜる音。
本来なら心地のよい癒しの環境音であるが、今の2人にそれを楽しむ暇はないだろうな。
さて、中々に殺気の色が濃いな。
どう切り出したものか……
「そもそもキミは…」
エリスだ。
声は上擦っている。
「キミは何者なの」
汝は何者か?
哲学的な問答でよく使われるが、そういう話ではないだろう。
「年は若く見えるけど、立ち振る舞いが堂々としてるというか、隙がない」
「子どもみたいな素振りをしてるけど見透かしたような視線」
「魔物を従えているのも怪しさ満点」
つらつらとまぁ、好き放題言ってくれるな。
先ほどの問いかけの時か…
思わぬところで油断してしまったのだろう、顔に出ていたのだな。
さて…
「そんなことないよ、さっきも言ったけど、ボク記憶が…」
「おまじない」
記憶喪失ネタでやり過ごそうと思ったが、ピシャリとエリスが異論を挟む。
「記憶がない。なら、なんで魔力を使ったおまじないができるの」
ほう。
「それに、後ろのスライム、従魔契約してるよね」
「核に普通はない紋様が描かれているもの」
「さっきキミが言ってた目に魔力を貯めて見たら、キミとの繋がり?みたいなモノも見えた」
そこまで見えたのか、なら成果はあったかな。
エリスの考察は続く。
「知能を持たないスライムが高度な契約魔術を使えるとは思えない。つまり、キミが施したモノでしょ」
「お姉ちゃん。ボクにそんなことできないよ…」
「高度な魔力操作が得意なのに?私の経絡の状態を当てたじゃない」
「そんな見たことない大きさのスライムと一緒の子どもが、ただの記憶喪失の物知らずなんて納得できるわけないでしょ!」
おのれ、警戒心がMAX値だな。
確かに、色々と雑にこなしすぎた感はある。
だが仕方ないだろう。
いきなり裸一貫で受肉させられて、魔物に襲われる。
迎撃しようにも、魔法は使えないし、身体も思うように動かない。
やっとの思いで討伐したところで、思いつきで従魔契約した後、コイツらとの邂逅だ。
思考や策を巡らす暇なぞあるものか。
大筋の方向性はあったが、基本行き当たりばったりであるのはご愛嬌と笑って欲しいものだ。
「エリス。つまりどういうことだ?」
「神隠しと神子の話よ。聞いたことあるでしょ」
神隠し?神子?なんの話だ?
「???なんだ?」
「私たちの依頼のことよ!バカ!」
あーと何かを思い出そうとするアッシュ。
「……忘れた!」
「この、特別バカ!」
夫婦漫才をしているが、此方への警戒は続けている。
依頼と言ったか…
確かコイツらは森に薬の素になる素材の採取だと言っていたはずだが…
「ここ数日、あちこちの地方で人がいなくなる事件が相次いで起きてる話があったでしょ」
「それと同時に特別な力を持った異能者が現れるようになったの」
「だから、各地のギルドで未開拓地の調査依頼が出たんでしょうが!」
そうだっけ?ととぼけているアッシュにエリスの喝が入る。
そうか。
神隠しの方はわからんが、神子とはおそらく俺様と同じ輩だろうな。
突然不思議な力を持った人間が多数現れれば不審にも思うか。
多分神隠しの件も彼奴らの仕業だろうな、意図は知らんが。
さてと、どうしたモノか。
警戒の理由はわかった。
まあ、得体の知れない餓鬼が魔物と一緒にいたら疑いもするか。
プルプルと揺れるテンを眺めてみる。
我が従属は気楽そうで何よりだ………そうだな、これでいこう。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。黙ってごめんなさい」
声をかけると漫才を止め、改めてこちらへと身構える2人。
「何が、ごめんなのかしら…」
「ボク、不思議な力があるんだ」
やっぱりと呟くエリス、だが、
「でも、よくわからないんだ。ボクの力が何なのか」
「え?」
「小さな村にいたことは覚えているんだけど、テンを連れて帰ったら、村の人が驚いてね」
「村の一番偉い人に頭を掴まれた所までは覚えているんだけど、その後の事は全くわからないんだ」
ええっと落胆の声が聞こえた。
「でもね、さっき頭に声が聞こえたんだ」
「『其の冒険者に問え』って」
神の声が聞こえた。
つまり、神子は神託を授ける存在であると印象づける。
なればこそ、改めて問おうか。
「だから教えてよ…」
2人の顔に三度緊張が走っているのがわかった。
「2人はどんな冒険者になりたいの?」
思わず笑みが溢れる。
これは…大事な計画の第一歩だからな。




