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元魔王の異世界冒険譚  作者: Undo
第一章 魔王と神と儀式と
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300の価値

「この命を賭して――神々の遊戯(ラグナフェス)でお会いしましょう!!」


高らかに宣言する我が君。


その姿を見届けていた三神。


ニュークリアがコルトゥニスに視線を送る。


見通す女神は心底深い溜め息を吐いた。

「本心」


ふぅと息をのんで一言告げると、頭を抱えるニュークリア。


提案した身としてはなんだが、心中お察しするぞ。

まあ、俺様としては、心地よい物が見れたがな。


「で、どうするの?」

コルトゥニスが問う。

何が?と返すギルベルトに、苛立ちを隠せない女神がが続ける。


「貴方が」

「推挙した」

「若者が」

「死地に」

「赴こうとしている」

「適当な制約は許さない」


一言ずつ告げる度に、瞳が怪しく光る。

怖いな、コイツ。


今にも食ってかかろうとする勢いのコルトゥニスなぞ、どこ吹く風といった様子のギルベルト。


「さてさて、ヘスティアの覚悟も聞けたことだし…」

「話を詰めようか…魔王殿」

ギルベルトがこちらに向き直る。

口調は柔らかく、笑顔。

だが、纏う雰囲気は剣呑そのものだ。


「まぁ、こちらとしては言い分は変わらないんだけど、ヘスティアの分を差し引いて、能力値1000分の1が妥当かな」

譲歩しているようにも思えるが、まだまだだ。


「足らんな」

強気な口調でキッパリ言ってやる。


「他に何をご所望で?」

不服、いや呆れた様子のギルベルトが問う。


「能力値は100分の1、特殊能力は3つだ」

爆笑するギルベルト。

殺してやろうか、コイツ

「命と魂の消滅に対する価値として等価だと思うが?」

溢れる殺意をなんとか押し殺し異議を唱えるが、軽薄な神は端的に理由を述べる。


「キミが規格外すぎるのよ」

右手をヒラヒラと振る。


「人の身でありながら、魔王に堕ち…いやキミの場合、成ったというべきかな」

「そんな出鱈目なヤツの能力(ちから)落としとかないと、ゲームが成立しないでしょ」


つまり、俺様自身の存在が、バランスブレーカーということか…罪な男よ。


では、

「200分の1」

「ダメ」

…取りつく島もない。


能力値。

神側としても、1000がボーダーラインと考えるべきか…


……………では、趣向を変えようか。


「そうだな…キリのいい数字で…」

ふぅっと一度息を呑む。


「300分の1でどうだ」

場が静まる。

どうだ?


「どこがキリのいい数字?」

「めっちゃ中途半端じゃないか」  

憐憫の瞳が俺様に突き刺さる。

ふむ。

もう少し聡いと思っていたのだがな…


「300」

もう一度言ってやった。

澱みなくはっきりと。


「そう、300だ…」

「……我が君が遅延させた、儀式の年数と同じ数字だ」


瞬間、目を見開くギルベルト。

次いで目を細め、此方を凝視する。


「そうきたかぁ…」


大きく息を吐き、両の手で顔を隠し天を仰ぐ。

しばらく、同じ姿勢で硬直していたかと思うと、

「……飲もう」

「ギル!?」

コルトゥニスが声を上げるが、意に介さず


「三百年の遅延。その責をもって、代理人の力を三百分の一に制限する……」

ギルベルトは呟き、ニヤリと笑った。


「いい数字じゃないか。ねえ、魔王殿?」


さて?

なんのことやら。


不敵な笑みだけ見せてやると、あちらも負けずと笑顔で続ける。


「それと特殊能力も2つつけよう」

!?!???

「正気!?」

コルトゥニスが再び声を上げるが、ギルベルトは笑みを崩さない。


どういうことだ…


「その言葉に二言はないな」


「ないよ」

キッパリ言い切った。

どういうつもりだ…?


「ただ条件を2つ飲んでもらう」

なるほど、これが本命か…


「キミの能力に制限をつけることに了承してもらう」

能力の制限?

能力値の限定か?

なんにせよ、即答はできんな…


「あぁ安心して、記憶を封じるとか、喋れなくなるとかではないよ」

警戒する俺様の反応にギルベルトが説明を行う。


「あくまで、キミの()()()()()()()()()()()を課す、それだけ」

生来の能力とは?

能力値を一部封印するということか?


俺様が考察を続ける間も、ギルベルトは言葉を続ける。


「あとは、君の特殊能力だけども…」

ふと、視線を俺様から外すギルベルト。


「ヘスティア」

「へ?」

なんとも間の抜けた返事を返す我が君。

完全に油断しておったな…


「キミがどんな能力か考えること」

「え?」


突然の上司からの命令。

追いついていない頭で、完全に面食らっている。


「ただし、直接相手に危害を加える攻撃タイプや絶対防御的な戦闘タイプのものはダメだからね」

「え?え?え?」


混乱しているヘスティアを尻目に、再び俺様に視線を戻すギルベルト。


「これがこちらのできる譲歩」

どう?と言わんばかりの様相。


なるほど…

意図はわからんが


「……いいだろう」

互いに笑みが溢れる。


どうしたものかは後で考えるとして…

乗ってやろうではないか!


