その1 急がば廻れ右(パート3)
「お前、何を聞いていたのだ」と、おれは叫んだ。「ゴールは真西にあるのだ。東ではない。東では、ゴールとは反対方向だ」
「艦長」と、副艦長、つまり妻は言った。「モニター画面を見て。この惑星の様子は地球そのままよ。重力も1G。
この惑星は地球のコピーよ。
きっとこの惑星の円周は約4万キロ。西に向かって発進すればゴールまで3万7500キロでも、真東に発進すれば約2千5百キロでゴールに着くわ。他の船が飛行距離が3万7500キロで、こっちは2500キロでいいなら充分にレースに勝てるわ。いや、これしかこのレースに勝つ方法はないわ!
急がば回れ右よ」
「間違いなく、真東に発進すれば2千500キロですむのか?
真東に発進したら、ゴールまで3万7500キロ以上あるなんてことは絶対にないのか?」と、おれ。
「それは分からないわ」女房は、肩を竦めて言った。「真西にするか、真東にするか?賭けをしないで、正攻法で攻めても勝てるかも知れないわ。
それを決めるのは、艦長のあなたの仕事よ」
おれは迷った。
でも、もう迷っている時間はなかった。コンピュータを操作し、おれは第一候補として方位090・000真東と、第二候補として方位270・000真西を選択できるよにセットした。つまり、問題を十秒ほど先送りにしたのだ。
おれは、そういう性格なのだ。
「十秒前」と、無線機が言った。「九・八・七・・・・」
おれの心臓は爆発しそうだった。「三・二・一」
おれは決断しコンピュータにタッチしようとした時、何か黒い影がおれの視界をよぎった。
「ゼロ!」
おれは「あっ!」と悲鳴を挙げた。おれの宇宙船クーガが急発進し船体が大きく揺れたが、発進ボタンをおれではなかったのだ・・・。
発進ボタンを押した黒い影は猫のクーガだった。そして偶然か、彼女の意思かによっておれの宇宙輸送船クーガは真東に向かって発進したのだった。それは、おれの選択とは逆だった。おれは正攻法でレースに参加するつもりだったのだ。
と言って、今更、方向転換する気にもなれなかった。
おれの船の横にも、前にも、後にも他の船は無かった。状況も分からずゴールとは反対方向に発進するなんて無謀・無計画なことをする者などそう多くはないだろう。
後方で爆発が幾つか起きたのをセンサーが感知した、早速、レース参加者同士間で事故が発生したらしい。
おれは普段は決して口にしない言葉を呟いた。「神様、助けてください」おれの宇宙輸送船クーガにはまともな武器などない。もし、他のレース参加者や未知の異星人から攻撃されたらひとたまりもない・・・。
でも、おれの宇宙輸送船クーガには何も起きなかった。何を血迷ったかゴールとは反対方向に飛び出した飛行能力が明らかに劣るちっぽけな宇宙船など、他のレース参加者に興味などなかったのだろう。




