焚き火の前で 3
武器に固執しない。
剣への執着を解除できればなんとかなるだろう。
まだ満点はやれんがな。
そうだなぁ、次はっと…
「そのマントも綺麗だよね」
エリスが羽織る金銀の刺繍が施された深緑の外套にも触れてみる。
ふふふっと誇らしげにマントを広げるエリス。
「いいでしょう?ポーションを買いに行く時にたまたま見つけたんだけどねぇ」
「なんでも、魔力制御をしてくれるみたいなのよ」
「意匠が気に入ったのもあったけど、私の苦手な部分を少しでも補いたくてね」
エリスの苦手な部分。
それは魔力の制御だろう。
魔法を行使するにあたり必要な物。
一つは魔力そのもの。
一つは術式構成などの知識。
そして、その二つを組み合わせて最適な魔力量で術を制御する技術、それが魔力の制御である。
エリスの戦い方を見ていると、魔力は十二分にあると思われる。
しかし、発動前に術式が安定せず、発動に無駄が多い。制御に問題があるのは明白だった。
それを補うための補助魔導具が、このマントなのだそうだが…
「そうなんだね…お姉ちゃん、ボクの手握ってみてよ」
突然のお願いに困惑するエリス。
「ボクね、おまじないできるんだ」
「このおまじないすると、ココロがあったかくなって、色んな事が上手くなるんだって」
「そう……じゃあ、お願いしようかな」
子どもの戯言だろうと思いつつも、温かな眼差しで返し、両手を広げて差し出すエリス。
その手を握り、瞳を閉じて集中する。
適当な呪いの言葉を口ずさみながら。
手先から、エリスの魔力の源、心臓と丹田付近に魔力を流しその総量を見る。
驚いたな。
例えるなら、小さな太陽。
爆発にも似た、荒々しくも温かな魔力の奔流が感じられた。
素養は十分。
では、原因は………見つけた。
「お姉ちゃん。なんかいっぱい傷があるよ」
目を見開いて驚くエリス。
感じ取れたのは、魔力制御を司る経絡と呼ばれる部分。
魔力を流す管のようなものだ。
それが所々切れかかっているように感じた。
「お腹とか、お胸とか痛くなったりしてない?」
「……………」
エリスは答えない。
「スッゲェなぁなんでわかるんだよバル」
代わりにアッシュが答えた。
「コイツ魔法使いすぎると、息切れしたり腹下したりとか体調崩して大変になるんだよ」
「熱もすごく出るし、酷い時は二、三日寝込むんだぜ」
「……ただの魔力切れと……修行不足よ」
余計なことをと言わんばかりにアッシュを睨むエリス。
「そんな時はどうしてるの?」
「それは……マジックポーション飲んでる…」
それはいかんな。
魔力を回復させる薬を飲んだところで、傷ついた経路は戻らない。
薬草に含まれる高揚成分で一時的に感覚が麻痺することはあるが、治療には至らないのはエリスもわかっているだろうに。
「そんな焦んなくても…ポーションの飲み過ぎはクセになるぞ…」
「わかってる!!」
アッシュの忠告を遮り、感情が爆発するエリス。
「それでも…冒険者稼業するのに、魔法の一つも満足に使えない魔法使いなんて意味ないじゃない!」
杖を握る手に力がこもる。
「せっかく家を出て、必死こいて勉強して、学校を首席で卒業したのに、結果上がらず貧乏冒険者よ」
「焦るわよ!全然結果も上がらない!ご飯も食べられない!そのクセ装備と意識だけは一丁前のハリボテ一行とか陰口叩かれてんのよ!」
マントの裾が皺になるほど握り込む。
「何がなんでも実績上げなきゃダメなのよ」
「実力も素質もない冒険者は意味ないのよ!」
いきり立つエリス。
色々と抱えていたものが爆発したようだ。
若い冒険者が結果が上がらないことはままあることだ。
一攫千金、人生逆転と冒険者稼業に夢を持つのはどの世界も変わらんか…
「悪かったって、そういう意味で言ったんじゃないよ」
「……私もゴメン…でもやっぱポーション飲んで回復しないと無理だと思う」
それは――と異論を唱えようとするアッシュをエリスが制止する。
「私ら2人なんだよ?決定力に欠ける戦力で魔物討伐なんかの高報酬依頼クリアできる?」
エリスの言葉に続く台詞を編み出せず、苦い顔のアッシュ。
無理でしょ?と相方の心情を読み穏やかな口調で話す。
「だから、不安定でも強力な魔法を使える状態にしておく方が…」
「ダメだ!」
アッシュが叫ぶ。
エリスの両肩を力強く掴み、顔を寄せる。
「2人だけの一行なんだぞ!お前1人が負担するのは…その…なんだ…イヤだ!」
ブフッ!!
いや、失礼。
シリアスな展開だと思っていたら、子どもの駄々みたいな理屈が出たもので、意表をつかれたよ。
「エリスが無理しなくてもいいように、俺もこの剣を使えるように訓練するし、戦い方も見直そう」
そう。
魔法使いが後方支援と決定打を担うとするのは理想的だが、それだけではダメだ。
今時の魔法使いなら、拳に魔力を乗せて神の顔面ブン殴るぐらいしないと生きていけんからな。
本能的にアッシュは理解できていたか。
楽天的でお人好し、その実獣のような嗅覚を持つ戦士。
現実主義で打算的だが、冷酷になりきれない魔法使い。
バランスが良いのか悪いのかわからん2人だな。
だが、現状に甘んじず、打破しようと足掻く姿は2人とも好感が持てる。
それに色々と問題は解決しているのだが…
………フフッ。
とてもいいことを思いついたぞぉ。
「ねえ…」
偶然強い風が吹いた。
木々が揺れる。
焚き火の灯りが影を作る。
影が子どもの表情を隠す。
戦士と魔法使いが息を飲んだのがわかった。
空恐ろしいものでも見たようだった。
「2人はどんな冒険者になりたいの?」
焚き火が小さく爆ぜた。




