その1 急がば廻れ右(パート2)
自分の船を失った艦長が「この野郎!」と叫び、野蛮な異星人の使いの者に襲い掛かった。使いの者はひょいと体をよじって自分の船を失った哀れな艦長の攻撃を避けると、艦長の腹に強烈な蹴りを入れた。艦長はその場に崩れ落ちた。
彼はにやりと笑い、今度は右目を閉じウインクした。
同時に艦長の姿が消えた。
彼が言った。「残りの皆さんは、我らの国王が開催されるレースに参加していただけますね?」
おれは思わずうなずいた。残った他の艦長も同じだった、当然のことながら・・・。
「それではレースの概要を説明しましょう・・・。
ここから真西約3万7500キロに古城があります。皆さんの船の方位センサーは復旧していますから、問題ありません。古城の中央の一番高い塔に、我らの王国の旗がはためいています。城まで50キロまで近づけば、信号を捉えることができますので、迷うことはありません。
旗を最初に手にした者が、このレースの勝者です。
ルールは、飛行高度は1・5万メートルを超えないこと、だけです。これは特定のレース参加者に不利にならないためです。まだその参加者にはまだ不利ですが(この時、彼の視線がおれにあるのが分かった。)、これ以上はどうしようもありません。その参加者の健闘を祈ります。
皆さんの船の計器は全て復旧していますから問題ありません。
レースは常に我々がモニターしています。もし、皆さんの船が唯一のルール高度1・5万メートルを超えた場合、どういう結果になるかもうご存知だと思います。
3万7500キロは、けっして短い距離ではありません。途中にいろいろな障害、トラブルが発生するかも知れません。レース参加者同士間で事故が発生するかも知れません・・・。
我らが偉大なる国王は、今回も面白いレースになることを期待されています。
“今回も面白いレース”とはどういう意味だろう、おれはぼんやり考えた。
それでは、十分後にレースのスタートです。レース開始は無線で連絡します。レースがスタートした後は何が起ころうが私どもは関知しませんが、フライングは許しません。
それでは皆さん、それぞれの船に戻って準備してください」
誰かが彼に聞いた。「勝者にはそれなりの報酬を提供されるのは分かったが、敗者はどうなるのだ?」
「いい質問だ!」
そう言うと何も答えずに、彼は現れた時と同じように突然消えた。
おれは宇宙輸送船クーガに戻ると、詳細を副艦長とお袋に話した。副艦長もお袋も宇宙艦一隻が突然消えたことは承知で、ただ事ではないことは理解していた。
「レースに参加するしかない!」と、おれは言った。
誰も異議がなかった。
それから、レース参加者の誰かの質問に野蛮な異星人から“いい質問だ!”としか回答がなかったことは、副艦長にもお袋にも言わなかった。ただ、猫のクーガには、お袋と副艦長が席を外した一瞬に全てを話した。おれ一人の秘密にするには、あまりにも事が重大だった。猫のクーガはおれの話を理解したのかニャーゴと鳴いた。
「私たちは、真東に向かって発進しましょう!」と、突然、副艦長、つまり女房が席に戻ると言った。




