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箱庭都市のソウルゲーム ~壁越しに出会った彼女と、俺は~  作者: YY


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16/23

第16話 結び直す

 エントリー締め切り日の、朝8時。

 まずはいつも通りのアナウンスが流れ、人数変動がないことが確定した。

 そのことに対する安堵が、集落の中に満ちる。

 だが、それは短い時間だった。

 何故なら、今日の本番はこのあと。

 俺自身、ガレンたちとともに魔映盤を眺めながら、鼓動が激しくなるのを止められない。

 それでも、平静を装っていた俺の目と耳に、決定的な映像と音声が飛び込んで来る。


『バトル大会へのエントリーを締め切りました。参加者一覧は、魔映盤にてご確認下さい。尚、組み合わせの発表は、3日後の大会当日となります』


 来た。

 喉が、ゴクリと鳴る。

 視線を魔映盤に固定していたが、俺の意識はそこにはなかった。


「薄々、そんな気はしていたが……どう言うことだ、セシル?」


 隣に立ったガレンが、見下ろすようにして、重く低い声を発した。

 途轍もない威圧感を受けつつ、真っ向から視線を交換する。

 腕を組んだ彼は明らかに怒気を孕んでおり、下手な言い訳は出来ない。

 そこに今度は、エルナが転びそうになりながら、駆け寄って来た。


「お兄様!? 何かの間違いですよね!? 早く『サーカス』に言って、取り消してもらいましょう!」


 彼女は目の前の現実を受け入れられておらず……いや、本当に手違いだと信じているらしい。

 そんな彼女を痛ましく思いながら、咄嗟に言葉が出て来なかったが、それでは駄目だ。

 俯きそうな顔をしっかり上げて、ガレンとエルナ、そして無表情で黙っているフローラを、順に見据える。

 そして、掠れそうになる声を、無理やり絞り出した。


「謝罪して済むとは思っていないが……すまない。俺は皆を裏切って、自分の意志を貫き通した」

「どうしてですか!? わたくしには、出るなと仰ったではないですか!」

「黒区が勝つ為には、優勝によるポイントはやはり欲しいと考えた。だが、皆には危険な目に遭って欲しくなかった」

「そのようなこと、頼んでいませんわ! わたくしたちが、お兄様にだけ危険な目に遭わせて、喜ぶとでも思っていたのですか!?」

「思っていない。これは、俺のエゴだ。……本当にすまない」

「お兄様の馬鹿! アホ! おたんこなす! もう知りませんわ!」


 そう言いながら、涙を流して縋り付いて来るエルナを抱き締めようとして、手を止める。

 今の俺に、そんな資格はない。

 辛い顔をする資格もない。

 正面から、彼らの怒りや非難を受け止めること。

 それが、最低限の責務だ。

 ガレンは、過去に見たことがないほど険しい顔で、俺を睨んでいる。

 一方のフローラは、感情の窺い知れない顔付きで歩み寄って来た。

 彼女の様子を訝しく思ったのか、エルナは泣きながら俺から離れている。

 やがてフローラは、俺の正面に立ち――パン、と。

 気付いたときには、左の頬がジンジンとした熱い痛みを発していた。

 辺りのプレイヤーも驚愕していたが、気にする余裕はない。

 無意識に頬を押さえて、呆然とフローラを見つめる。

 このときの彼女はいつもの優しい笑みじゃなく、柳眉を逆立てた厳しい表情を浮かべており、口調すら変えて言い募って来た。


「セシくん、貴方は自分の命を何だと思っているの?」

「フローラ……?」

「答えなさい」

「……考えたこともない」

「そんな言葉で逃げないで。今、考えなさい」

「……死にたくはない。だが、皆が生き残る為なら、懸けても良いと思っていた」


 フローラの刺すような視線に耐えられず、とうとう下を向いてしまった。

 情けなくて仕方ないが、彼女はまだ言い足りないらしい。


「そうすることでどんな影響が出るのか、本当にちゃんと考えた? セシくんが死んじゃったら、わたしたちがどう思うか、わからないの?」

「……すまない」

「それだけじゃないわ。仮に貴方が優勝したとしても、わたしたちが裏切られた事実は変わらない。区画ポイントを得られても、関係は壊れてしまうかもしれないの。そこまで想像出来ていたかしら?」

