魔王の覚悟
「命を賭ける……?」
珍しく余裕のない表情をするギルベルト。
ニュークリアも驚いた様子である。
コルトゥニスはジッと六眼で刺してくる。
「それは…」
「文字どおりだ」
キッパリ言ってやる。
「神々の遊戯で俺様が万が一、敗北した場合、この命を、魂をお前たちにくれてやる」
三神が口を開く前に、言の葉を続ける。
「身体は朽ち果てようとも、この魂には俺様が紡いだ魔王としての血肉、叡智、魔力の全てが刻まれている」
「三千世界にと謳われた、我が魂。神々の遊戯で敗北または、ヘスティアを神の頂に導かなければ、貴様らにくれてやる!」
言葉はないが、衝撃を受けている三神。
ここで畳かけるが吉だな。
「加えて、我が君の命も担保とさせてもらう」
「は?」
「え?」
視線がヘスティアに集まる。
ヘスティアも「聞いてないよ」「なんのこと」と俺様を見るが、それはそうだ。
なんせ、今思いついたからな。
交渉は大詰め。
大胆かつ、突飛な内容である。
無論、提示された側は、
「それを信じろと?」
当然、疑う。
苦し紛れのハッタリだと。
だが、
「……ありえない」
コルトゥニスが呟く。
それだけだ。
ただ、
「………やってくれるね魔王殿」
いい顔をしてくれるじゃあないか。
思わず口端が綻ぶ。
好きになりそうだぞ。
存外、見通す力とは便利じゃないか。
「本気で言ってる?」
「キミとヘスティアの命にそこまでの価値があると?」
「ある」
ハッキリと言ってやる。
「神の頂とは、世界の理を変えると同義、世界の改変には大きなエネルギーがいる」
「そのエネルギーが確保できるであろう俺様の魂はそれだけで価値がある」
「さらに、異界の魔導をはじめとしたあらゆる知識、魂に刻まれた知識が必要ないとは言わせん」
目を細めるギルベルト。
「それはキミが負けた場合の話だよね」
まあ、そこをつくしかなくなるよな…
だが、
「ヘスティアが神の頂にたてば、眷属である俺様の知識や能力をヘスティアは知るのだろう?」
「勝っても負けても、貴様らの世界の発展には繋がると思うがな」
先ほどヘスティアの見せた世界の様子。
時代。
文明。
風土。
その端々に違和感があった。
色々な文化が重なった印象があった。
過去の転生者からの記憶を反映しているのだとはと推察していたが、これで確信になったな。
「なぜ、そこまで…」
なぜ?
愚問だな…
「魔王としての矜持…いや…」
おそらく、笑っただろう。
大昔の自分が背中を押したから、
「俺様の、人の意地なだけさ」
神様にはわからんさ…
紡ぐ言葉を選ぶギルベルト。
交渉を有利にしたいのだろうが、かかってくるがいいさ。
――――――。
「ヘスティアの命も賭けさせたのは?」
ニュークリアの問い。
…こいつは…単なる情動が判断基準ではないのか?
「俺様はこれまでの経緯で、この駄女神が引き起こしたことが原因だと思っている」
「慣習を重んじる貴様らの溜飲を下げるには、こいつ滅神でも賭けんと、他の神々が納得せんだろうよ」
ふぅと息が漏れる。
隣で生まれたての小鹿よろしく震える我が君は、また泣きそうな顔になっている。
相談する時間なんかなかったのだから、仕方あるまい。
俺様の意見に一考した後、ニュークリアが向き直る。
「ヘスティア」
「ッッヒャイッッ!」
変な声でたな。
「この者の発言、貴様はどう答える」
三神の視線がヘスティアに集まる。
滅びか、無謀への挑戦の後死ぬか。
望みの薄い賭け。
ウゥァァァウゥとなんとも言えない唸り声で、グネグネうごめくヘスティア。
……覚悟なぞ決まるはずもないか。
控えめに言って見苦しい我が君を一瞥するニュークリア。
「…辞退するも1つの道であるぞ」
「クリア!?」
ギルベルトとコルトゥニスが声を上げる。
驚いたな。
いずれ妥協案が出るとは思っていたが、まさかコイツからこの案が出るとは。
コイツが一番堅物だと思っていたのだがな。
「何を…」
ギルベルトを意に介さず、ニュークリアは続ける。
「まともな信徒を集めず、負けとわかっている者に無謀な挑戦をさせることがこの儀式の趣旨ではない」
「神が命を賭けるなど、前代未聞」
「そのような無駄な事をせず、自らの神威を磨き、出直すことが必要とわかったであろう」
「此度の責の沙汰は追って下すとして、今一度神としての矜持を見つめ直すのであれば良しとしよう」
なんと甘美で、慈悲深いことだろうか。
これだけ引っ掻き回した下級神に対して、かなりの温情なのがわかる。
なんせ、さっき滅神されそうになったしな。
「クリア!」
「ギルベルト、干渉しすぎるな」
声を荒げるギルベルト。
それを諌めるニュークリア。
「次代の主神を決めるが神々の遊戯が本分」
「主の御心を忘れることなく、裁定者としての責を全うせよ」
「クリアに賛同」
コルトゥニスが続く。
「ギル、貴方の言い分もわかる」
「でも、あなたが主演の舞台ではないのだから」
髪をグシャグシャに掻きむしり、天を仰ぐギルベルト。
予定外の援護で、コイツの毒が抜けたか?
「あーあーあーあー」
「じゃーあぁ、もう、それでいっかー」
大仰に机に突っ伏すギルベルト。
「ヘスティア、どうする?辞退する?」
ヒラヒラと右手を振りながら、わかりやすく拗ねている。
他のニ柱はため息をついている。
コイツ…悪戯がバレたか、オモチャが取り上げられた子どもみたいにやる気がなくなったな。
ヘスティアにすれば、上司が妥協案を示した形だ。
事実上のお咎めなし。
俺様というイレギュラーに時間を割くよりこの方がマシということか。
……せっかく、決めてきたのにな…
あとは、また虚空に戻るだけか……
「ぼ、ぼぐ、は……」
泣きながら三神の前に立つ。
俺様を支えにはせず、一歩、一歩前に…
「………僕も!命を賭けまぶ!」
なんと。
なんと、なんと。
なんとなんとなんとなんと。
……本当に。
本当に驚かしてくれる!
最低な我が君だことよ!




