はじめてのともだち 2
「悪いスライムじゃない?」
エリスと呼ばれた魔法使いの女は訝しげな顔で此方を見ている。
「友だちって…キミ。そいつは魔物…」
「そっか友だちか!」
警戒するエリスが杖を身構え、臨戦態勢なのに対し、殊更明るい声でアッシュが言った。
ズンズンと歩を進め、俺様の前にきて身を屈めて視線を合わせる。
「友だちだったら、いいんだ。いきなり襲いかかってゴメンな」
カラッとした笑顔で言い、俺様の頭をガシガシと撫でる。
驚いた。
コイツ、アッシュとかいうこの男、本当に信じている。
それどころか、謝りまでしているじゃないか。
「信じてくれるの…?」
カラカラと笑うアッシュに思わず問いかける。
「ん?違うの?」
不思議そうに答えるアッシュ。
お人好しな奴だ。
それに、バカ正直なのだろう。
悪くないな。
「魔物と友だちになれるなんて、すごい才能じゃんか」
「魔物使いの素質があるんじゃないか?」
そうかこの世界にも、魔物使いがいるのか。
よし、今後はそれでいこう。
「魔物使いねぇ……」
変わらず訝しむエリス。
此方は相方と違って疑り深いようだな。
感心感心。
「キミ、どこの子だい?兄ちゃんたちが家まで送ってってやるよ」
「ちょっと!」
アッシュの提案にエリスが待ったをかける。
「何言ってんの!?依頼も終わってないのに、面倒ごとに首突っ込まないで!」
ごもっともな意見だ。
だが、何を言ってるんだとアッシュが応える。
「こんな小さい子が森に一人だぜ?危ないじゃんか」
「親御さんとはぐれたかもしれないだろ」
「こんな所に1人、魔物と一緒の子ども」
「あからさまに怪しいでしょうが!」
助けてあげないとと応戦するアッシュ。
面倒事はゴメンだと、心底嫌そうなエリス。
どうしたものか。
…………よし。
「……ボク……わからない」
えっ?と口論を止める2人。
「気がついたら、ここにいて。どうしていいかわからないでいたらテンがいたんだ」
嘘ではない。
伝えた方が違うだけだ。
キョトンとした表情で傾聴する2人を他所に、話を続ける。
「テンが近づいてきたから、手を伸ばして触って見たら血がテンの中に入たんだ」
「そしたら、友だちになれたの。でも…」
俯き、見えないように目頭を擦って涙目を作る。
潤んだ瞳で2人に見せてやる。
「ここが、どこかわからなくって。お兄ちゃんとお姉ちゃんがテンを、友だちを苛めようとしたから…」
大粒の涙が頬を伝ったところで、顔を伏せて嗚咽を漏らす。
「あぁぁあ!もう大丈夫。兄ちゃんたち苛めたりしないから。な?な?」
泣きくずれる俺様を見て、焦って慰めるアッシュ。
我ながら演技くさいと思ったが、本当にお人好しだな。
「でぇ?キミどこから来たかわからないってこと?」
ため息交じりに確認するエリス。
此方はつくづく疑り深いな。
魔導士であれば当然であるとは思うが。
「そう…ごめんなさい」
「お、おいエリス」
わかりやすく項垂れて見せるとアッシュがエリスに詰め寄る。
「子ども相手にその態度はないだろ」
「アッシュ。あんたがお人好しなのは知ってるし、それは諦めてる」
真剣な面持ちのエリスが、でもねと言葉を続ける。
「こんな町から離れた森深いところに、あんなボロ着た子どもが魔物と一緒」
「変な子ども通り越して不気味よ不気味」
「しかも、覚えてない?記憶喪失って都合良すぎでしょ!?」
全くもっておっしゃる通り。
実際やってる俺様でもおかしいと思う。
「それに、サッサと依頼終わらせて帰らないと、私たち生活できないのよ」
焦っていた理由はこれか。
何かしらのクエストを受注中で、納期が迫っている感じだな。
魔物の討伐で辺りを探していたのか?
それにしては、軽装というか…
「でもよぉ…エールベリーだっけ?全然見つからないじゃんか」
「2日前に一個見つけただけで、その後はからっきしだしさぁ…」
採取系のクエストか。
文句を言いながらアッシュが取り出したのは、小さい橙色の粒が房状になった木の実を取り出した。
ジッと目を凝らして見てみると、木の実に僅かな魔力の残滓が見えた。
「割のいい依頼なのよ。回復ポーションや魔力ポーションの素だしね」
「街の近くはライバルも多いから、深いところなら未開拓の群生地とかあると思ったのに…」
ギリギリと裾を噛んで悔しがるエリス。
ポーションの素か、それなら割はいいだろうな。
ただ、実力不足だな。
どれどれ……
「お姉ちゃん」
「何!?キミにかまってる暇なんて…」
言い合いを続けるエリスらに声をかける。
鬱陶しそうにこちらを見るエリスだったが、俺様が差し出した物を見て言葉を無くしていた。
「えっ?これって!」
「エールベリーじゃん」
アッシュが歓声を上げる。
そう、俺様が見せたのは、両手いっぱいに摘んだ橙の木の実、2人が探していたエールベリーなる木の実だ。
「そこにいっぱいあったよ」
ニコニコしながら無邪気言ってやる。
「これ、探してたんでしょ」
「あげる」
唖然とするエリスと興奮するアッシュ。
状況が掴めていない混乱している2人に俺様がある提案をしてやる。
「代わりに、ボクを街に連れてって」
さて、はじめてのおともだちになってくれるかな