「それは……出来ていなかった……」

「セシくんは頭も良いけど、今回の判断は最低よ。反省しなさい」


 フローラの痛烈な言葉を、胸に刻み込む。

 近くからはエルナの嗚咽が聞こえて来ており、後悔の念が湧いた。

 もう、手遅れかもしれないな……。

 俺は自ら、大事なものを壊したんだ。

 せめて、命懸けで優勝するしか――


「でも……セシくんの気持ちは、ちゃんと届いたわ。有難うね」

「……ッ! フローラ……」

「完全に許した訳じゃないし、駄目なものは駄目よ? けど、それとこれは別だから」


 フローラに優しく抱き締められて、不覚にも泣きそうになった。

 荒んで、追い詰められて、独りよがりになっていた俺の心を、解きほぐして行く。

 改めて自分が愚かな選択をしていたと、実感している俺の脚に、エルナがしがみ付いて来た。

 視線を移すと、目を真っ赤にして頬を膨らませた彼女と目が合う。

 エルナは何も言わなかったが、何を求められているのかは、不思議と察せられた。

 おっかなびっくり手を動かし、彼女の頭に載せる。

 エルナは不機嫌そうにプイっとそっぽを向いたものの、刺々しい様子がほんの少し和らいでいた。

 思わず苦笑をこぼしそうになったが、問題が解決した訳じゃない。

 フローラとエルナから距離を取り、強い眼差しを送って来ているガレンと相対する。

 今度こそ、全てを受け止めるつもりで背筋を伸ばした。

 俺自身よりも、周囲のプレイヤーの方が緊張するほどの、張り詰めた空気。

 そのまま、どれだけの時間が経ったのか。

 頬を一筋の汗が伝い落ちる。

 それでも、頑として目を合わせ続けた俺に、ガレンが大きな溜息をついた。

 そして、やや気まずそうに目を逸らして言い放つ。


「ホントに、しょうがねぇ奴だな。だが……実のところ、俺はあんまり責められねぇんだよ」

「え……? どう言うことだ?」

「だから、俺も同じことをしようとしたってことだ。お前らには不参加って言っておいて、自分だけ出ようってな。ただ、そんな自己犠牲は間違いだと思って、やめたんだよ」

「……そうだったのか」


 ガリガリと頭を掻きながら告げられた事実に、俺は何と答えたものか迷った。

 ただ、ガレンのような男と同じ考えに至ったこと自体は、悪くないのかもしれな――


「えい」

「ぶッ!? 何すんだよ!?」

「考えただけでも同罪よ。ガレンさんも、反省しなさい。じゃないと、セシくんが勘違いするかもしれないから」


 ガレンに強烈な平手打ちを喰らわせたフローラから、冷ややかな目で見られた。

 見透かされているな……。

 ゴクリと喉を鳴らして頷くと、やっとフローラは見慣れた笑顔に戻り、普段の調子で言葉を紡ぐ。


「それじゃあ、仲直りしましょう~。皆、手を出して~」

「手、ですの?」

「そうよ、エルナちゃん~。全員が輪になって、手を重ねるの~」

「良くわかんねぇが……今回ばかりは、大人しく従うしかねぇな」

「殊勝な心掛けね、ガレンさん~。ほら、セシくんも早く~」

「あ、あぁ、わかった」


 豹変したフローラに戸惑いつつ、言われた通りに手を前に出して、1番上に載せた。

 するとフローラは笑みを1段深め、殊更にゆっくりと言葉を口にする。


「わたしたちは、パーティよ~。秘密や隠し事は、あっても構わないわ~。でも、本当に大事なことは、ちゃんと相談すること~。決して1人で、抱え込まないで~。わかった~?」

「はいですわ!」

「あー……了解だ」


 フローラの確認に、エルナは満面の笑みで即答し、ガレンは若干困ったように了承した。

 そして、俺は――


「誓う。もう2度と、裏切らない」


 強く言い切る。

 そんな俺に、フローラとエルナは微笑んでくれて、ガレンには乱暴に頭を撫でられた。

 こうして俺たちは、千切れかけた絆を結び直す。

 それまでの暗澹たる雰囲気は消し飛び、気力が充実して来た。

 誰からともなく、手を離す。

 少しの間を置いて、最初に口を開いたのはガレン。


「おし、そんじゃ行くか」

「行く? どこに行くんだ?」

「あのな……。お前、自分の立場をわかってんのか? もしかしたら相手に、化物みてぇな異能者がいるかもしれねぇんだぞ? 当日までに、少しでも強くなるしかねぇだろうが」

「あ……。そうだよな、すまない……」

「まったくもう~。セシくんって、ときどき抜けてるわよね~。仕方ないから、わたしも手伝ってあげる~」

「わたくしは、まだ納得出来ていませんが……。こうなったからには、全力でサポート致します! お兄様、覚悟して下さい!」

「フローラ、エルナ……。そうだな、やるしかない。お手柔らかに……いや、厳しく頼む。皆もまだまだ不満は残っているだろうから、思い切りぶつけてくれて良い」

「はは! わかってるじゃねぇか。荒療治にはなるだろうが、強くしてやるよ」


 俺の背中をバシッと叩いて、ガレンは森の方へ歩き出し、エルナとフローラも続く。

 荒療治か……。

 何をするのか知らないが、望むところだ。

 両拳を軽く打ち合わせてから、わざと強く地面を蹴る。

 その際、魔映盤にルージュの名前がなくて安心したが――


「ティア……」


 彼女の名前が表示されていて、戦意が挫かれそうになる。

 だが、ガレンたちの想いを、無駄にする訳には行かない。

 自分で自分に喝を入れて、彼らを追い掛けた。

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