「魔王殿は剛毅だね、さてクリア、コル」

「…後で説明してもらうぞ」

「勝手すぎる」


睨みつける両名を軽くあしらいつつ、指を鳴らす。


空間が歪む感覚が辺りを包んだかと思うと、先刻の長机の会議場へと戻された。

突然現れたであろう俺様たちに、候補者である9柱の神々の視線が集まる。


三度怒号が飛び交う事態かと思われたが、強力な圧力がこれを思いとどまらさせた。


「では…審議の結を告げる」


ニュークリアが口を開く。

低く、腹の底を掻き回す重低音。


「此度の儀式、ヘスティア神の参加を認める」

どよめく場内。


「ヘスティア神の代理人は彼の者1名での参加とする」

「また、代理人には恩恵として、能力を2つ付与する」


どよめきがさらに大きくなる。

立ち上がり、異を唱えようするは、先刻俺様に顔面を殴られた雷神。


「納得いきませんぞ!!」

猛る雷神の怒号に他の神々も呼応する。


「此奴の戯言を通すおつもりか!」

「我ら儀式を心待ちにし、その準備を十二分に行なった」

「伝統を重んじ、神威を鍛え、選りすぐりの候補を選抜してきたのですぞ」

それをと呟き、俺様たちを一瞥する。

あぁ、虫か何かを見るような目だなコイツは…

もう1発いっとくか?


「かような特例をお認めになるのなら、いかに三神の貴方方の裁定とて、安易と容認できるものではございませんぞ」

ご立派な高説賜っているが、要は1人だけ制度の抜け道すり抜けるのを認めるなんて許せない。

ルール守れよ。

ってことだろう。


ごもっとも。…

ただ、

「タケミカヅチらの申す異、もっともである」

「では…」

「だが、此度のこの者の異についても、もっともである」


その辺りはすでに解決済みなのだよ。


「代理人を3名擁立できると規定にあるが、最低人数についての議を上げておらなんだのも事実」

「また、恩恵についてであるが、参加人員の不足を補うべく、特定の制約を課すことで、複数の恩恵を与えることとした」

「よって、今回に限り、この者1名での参加を認めることと議を決したものである」


淡々と要点を説明するニュークリア。

両隣の二柱は片やニヤニヤして様子を見る、片や目を伏せて静観していた。


ニュークリアの説明にある神は静観し、ある神は怒声に応えるなど静観が半分、異議が半分くらいにはなったが、納得を得られたとは言い難い状況だ。


「それでも納得いきませんぞ」


雷神タケミカヅチの反発は衰えることはなかった。

無理もないな、あれだけイキり散らかして、俺様相手に無様な醜態を晒したのだ。

神の面目丸潰れだからな。

哀れ。


ニュークリアが、タケミカヅチをひと睨みする。

流石に、苛立ちが見えた。


部下が上司の決定に散々異議を唱えているんだ、苛立ちもするか。


気迫に負けず、肩を怒らせながら声を上げる。

「そもそも此奴が、人間であるかも甚だ疑わしきこと」


ほう?

「どういうことだ?」

ニュークリアが問う。


知れたことと言の葉に力がこもる。

「貴方方が審議の最中、我々で此奴の素性を調べておりました」

「結果、此奴の前世は魔王、魔族であると」

「つまり、儀式に必要な人間ではないということがわかりました」


ほうほうほうほう。

流石は神だと感心しようか。


名乗りこそしておらんが、魔王を名乗りはしておらんかった。

異世界の事象をこの短時間で調べてしまうとはな。


「さて、この異議はいかにされるのか」

「それについては…」

さて、どう答える?


目を閉じて少し考えるニュークリア。

そして、

「委細問題ない」

「!!!!?」


ニュークリアの放った答えに一同固まる。

一瞬の静寂。

そして、感情が爆発する。


言葉にするのも憚られる内容が飛び交う中、ニュークリアの隣から声が上がる。


「静粛」


鉄火場となった空気が一気に冷えるのを感じた。

六眼の女神がスゥッと辺りに視線を送る。


「私が、観た」

冷たい声音。

とても冷酷な声だった。


「その結果」

ただそれだけ言って、再び目を閉じて静観の構えを取る。

言葉を失う神々。


怖すぎるだろあの女神…


「で、では、」

静寂の中、まだ声を上げるタケミカヅチ。

コイツまだやるか……逆にすごいな。


「制約とは何かお聞かせ願いたい!」

振り絞った勇気を言葉に乗せている。

なぜだろう、応援したくなってきた。


「制約か…」

ニュークリアが呟く。

隣でヘラヘラしている軽薄な神に視線を送る。

お前が言えと言わんばかりの無言の圧が感じ取られる。


「制約は、代理人の生来の能力の制限」

「与える能力は直接戦闘に関わるものでなく、また、ヘスティア神が熟考すること」

「課せられる能力の減退値を、300分の1とすること」


ギルベルトが高らかに宣言する。

その最中、


「三百年も儀式を遅らせた罰が300分の1?三神様も随分とお優しいことで」


誰かが言った。

確かに聞こえた。

おそらく三神たちにも。


そうだろうよ、だがな…。


「加えて、此度の神々の遊戯(ラグナフェス)において、ヘスティア神の代理人が脱落したと認められた時、ヘスティア神を滅神、代理人の魂を我らが神の園の糧とする」


神の命と、魔王の魂。


その両天秤があるのであれば、異議はなかろうよ。


口端が吊り上がるのを感じる。


なんとか、ここまで漕ぎ着けた。


能力値は三百分の一。

特殊能力は二つ。

我が君の参加も認められた。


上々。




いや――

……待て。


なんだ?

この違和感は。


ふと、視線を上げる。


――未だ壇上に立つギルベルト。


目が合った。

……多分。


「そして!」

嫌な予感がした。


「彼の者を打ち倒した候補者には、その糧を得る権利を与えるものとする!」

瞬間、今までの怒号が、歓声へと変わった。


やってくれたな…


狂乱にも似た賛美の奥で、軽薄な神が不気味な笑みを浮かべている。



いいだろう…存分に舞ってやろうではないか!

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