女神という役者
「命を賭ける……?」
本当に理解できないといった様子のニュークリアとコルトゥニス。
傍らでは、ギルベルトが目を輝かせている。
涙いっぱいの瞳で三神の御前に立つ我が君。
フゥフウと荒い息づかいがなんとも勇ましい。
「はい!」「待て待て待て」
元気いっぱいに返事をするヘスティアに、ニュークリアが思わずツッコミを入れる。
困惑してるなぁ。
「ヘスティア」
「ハイ!」
「命を賭けるとは、儀式に参加するということか」
「ハァイッ!」
「その意味はわかっているのか」
「ハイ!」
「あの者が敗退すれば、貴様は滅神されるのだぞ」
「パァぁいい!!」
「ハイ以外申せ!」「少し落ち着きなさい!」
収拾がつかん。
慌てふためくニュークリアとコルトゥニス。
ダメだ。
コイツ、本当にダメだ。
とんだ駄女神じゃあないか。
笑いを堪える俺様の傍らで、同じ胸中であろうギルベルトは机を叩いて大笑いしている。
――――――――
「落ち着いたか」
肩で息をする二柱。
正座からの土下座が絵になる我が君。
……この姿しか見ていない気がするな。
「さて」
コルトゥニスが口火を切る。
「改めて聞きましょう、ヘスティア神」
「本当に儀式――神々の遊戯に参加するつもり?」
頭を上げ、立ち上がるヘスティア。
三神に改めて向き直り、
「はい。未熟な女神の末席である私ですが、此度の神々の遊戯に参加させていただきたく存じます」
法衣の両裾を摘み、深々と首を垂れる。
その様子を、三者三様の表情で見守る三神。
「何故だ」
ニュークリアが問う。
「何故、そこまでこだわる」
コルトゥニスがヘスティアを視る。
ギルベルトは口を塞ぎ静観している。
「何故って……」
問いかけに、ふと俺様の方へ顔を向ける。
視線が合う。
泣き腫らした目が真っ赤になっている。
全く情け無……
「彼は、私を笑いませんでした」
ヘスティアは言った。
「彼は私を神として見てなくて、駄女神とか、失礼なことも言われました」
細々とした声音だった。
だが、不思議と耳に届く。
「でも、私の神の頂への願いを……ずっと皆さんに笑われてきた、わ、私を……!」
震える声。
「ちっぽけな女神とか、大したことのない願いとか、ずっと言われ続けて……自分が信じられなくなって」
顔は俯いたまま。
「いつの間にか、笑って誤魔化す自分がいて……それが時間をおいて、胸に刺さってくるんです」
「誰に言われてもいい!」
声が弾けた。
「でも、自分がそれを認めつつあったのが、とっっっっても! 辛くなって……もう……いいやって、思ったんです」
……なんだ。
コイツは、こんな声も出せたのか。
「自分で自分を信じられなくなった時、彼は! 笑わずに! 最後まで!! 聞いてくれたんです!」
「だがらっ!」
噛んだ。
だが、誰も笑わない。
「ここで、私が命を賭けなきゃ! 私が私じゃなくなってしまうんです!」
俯き、泣きじゃくっていた小さな女神が顔を上げ、吠えた。
さっきまでの小さな神が、何処となく大きく、頼もしく見える。
なんだ。
そんな表情もできるんじゃあないか。
「私は!」
再び吠えるヘスティア。
その瞳に、もう怯えはない。
三神が見定める中、爛々と瞳を輝かせる。
「もう自分から逃げたりしません!」
さらに一歩。
大きく歩を進め、高らかに宣言する。
「この命を賭して――神神々の遊戯でお会いしましょう!!」
……思わず、笑みがこぼれてしまう。
ここまで化ける馬鹿になるとは……。
全く。
大した役者だことよ。
退屈せずに済みそうだ。
さて――大詰めといくか。




