宴の開演
狂乱にも似た熱気、歓声が湧き上がる。
その中心で三神が一柱、ギルベルトは、お得意の薄ら笑いを浮かべて、俺様たちを見下ろしている。
「…ほんとうに…謀の好きな神様だことよ」
恨み言の一言も携えたくなる。
俺様が脱落した時、ヘスティアは滅神。
そして俺様の魂は、俺様を仕留めた候補者を推挙した神に与えられる。
事を有利にしたはずの取引を、すぐさま利用してくるとはな…
「お褒めの言葉、と、素直に受け取っておくよ…で?」
「決まっている」
わざとらしく問い質すギルベルト。
いちいち確認せずとも肚は決まっている。
「その程度の条件なぞ…枷にもならんことを知らしめてやるわ」
悟られてはならない。
精一杯、不敵な笑みで答えてやる。
一拍の後、場がさらに熱気を帯びる。
軽薄な神は嬉しそうだ。
秩序の神は目を細め、こちらの様子を伺っている。
六眼の女神はやっとこちら側に正対した。
では、と高らかに右腕を上げるギルベルト。
「此度の神々の遊戯の10柱よ」
それだけ言うと喧騒が鳴り止み、1柱ずつ名乗りを始める。
「雷の神 タケミカヅチ」 可哀想な奴だ
「美の神 セレスティア」 やたらと派手な女だ
「鉄の神 ミストリヌ」 鉄か、なるほど硬そうだな
「旅の神 ゲーテ」 マントに三度笠?
「火の神 ホムラ」 所々が燃えている
「戦の神 アドラ」 ふむ、強いな
「商の神 サカヌトゥスク」値踏みする目が癪に触る
「 食の神 イド」 デカいな
「 癒の神 マイロクテクス」薬品と香草の匂い
次々に名乗りを上げる若き神たち。
そして、我が君に視線が集まる。
「き、奇跡の神 ヘスティア」
うむ。流石に噛まなかったか。
ちょっと声が裏返っていたがな。
全ての名乗りを終えたところで、ギルベルトがクスリと笑う。
掲げた右腕を降ろし、他の2人の鎮座する席に戻る。
顔を見合わせ、視線で会話する三神。
そして、
「ここに、儀式は整った」
ニュークリアが呟く。
「若き十の御柱よ」
コルトゥニスが短く告げる
「ここに我ら三神の名において――」
ギルベルトは変わらず薄ら笑いを浮かべている。
「秩序と破壊の神 ニュークリアが」
「慈愛と規律の神 コルトゥニスが」
「奸計と悪戯の神 ギルベルトが」
三神それぞれが名乗り、そして
『此度の神々の遊戯の開催を宣言する!』
高らかに開始宣言が為されると、いつの間に現れたのか。
数え切れぬ人影が、会場を埋め尽くしていた。
雄々しい歓声の中、九柱の神は恭しく頭を垂れ、次々に姿を消した。
最後に三神と我が君だけになった。
「神の誇りに違わぬよう心得よ」
「多くは望まない。やるべき事をやること」
ニュークリアとコルトゥニスはそれぞれ告げて、消えた。
「散々引っ掻き回してもらったけど、君らに期待しているよ、ヘスティア、魔王殿」
残った奸計の神が言う。
白々しいことを…さっさと消えてくれ。
「さっさと消えろ」
……思ったことが口に出てしまっていた。
それなりに腹が立っていたようだな。
ケタケタと笑いながらギルベルトが答える。
「ずいぶんと嫌われたもんだ。まぁ…」
「僕の権能でもあるからね、勘弁してよ」
少年のように舌を出して手を合わせる。
謝罪してるのか、からかっているのかわからん奴だ。
手を振って消えるよう促す。
ここで反応してはいけない。
こういう手合いは、相手にしないことが1番大事だ。
無視されたからか、肩をすくめ姿を消し始めるギルベルト。
だが、
「あ、30分ほどで下界に降ろすからね〜(笑)」
そう言うと姿も気配も霞の如く霧散した。
全くもって癪に触る男だな、彼奴は!
あと30分だと
やらなければならないことがある。
俺様に与えられる2つの特殊能力。
その内容はこの駄女神に決めさせないといけない。
しかも、直接戦闘に関わる内容はNGだとすると、色々と考えないとな…
「あの…」
全く嫌がらせが過ぎるな、あのギルベルトという神。
そもそも戦闘に関わるとはどういう制約だ?
相手への危害?妨害はどこまでだ?
装備を無力化することはどうか?
そんな単純ではないか、あの底意地の悪い奴なら対策してくるか…
「ねえ…ちょっと」
環境を変える力とか…イヤ、その行為自体が戦闘行為として認められると能力自体が死ぬな。
あまり広範囲にかかる能力ではダメだな…
「…………えい!」
思案する俺様の両頬を、冷たい小さな手で挟まれた。
「………なんだ」
「やっとこっち見た」
目を輝かせるのは我が君。
忙しいんだ、余計なことをするな。
「だからなんだ?今それどころでは…」
「ありがとう!」
は?
「は?」
不覚にも間の抜けた声が出てしまった。
ただ、ヘスティアは一仕事終えた、満足気な顔であった。
「…ちゃんとお礼してなかったから」
なんだ?
「私を舞台に立たせてくれて」
なんなのだ?
「本当に、本当にありがとう」
コイツは、本当になんなんだ。
今やるべき事を、時間がないことを、コイツもわかっているはず…
なのに……
「……礼などいらん」
やっと絞り出せたのは、それだけだった。
…クソ。
俺様ともあろうものが…




